月翡翠の薄片と、冬に鳴く蝉の音
学園の図書室で、柚花は「月翡翠の薄片」と呼ばれる小さな板を見つける。指で弾くと、薄片は遠い土地の音を吐き出し、持ち主の心の穴へ入り込もうとする。拾っただけのはずなのに、耳の奥に砂を入れられたみたいに言葉が出にくい。止め役を買って出たのは同級生の奏音だ。奏音は栞代わりに薄片を挟み、「持ち歩くな。噛むな。舐めるな」と変な注意書きを読み上げて笑わせる。
冬の夕方、二人は校門前の検問所で通行札を受け取り、荷馬車に紛れて鉱山都市へ向かう。街道は霜で白く、息は短く切れ、革靴の音だけがやけに大きい。途中の関所では兵隊が薄片を探して荷を叩き、奏音は荷台の毛布を「祖母の形見」と言い張って抱きしめ、柚花は笑いそうになって咳き込む。坑道では粉じんが喉に貼りつき、鳥舎では羽の匂いが鼻に残り、柚花は自分の名前さえ遠く感じて立ち尽くす。薄片を狙う兵隊や商人に囲まれながら、柚花は「忘れたら戻れない」と焦り、奏音は冗談で息継ぎの間を作って手を握る。やがて敵の首都の地下書庫で、薄片に刻まれた「夏の蝉の音」が冬の空気に滲み出し、柚花の記憶を吸い上げ始める。追い詰められた瞬間、奏音は柚花の癖を一つずつ読み上げ、紗里奈の逆位相の歌と順一郎の場違いな一言が割り込む。薄片を返却箱へ戻した二人は夜明けの学園へ帰り、震える手で次の授業のノートを開く。
冬の夕方、二人は校門前の検問所で通行札を受け取り、荷馬車に紛れて鉱山都市へ向かう。街道は霜で白く、息は短く切れ、革靴の音だけがやけに大きい。途中の関所では兵隊が薄片を探して荷を叩き、奏音は荷台の毛布を「祖母の形見」と言い張って抱きしめ、柚花は笑いそうになって咳き込む。坑道では粉じんが喉に貼りつき、鳥舎では羽の匂いが鼻に残り、柚花は自分の名前さえ遠く感じて立ち尽くす。薄片を狙う兵隊や商人に囲まれながら、柚花は「忘れたら戻れない」と焦り、奏音は冗談で息継ぎの間を作って手を握る。やがて敵の首都の地下書庫で、薄片に刻まれた「夏の蝉の音」が冬の空気に滲み出し、柚花の記憶を吸い上げ始める。追い詰められた瞬間、奏音は柚花の癖を一つずつ読み上げ、紗里奈の逆位相の歌と順一郎の場違いな一言が割り込む。薄片を返却箱へ戻した二人は夜明けの学園へ帰り、震える手で次の授業のノートを開く。
第1話 図書室に届いた「届かない手紙」
2026/01/04 07:10
第2話 ハート泥棒の手口は「優しさ」だった
2026/01/04 08:10
第3話 前線行き通勤列車、図書委員は軍靴で乗る
2026/01/04 09:10
第4話 燃やされたはずの手紙、灰が泣いている
2026/01/04 10:10
第5話 潜入の第一歩は、図書カードの偽造から
2026/01/04 11:10
第6話 招待状の差出人は、敵か味方か
2026/01/04 12:10
第7話 ノースリーブと蝉の声、夏の偽装が始まる
2026/01/04 13:10
第8話 図書館祭へ、笑って潜る
2026/01/04 14:10
第9話 ハート泥棒は、図書館の地下にいる
2026/01/04 15:10
第10話 奪われた心を取り返す言葉
2026/01/04 16:10
第11話 月翡翠鉱山都市、笑顔の裏で誰が泣く
2026/01/04 17:10
第12話 図書委員、鉱山の図書室を作る
2026/01/04 18:10
第13話 同じ袖章、別の国
2026/01/04 19:10
第14話 敵の案内人は、図書カードを持っていた
2026/01/04 20:20
第15話 操作手順の最後に書かれた、たった一行
2026/01/04 21:20
第16話 潜入は笑顔で、退路は冷静に
2026/01/04 22:20
第17話 伝書鳥を救うか、証拠を取るか
2026/01/04 23:20
第18話 戦は終わらせない方が儲かる
2026/01/05 00:10
第19話 味方司令部印、裏切りの匂い
2026/01/05 01:10
第20話 声を盗む者、心を盗む者
2026/01/05 02:10
第21話 敵首都の中央図書館、静かな戦場
2026/01/05 03:10
第22話 図書カードは嘘をつかない
2026/01/05 04:10
第23話 ハート泥棒の保管庫に、夏の音がない
2026/01/05 05:10
第24話 脚環の山は、誰の涙で光る
2026/01/05 06:10
第25話 味方の合言葉、味方の顔じゃない
2026/01/05 07:10
第26話 通勤列車に乗る、秘密の読み物
2026/01/05 08:10
第27話 検閲官は笑わない、だから笑わせる
2026/01/05 09:10
第28話 蝉の声で止まる装置、蝉の声で動く心
2026/01/05 10:10
第29話 共同会議は地下、正義も地下に埋められる
2026/01/05 11:10
第30話 戦記は剣じゃない、でも刺さる
2026/01/05 12:10
第31話 伝書鳥の網は、剣より速い
2026/01/06 07:10
第32話 燃える鳥舎、燃えない約束
2026/01/07 12:10
第33話 図書委員、図書室を要塞にする
2026/01/08 12:10
第34話 黒幕は本を愛していた、だから厄介
2026/01/09 12:10
第35話 国が割れても、心が空っぽよりまし
2026/01/10 12:10
第36話 奪う装置、守る声
2026/01/11 12:10
第37話 消えた一部は、図書室の外にある
2026/01/12 12:10
第38話 敵の図書係、最後の配達を頼む
2026/01/13 12:10
第39話 終戦の配達先は、司令部じゃない
2026/01/14 12:10