第19話「体育祭の波乱」
体育祭当日。校庭はカラフルなテントと生徒たちの歓声で埋め尽くされている。青空の下、トラックではリレーの練習走が始まり、応援団の声が響き合う。俺、存在感ゼロのモブは、観客席の隅に陣取り、佐藤健太――改変モブ2号をガン見している。昨日、俺が仕掛けた準備リストの細工で、藤堂翔と高嶺美咲がリレーの同じチーム、アンカーとその前で走る配置を死守した。原作通りのラブコメ展開を守るためだ。でも、佐藤の「リストに細工があったかも」って言葉と、モブ連合の「次のプラン」が頭から離れない。
(佐藤、今日絶対何か仕掛けてくる。モブ連合の指示で、リレーの展開をぶっ壊す気だな)
朝の開会式。佐藤はクラスの応援団として、旗を振って盛り上げてる。ニコニコ笑顔で「みんな、気合い入れていくぞ!」とか叫んでるけど、俺にはその裏の計算が見える。奴の視線が、藤堂と美咲が準備運動してるトラックの方にチラチラ向かう。美咲がストレッチしながら藤堂に「遅れないでよね」と笑うと、藤堂が「ヒロイン様に置いてかれないよう頑張ります!」と返す。完璧な原作の空気。でも、佐藤のあの目、絶対何か企んでる。
(リレーで何か仕掛けるなら、バトンパスか?それとも、もっと大胆な何か?)
俺のモブの勘がビンビン警報を鳴らす。親睦会では、俺のくじ引き細工で佐藤のペア操作を潰したけど、奴はモブ連合に「細工があった」と報告済み。俺の存在感ゼロがバレかけてる可能性がある。今日は、もっと慎重に動かないと。
リレーの時間が近づく。クラスのテントで、藤堂と美咲がバトンパスの練習してる。「翔、タイミングしっかり合わせてよ!」と美咲が言うと、藤堂が「任せとけ、俺のバトン受け取れよ!」とニヤリ。原作のあのシーン、今日ちゃんと再現されるはずだ。俺は、観客席から佐藤を監視。奴が、体育委員と何か話してる。耳を澄ますと、「リレーの順番、ちょっと変更してもいい?」とか言ってる。変更!?まさか、俺のリスト細工を上書きする気か?
(くそ、佐藤、しぶといな。チーム分けをいじろうとしてる)
俺は、存在感ゼロを活かしてテントに近づく。体育委員が持ってるリレーの出走表をチラ見。俺の細工通り、藤堂と美咲は同じチームの4番と5番。でも、佐藤が「3番のやつ、足捻ったってさ。代わりに俺が入ってもいい?」と提案してる。3番!?それ、藤堂の前の走者だ。佐藤がそこに入ったら、バトンパスで何か仕掛ける可能性がある。
(バトンをわざと落とす?それとも、藤堂を遅らせて美咲との連携を乱す?)
心臓がバクバクする。俺は、テントの裏で考える。出走表を今からいじるのはリスク高すぎる。佐藤が近くにいるし、体育委員も目を光らせてる。でも、モブの俺なら、もっと地味な方法で仕掛けることができる。バトンパスの練習エリアに、さりげなく近づく。地面に小さな石が転がってるのに気づく。佐藤が走るレーンに、ほんの少しだけ石を動かす。これで、奴のスタートが一瞬でも乱れれば、藤堂へのバトンパスがスムーズになる。
(地味だけど、効果的。モブの反撃、ここでも炸裂だ)
リレーがスタート。1番走者がトラックを駆け抜け、歓声が上がる。佐藤は3番で、藤堂の前に走る。俺は、観客席から息を殺して見守る。佐藤がスタートラインに立つ瞬間、さっき動かした石に足を取られて、一瞬バランスを崩す。「おっと!」と声を上げながらも、なんとか走り出すけど、明らかにリズムが乱れてる。やった!俺の細工、効いてる!
佐藤から藤堂へのバトンパス、ちょっとだけタイミングがズレる。藤堂が「くそ、急げよ!」と叫びながらバトンを受け取り、猛ダッシュ。美咲が待つ最終レーンに、ほぼ予定通りのタイミングでバトンを渡す。美咲が「ナイス、翔!」と叫んでトラックを駆け抜け、ゴールテープを切る。クラスが「優勝だ!」と大盛り上がり。原作のあのシーン、完璧に再現できた!
(よっしゃ!佐藤、お前のプラン、また潰したぜ)
でも、佐藤の表情が気になる。ゴール後、笑顔でクラスメイトとハイタッチしてるけど、目が一瞬、俺の方を向いた気がした。いや、気のせいだろ?存在感ゼロの俺を、奴が見つけるわけない……。でも、ゾクッとする感覚が消えない。
リレーの後、閉会式までの休憩時間。佐藤が一人で体育館の裏に移動する。俺は、尾行のチャンスとばかりに後をつける。存在感ゼロの俺なら、バレないはず。奴がスマホを取り出し、また誰かと話してる。
「リレー、失敗。バトンパスで乱れがあった。誰かがレーンに細工した可能性。モブ連合、緊急プランを」
レーンに細工!?俺の石の仕掛け、完全にバレてる!?でも、佐藤の声には焦りが感じられる。モブ連合に「緊急プラン」を求めてるってことは、奴の計画がかなり狂ってるってことだ。俺のモブの反撃、効果絶大じゃん!
(でも、モブ連合の「緊急プラン」って何だ?体育祭は終わったけど、次は何を仕掛けてくる?)
閉会式が終わり、みんなが帰り支度を始める。藤堂と美咲がテントで話してる。「美咲、ナイスランだったぜ!」と藤堂が言うと、美咲が「あなたが遅れなかったからでしょ」と笑う。原作通りのラブコメ、しっかり守れた。でも、美咲が一瞬、俺の方を見た気がした。あの鋭い視線、まただ。彼女、ほんとに何か知ってるのか?
(まさか、ヒロインAが俺の細工に気づいてる?いや、そんなわけ……)
夜、部屋で原作を読み返す。二学期の体育祭は、藤堂と美咲の関係を深める重要イベント。これが終わると、原作はしばらく日常パートが続く。でも、佐藤とモブ連合が動いてる以上、原作にない新たなイベントが仕掛けられる可能性がある。親睦会みたいに、クラス単位の小さなイベントか?それとも、もっと大きな何か?
美咲の「次は、もっと面白いことが起きるから」って言葉が、また頭をよぎる。あのニヤリとした笑顔、俺を「背景くん」と呼んだ瞬間。彼女が物語の裏側を知ってるなら、俺、彼女に接触すべきか?でも、モブがヒロインに絡むなんて、リスクがデカすぎる。物語のルールを壊すことになるかもしれない。
(でも、ルールなんて、俺が転生した時点で意味ないだろ。佐藤もモブ連合も、ルールの外から来てるんだ)
頭がグルグルする。佐藤の次の動き、モブ連合の緊急プラン、美咲の謎――全部、繋がってる気がする。俺は、存在感ゼロのまま、物語の裏側を暴くしかない。次のイベント、どんな波乱が待ってるのか。俺のモブの勘が、ビンビン反応してる。
校庭の夕陽が、赤く染まる。俺は、静かに深呼吸。佐藤が俺の細工に気づき始めてる。モブ連合の影が、どんどん濃くなってる。でも、俺はまだ存在感ゼロ。この強みを活かして、物語を守る。
(佐藤、モブ連合――お前らの次のプラン、俺が全部ぶっ潰す)
俺は、校庭を後にする。物語の次のページが、ゆっくり開き始めてる。モブとして、裏側への戦いは、これからが正念場だ。




