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第15話「モブの反撃、始まる」

朝の教室は、いつも通りの騒がしさだ。三日目の二学期。俺、存在感ゼロのモブ、は今日も窓際の特等席でパンをかじりながら、佐藤健太――改変モブ2号をガン見してる。あいつの動き、日に日に怪しくなってる。昨日、校庭でスマホに何かメモってた姿が、頭から離れない。あれ、絶対ただの転校生のメモじゃない。物語をいじるためのデータ収集だろ、間違いなく。


「おはよ、藤堂!今日の放課後、空いてる?」


佐藤が、朝から藤堂翔に絡んでる。藤堂は「ん?またサッカーか?いいぜ!」と、いつもの脳天気な笑顔。あいつの純粋さが、なんか眩しいけど、今はそれどころじゃない。佐藤の視線が、チラチラと高嶺美咲の方へ向かうのが見える。美咲は友達と笑いながら、教科書をパラパラめくってるけど、佐藤の目は、まるで彼女の一挙手一投足をスキャンしてるみたいだ。


(くそ、こいつ、どんどん主要キャラに食い込んでる。昨日も美咲の友達グループに絡んで、会話の流れを操ってたし……。このままじゃ、原作のラブコメが、佐藤の脚本に書き換えられちまう)


俺のモブの勘が、ビンビン警報を鳴らしてる。改変モブ1号は、黒板にメッセージ書いたり、体育のペアをいじったり、わりと直球だった。でも、佐藤は違う。まるで物語の登場人物になりきって、じわじわと影響力を広げてる。こいつの目的が、藤堂と美咲の関係を壊すことなのか、もっとデカいイベントを狙ってるのか、まだ掴めない。


ホームルームが始まり、担任がいつものようにダラダラ喋る。俺は机に突っ伏しつつ、佐藤の動きを横目で追う。奴は真面目そうにノート取ってるけど、ペンが止まるたびに、美咲の方をチラ見。しかも、今日は藤堂の隣に座ってるやつとも軽く話して、なんかやたらとクラスの輪に溶け込んでる。モブのくせに、存在感ありすぎだろ。


(やばいな。こいつ、クラス全体を味方につけて、物語の中心に近づこうとしてる。俺、そろそろ動かないとマズい)


昼休み。俺はいつものように、教室の隅で観察モード全開。佐藤がまた美咲のグループに近づいて、「この学校の文化祭、どんな感じだった?」なんて話を振ってる。美咲が「まあ、賑やかだったかな」と答えると、佐藤は「へえ、来年は何か出し物やりたいな!」と、めっちゃ自然に会話を続ける。けど、俺には見える。あいつの笑顔の裏に、なんか計算高い光がチラつくんだよ。


(文化祭の話、わざと振ったな。学園祭のイベントを改変しようとしてるのか?いや、でも、原作じゃ二学期に大きなイベントは……)


頭の中で原作を反芻する。原作の二学期は、藤堂と美咲の関係が少しずつ深まる時期で、大きなイベントは秋の体育祭くらいだ。でも、佐藤がそこまで待つタイプには見えない。もっと近い、日常の中の小さな出来事をいじって、物語の流れを変えようとしてる気がする。


放課後。俺はまた佐藤の後をつけることにした。存在感ゼロの俺なら、尾行なんて朝メシ前だ。佐藤は藤堂と校庭へ向かい、昨日みたいにサッカーボールを蹴り始める。笑い声が響くけど、俺は校舎の影からじっと観察。すると、藤堂が水飲み場に離れた瞬間、佐藤がまたスマホを取り出した。画面には、ぎっしり文字が並んでる。しかも、今回はイヤホンをつけて、誰かと話してるっぽい。


「うん、順調だよ。データは揃いつつある。次のイベント、動けると思う」


佐藤の声が、風に乗って微かに聞こえた。データ?次のイベント?心臓がドキッと跳ねる。やっぱり、こいつ、物語の外から来たヤツだ。改変モブ1号と同じく、原作を捻じ曲げようとしてる。でも、1号と違って、こいつは単独じゃなさそう。誰かと繋がってる?


(くそ、モブ連合ってやつか?プロットにそんな話、なかったぞ……。いや、待てよ。原作にないなら、こいつらが新たに作ったルールってことか?)


俺の頭がフル回転する。学園祭の時、改変モブ1号は「物語を救う」とか言ってたけど、結局、俺が地味に干渉して原作通りに戻した。佐藤も同じ目的なら、俺の存在感ゼロを活かして、奴の動きを水(見ず)に流すのが一番だ。でも、今回は敵が一枚上手。情報を集めて、じっくり仕掛けてくるタイプだ。


(よし、俺も情報戦でいくか。まずは、佐藤の次の動きを掴む。で、奴が仕掛ける前に、こっちで仕掛ける)


俺は決意した。モブとして、物語の裏側で動く。佐藤が何を企んでるか、具体的な証拠を掴まないと、動くタイミングを誤る。存在感ゼロの俺だからこそ、奴の目を掻い潜れるはずだ。


その夜、俺は部屋で原作をもう一度読み返した。やっぱり、佐藤健太の名前はどこにもない。二学期のイベントも、体育祭以外は小さな日常の積み重ねだ。でも、佐藤が「次のイベント」と言ってたのが気になる。原作にないイベントを、奴が新たに作ろうとしてる可能性がある。


(例えば、クラスで何か企画するとか?文化祭の話を出してたし、臨時のイベントを仕掛けて、藤堂と美咲の関係に割り込むつもりか?)


ふと、美咲の言葉がまた頭をよぎる。「次は、きっともっと、面白いことが起きるから」。あの時、彼女は俺を「背景くん」と呼んで、ニヤリと笑った。もしかして、美咲も何か知ってる?いや、まさか。ヒロインAが、物語の裏側を理解してるなんて、ありえない……はずだ。


でも、もし美咲が何か気づいてるなら、俺の存在感ゼロを逆手に取って、彼女から情報を引き出せるかもしれない。いや、でも、それは危険すぎる。ヒロインAに絡むなんて、モブのルール違反もいいとこだ。


(いや、待てよ。モブのルールなんて、誰が決めたんだ?俺がこの物語に転生した時点で、ルールなんてあってないようなもんだろ)


次の日、朝の教室。俺はいつものように、存在感ゼロで佐藤を監視。今日は、奴が美咲の友達グループに混ざらず、藤堂と別の男子と話してる。話題は、なんかクラスの親睦会みたいな企画についてだ。「みんなで何かやったら、クラスもっと仲良くなるよな!」と、佐藤がやたら盛り上げてる。


(親睦会?原作にそんなイベント、ねえぞ。こいつ、絶対これで何か仕掛けてくる)


昼休み、俺は思い切って動くことにした。佐藤がトイレに立った隙に、奴の机に近づく。存在感ゼロの俺なら、誰も気づかない。佐藤のノートが、机の上に開いたままになってる。そこには、びっしりとメモが書かれてた。


「藤堂翔:サッカー好き、行動パターン単純。美咲:観察力高、警戒心あり。次のイベント:クラス親睦会で二人の距離を操作。モブ連合、指示待ち」


モブ連合!やっぱり、佐藤は単独じゃない。誰かと繋がって、物語を改変しようとしてる。しかも、親睦会を仕掛けて、藤堂と美咲の関係に割り込む気だ。


(くそ、こいつ、ガチでヤバいぞ。親睦会を潰すか、俺が裏で操作して、原作通りの流れに戻すか……)


心臓がバクバクする。俺はノートを元に戻し、そっと自分の席に戻った。誰も俺の動きに気づいてない。存在感ゼロ、最高だぜ。


放課後、佐藤が藤堂と「親睦会のアイデア出ししようぜ!」と話してるのを、俺は遠くから聞く。奴の笑顔は、相変わらず完璧だ。でも、俺には見える。その裏に隠れた、物語を操る影。


(佐藤、お前の動き、全部読めてるぜ。モブの反撃、始まるからな)


夕陽が教室をオレンジに染める中、俺は静かに決意した。物語の裏側で、俺は戦う。存在感ゼロのモブとして、佐藤の改変をぶっ潰す。美咲の「面白いこと」が、どんな結末になるのか、俺が決めてやる。


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