第17話「親睦会の幕開け」
週末、クラス親睦会当日。近くの公園は、朝からクラスメイトたちの笑い声で賑わってる。BBQの煙がモクモクと立ち上り、テーブルには飲み物や食材がズラリ。俺、存在感ゼロのモブは、木陰のベンチに座って、佐藤健太――改変モブ2号の動きをガン見してる。昨日、俺が仕掛けたくじ引きの細工で、藤堂翔と高嶺美咲が同じ準備グループになった。あの瞬間、佐藤の笑顔が一瞬だけ固まったのが、俺の小さな勝利だ。
(でも、油断は禁物だ。佐藤のノートにあった「モブ連合」「美咲の行動を誘導」ってメモ、絶対今日が本番だ)
佐藤は、BBQの準備でクラスの中心に立ってる。炭に火をつけながら、「みんな、肉焼けてきたぞ!食べて食べて!」と、めっちゃ明るく振る舞ってる。藤堂は美咲と一緒に、野菜を切る係で楽しそうに話してる。原作通りのラブコメの空気。俺の細工が、ひとまず効いてるみたいだ。
「翔、切り方雑すぎ!もうちょっと丁寧にやってよ」
美咲が、笑いながら藤堂の肩を軽く叩く。藤堂が「はいはい、ヒロイン様のご命令ですね!」と返すと、クラスメイトが「やー、仲良いね!」と冷やかす。完璧なラブコメシーン。でも、俺の目は、佐藤の微妙な動きに釘付けだ。奴は、笑顔で肉を焼いてるけど、視線がチラチラと藤堂と美咲の方へ向かう。まるで、二人を観察する科学者みたいだ。
(くそ、こいつ、絶対何か仕掛けてくる。親睦会で美咲の行動をどう誘導する気だ?)
俺は、ジュースを手に持ちながら、さりげなく佐藤に近づく。存在感ゼロの俺なら、誰も気にしない。佐藤が、他の男子と「ゲーム大会やろうぜ!」と話してるのを耳にする。ゲーム大会?ノートにそんなこと書いてなかったぞ。急に新しいプランを追加してきたってことは、俺のくじ引き細工に対抗する策か?
「なぁ、佐藤、ゲームってどんなのやるの?」
藤堂が興味津々に聞くと、佐藤が「簡単なリレーとか、二人三脚とかどう?ペアでやると盛り上がるよ」とニコニコ答える。二人三脚!?またペア操作だ。俺の細工で準備グループを藤堂と美咲で固めたのに、佐藤はゲームで再び二人を離そうとしてるのか?
(やっぱり、しぶといな、こいつ。モブ連合の指示で動いてるなら、こんな即興の変更もお手の物か)
俺は、木陰に戻って頭を整理する。佐藤のノートにあった「美咲の行動を誘導」。二人三脚なら、ペアをシャッフルして美咲を別のキャラと組ませる可能性が高い。例えば、佐藤自身が美咲とペアになって、藤堂との距離を広げる作戦とか。原作のラブコメは、藤堂と美咲の小さな絡みが積み重なって進むのに、こんなイベントで関係が乱れたら、物語がズレちまう。
(よし、ゲームのペア決めで、また仕掛ける。存在感ゼロの俺なら、佐藤の裏をかける)
昼過ぎ、BBQが一段落して、ゲーム大会が始まる。佐藤が「二人三脚のペア、くじで決めよう!」と提案。クラスメイトが「ランダム、面白そう!」と盛り上がる中、俺は動く。くじ引きの紙を準備してる女子の近くに、さりげなく近づく。存在感ゼロの俺なら、誰も気づかない。紙に細工するのは昨日で慣れたもんだ。藤堂と美咲が同じペアになるよう、こっそり印をつける。
(佐藤、お前のシャッフル、俺が潰してやる)
くじ引きの結果、藤堂と美咲がまたペアに。クラスメイトが「またこの二人!?縁があるね!」と笑う。美咲が「な、なにこれ、恥ずかしいんだけど」と照れながら言うと、藤堂が「まあ、俺と組めば優勝間違いなしだろ!」とドヤ顔。原作のラブコメ、完全復活って感じだ。
でも、佐藤の表情が気になる。笑顔のままだけど、目が一瞬、鋭くなった気がする。俺の方をチラッと見た?いや、まさか。存在感ゼロの俺に気づくわけない……よね?
二人三脚がスタート。藤堂と美咲は、最初はギクシャクしてたけど、だんだん息が合ってきて、ゴール直前でトップに。クラスメイトの応援が響く中、俺は佐藤をガン見。奴は、他のペアを応援するフリしながら、スマホをポケットでいじってる。まさか、またモブ連合に連絡?
(くそ、こいつ、ゲームの結果がダメでも、次の手を準備してやがる)
ゲームが終わり、藤堂と美咲が優勝。クラスメイトが「やっぱこの二人、強い!」と盛り上がる。佐藤も拍手しながら「すげえ、ナイスコンビ!」とか言ってるけど、俺には分かる。あいつの計画、また一つ狂ったんだ。
夕方、親睦会が終わって、みんなが片付け始める。俺は、佐藤が一人でゴミ袋を持って公園の端に移動するのに気づく。尾行するチャンスだ。存在感ゼロの俺は、木々の間を移動しながら、佐藤の後をつける。奴がスマホを取り出して、誰かと話してる。
「ペア操作、失敗した。くじ引きに何か細工があったかも。モブ連合、次の指示を」
失敗したって、俺の細工のことか!?心臓がバクバクする。佐藤が「細工があったかも」って言ったってことは、俺の動きを完全に読んでるわけじゃない。まだ存在感ゼロはバレてない。でも、モブ連合が次に何を指示してくるか、それが問題だ。
(モブ連合、どんなヤツらなんだ?佐藤一人でもこれだけ厄介なのに、組織全体が動いたら……)
俺は、公園のベンチに座って考える。佐藤のノート、スマホの会話、モブ連合――全部、物語の裏側で動いてる力だ。原作にはないこの親睦会、佐藤が仕掛けたイベントで、藤堂と美咲の関係を乱そうとした。でも、俺の細工で、なんとか原作の流れを守れた。
(でも、これで終わりじゃない。佐藤が諦めるタイプに見えない。次のイベント、体育祭か?それとも、もっと近い何か?)
夜、部屋で原作を読み返す。二学期の体育祭は、藤堂と美咲がリレーで一緒に走るシーンがハイライトだ。そこでの二人の掛け合いが、関係を一歩進める大事なイベント。でも、佐藤がこのまま黙ってるはずない。モブ連合の「次の指示」が、体育祭で何かデカい動きになる可能性がある。
ふと、美咲の言葉がまた頭をよぎる。「次は、きっともっと、面白いことが起きるから」。あのニヤリとした笑顔、俺を「背景くん」と呼んだあの瞬間。美咲、ほんとにただのヒロインAなのか?もしかして、彼女も物語の裏側を……いや、まさか。そんなわけない。
(でも、もし美咲が何か知ってるなら、俺、彼女に近づくべきか?いや、モブがヒロインに絡むなんて、リスク高すぎる)
頭がグルグルする。佐藤の次の動き、モブ連合の目的、美咲の謎――全部、繋がってる気がする。俺は、存在感ゼロのまま、物語の裏側を暴くしかない。
公園の夜風が、冷たく頬を撫でる。俺は、静かに立ち上がる。親睦会は終わったけど、戦いはまだ続く。佐藤とモブ連合の影を、俺が追い詰める。物語の次のページ、どんな展開が待ってるのか、俺のモブの勘がビンビン反応してる。
(佐藤、モブ連合――お前らの計画、俺が全部ぶっ潰してやる)
夕闇の中、俺は一歩踏み出した。存在感ゼロのモブとして、物語を守る戦いは、これからが本番だ。




