第16話「親睦会の裏側」
朝の教室は、いつもよりちょっとだけざわついてる。二学期四日目。佐藤健太――改変モブ2号が仕掛けた「クラス親睦会」の話が、クラス中に広がり始めてる。昨日、俺が佐藤のノートで見た「モブ連合」「藤堂と美咲の距離を操作」ってメモが、頭の中でリピート再生されてる。こいつ、ただの転校生じゃない。物語を裏で操る、ヤバいヤツだ。
「おはよ、翔!親睦会、どんな感じにする?」
佐藤が、朝から藤堂翔に絡んでる。藤堂は「なんか、みんなでBBQとか楽しそうじゃね?」と、いつもの脳天気なノリ。あいつの純粋さが、逆に心配になる。佐藤の笑顔は完璧すぎて、まるで計算されたプログラムみたいだ。美咲は窓際で友達と話してるけど、佐藤の視線がチラチラ彼女の方へ向かう。やっぱり、ヒロインAがターゲットだ。
(親睦会、絶対ここで何か仕掛けてくる。藤堂と美咲の関係を操作するって、どんな手を打つ気だ?俺、動かないとヤバいぞ)
俺のモブの勘が、全力で警報を鳴らしてる。存在感ゼロの特等席から、佐藤の動きをガン見。奴は藤堂と話しながら、クラスの他の女子や男子にも軽く話しかけてる。まるで、クラス全体を自分の舞台に変えようとしてるみたいだ。モブ連合ってのが何なのか、まだ掴めないけど、佐藤が単独じゃないってのは確かだ。
ホームルーム。担任が「佐藤くんの提案で、クラス親睦会を企画するらしいな。みんな、協力してやってくれよ」と、のんきに言う。クラスメイトが「いいね!」「楽しそう!」と盛り上がる中、俺は心の中で冷や汗。原作にこんなイベント、ねえよ。佐藤が新たに作り出した舞台で、物語をいじろうとしてるんだ。
(くそ、こいつのペースに乗せられる前に、俺が仕掛けるしかない。存在感ゼロの俺なら、裏で動けるはず)
昼休み。佐藤がクラスの中心で、親睦会のアイデアを出し合ってる。BBQ、ゲーム大会、謎解きイベント――いろんな提案が飛び交うけど、佐藤が「みんなでペアになって何かやるの、面白いよね」と、さらっと言った瞬間、俺の背筋がゾクッとした。ペア?藤堂と美咲を無理やり引き離す気か?それとも、別のキャラを絡ませて、関係をこじらせるつもり?
俺は、教室の隅でパンをかじりながら、佐藤のノートをもう一度見るチャンスを伺う。昨日、奴の机に近づいた時、誰も俺に気づかなかった。存在感ゼロの強みを活かせば、また何か掴めるはず。問題は、佐藤が今日はノートをカバンにしまってるっぽいことだ。くそ、警戒してんのか?
(いや、待てよ。ノート以外にも、佐藤の動きを追えば何か分かる。奴のスマホ、昨日も使ってたよな)
放課後。佐藤が藤堂や他の男子数人と、親睦会の打ち合わせを始める。俺は、校舎の裏の物陰に隠れて、そっと様子を窺う。存在感ゼロの俺なら、こんな尾行もバレない。佐藤が「場所は近くの公園がいいかな。BBQなら、みんなで準備分担してさ」と提案してる。藤堂が「いいね!美咲も誘おうぜ」と言うと、佐藤の目が一瞬キラッと光った気がした。
(やっぱり、美咲を巻き込む気だ。親睦会で何か仕掛けて、原作のラブコメをぶっ壊すつもりか)
打ち合わせが終わると、佐藤が一人で校庭の隅に移動。俺は息を殺して後をつける。奴がスマホを取り出して、また誰かと話してる。声は小さいけど、風向きがいいから、断片的に聞こえてくる。
「うん、親睦会は順調。藤堂と美咲、ペアの配置で動ける。モブ連合の次の指示、待ってるよ」
モブ連合、キタ!やっぱり、佐藤は誰かと繋がってる。物語の外から来た組織が、裏で糸を引いてるってことか?心臓がバクバクする。俺は、佐藤がスマホをしまうまで、じっと物陰で待機。奴が立ち去った後、近くのベンチに座って頭を整理する。
(親睦会でペア操作、か。藤堂と美咲を離すか、別のキャラを絡ませて関係を乱すか。どっちにしろ、原作の流れを壊すのが目的だ。俺、どこで仕掛ける?)
夜、部屋で原作を読み返す。やっぱり、親睦会なんてイベントはどこにもない。二学期は藤堂と美咲がクラスで自然に絡むシーンが多くて、体育祭で二人の距離が縮まるのが定番だ。でも、佐藤がこの親睦会で何か仕掛けたら、体育祭の展開が変わっちまう。原作のラブコメが、別の方向にねじ曲がる可能性がある。
(くそ、俺が動くなら、今だ。親睦会の準備段階で、佐藤の計画を潰す。存在感ゼロのモブとして、裏から仕掛けるぞ)
次の日、朝の教室。佐藤が親睦会の役割分担をクラスのみんなで決めるって話を持ち出す。俺は、いつものように目立たず、会話の輪の外で聞き耳を立てる。佐藤が「ペアで準備するの、効率いいよね。誰と誰がいいかな?」と、ニコニコしながら言う。藤堂が「俺、美咲と組むか!」と冗談っぽく言うと、佐藤が「それもいいけど、みんなでシャッフルした方が楽しいかも」と、さらっと流す。
(シャッフル?そこだ!佐藤、絶対そこで何か仕掛ける気だ)
俺は、昼休みに再び動く。佐藤がトイレに立った隙に、奴の机に近づく。今日はノートがまた開いてる。そこには、親睦会のペア候補リストが書いてあった。「藤堂×佐藤」「美咲×クラスメイトB」――明らかに、藤堂と美咲を離す配置だ。さらに、「モブ連合:ペア確定後、イベント中に美咲の行動を誘導」と書かれてる。
(やっぱり、こいつ、モブ連合と組んで、物語を操作しようとしてる。ペアをシャッフルして、美咲を藤堂から遠ざける気だ)
俺は、ノートに手を伸ばしかけたけど、ギリギリで思いとどまる。佐藤が戻ってきたら、バレるリスクがある。代わりに、俺は自分のメモに佐藤の計画を書き写した。存在感ゼロの俺なら、こんな動きも誰にも気づかれない。
放課後、親睦会の準備会議が始まる。佐藤が「ペアはくじ引きで決めようぜ!」と提案。クラスメイトが「面白そう!」と盛り上がる中、俺は静かに動く。くじ引きの紙を準備する係が、教室の後ろで紙を切ってる。俺は、そっと近づいて、くじの紙に細工を施した。存在感ゼロの俺なら、こんな地味な干渉もバッチリだ。
(佐藤、お前のシャッフル計画、俺が裏で操作してやる。藤堂と美咲、ちゃんとペアにさせとくからな)
くじ引きの結果、藤堂と美咲が同じ準備グループに。佐藤の顔が、一瞬だけ固まった気がした。やったぜ!俺のモブの反撃、成功だ。佐藤は笑顔で「いいね、楽しそうなグループ!」とか言ってるけど、目が笑ってない。俺には分かる。あいつの計画、ちょっとだけ狂ったんだ。
会議が終わって、みんなが帰り支度を始める。美咲が藤堂に「準備、ちゃんとやってよね」と笑いながら言うと、藤堂が「任せとけ!」と返す。原作通りのラブコメの空気。俺の箱庭、なんとか守れてる。
でも、佐藤が教室を出る時、俺の方をチラッと見た。いや、気のせいか?でも、あの目、なんかゾクッとした。もしかして、俺の存在感ゼロ、奴にバレかけてる?まさか、そんなわけ……
(いや、考えすぎだ。俺はモブだ。誰も気づかない。それが俺の強みだ)
夕陽が教室をオレンジに染める。俺は、静かに深呼吸。親睦会の本番は週末。佐藤の次の動き、モブ連合の指示、全部読まないと。美咲の「面白いことが起きる」って言葉が、また頭をよぎる。あいつ、ほんとに何も知らないのか?それとも……
(モブ連合、佐藤、物語の裏側――俺、全部暴いてやる)
物語の次のページが、ゆっくり開き始めてる。俺は、存在感ゼロのまま、その影を追い続ける。




