第14話「影の足音」
朝の教室は、相変わらずの喧騒に包まれていた。二学期が始まって二日目。昨日、転校生の佐藤健太――俺が勝手に名付けた「改変モブ2号」――が現れて以来、俺のモブの勘はフル稼働状態だ。存在感ゼロの特等席から、今日も佐藤の動きを監視する。奴の笑顔が、なんかこう、計算されすぎてる気がして仕方ない。
「よお、藤堂!昨日話してたサッカーの試合、週末どう?」
佐藤が、朝から藤堂翔に絡んでる。藤堂はいつもの調子で、「お、いいね!誰か他にも誘うか?」とノリノリだ。だが、俺の目は、佐藤の微妙な仕草に釘付けだった。藤堂と話しながら、チラチラと高嶺美咲の方を見るんだよ。美咲は窓際で友達と談笑してるけど、佐藤の視線は、まるで彼女の次の行動を予測してるみたいに動く。
(あいつ、絶対なんか企んでる。美咲に絡むタイミングを計ってるな……。でも、昨日は結局何もなかったし、今日はどう出る?)
ホームルームが始まり、担任がいつものようにダラダラと連絡事項を読み上げる。俺は机に突っ伏しつつ、耳だけは佐藤の方へ向けてる。彼は真面目な顔でノートに何か書いてるけど、時折、ペンを止めて美咲の方を一瞥。くそ、モブのくせに、なんでそんな堂々とした動きができるんだよ。俺の「存在感ゼロ」とは真逆の存在感だ。
昼休み。俺はいつものように、教室の隅でパンをかじりながら佐藤を観察。すると、奴が動き出した。美咲の友達グループに近づき、「ねえ、この学校の学食ってどう?おすすめある?」なんて、めっちゃ自然に会話に割り込んでる。美咲も笑顔で「カレーは辛えよ、気をつけな」と答えてるけど、佐藤の目は、なんかこう、普通の転校生の好奇心じゃない。まるで、彼女の反応を一つ一つデータベースに保存してるみたいだ。
(やばいな。こいつ、改変モブ1号より巧妙だ。直接的な干渉じゃなくて、じわじわと主要キャラの周囲に溶け込んで、影響力を広げようとしてる)
俺の脳内で、警報が鳴り響く。改変モブ1号は、黒板にメッセージ書いたり、体育のペアを操作したり、わりと直球で物語をいじってきた。でも、佐藤は違う。まるで原作の登場人物になりすまして、物語の流れを内側から操ろうとしてる感じだ。こいつ、ただのモブじゃない。少なくとも、「物語に干渉できるモブ」だ。
放課後。俺は佐藤の後をつけてみることにした。存在感ゼロの俺なら、尾行なんてお手の物だ。佐藤は藤堂と一緒に校庭へ向かい、サッカーボールを蹴り始めた。楽しそうな笑い声が響くけど、俺は校舎の影からじっと観察。すると、藤堂がボールを追いかけて離れた瞬間、佐藤がスマホを取り出して何かメモってる。画面には、文字がいっぱい並んでるのがチラッと見えた。
(何だ、あれ?藤堂や美咲の行動記録か?それとも、もっとヤバい何か?)
心臓がドキドキしてきた。改変モブ1号の時も、黒板のメッセージや小道具の移動で物語を捻じ曲げようとしたけど、佐藤のやり方はもっと狡猾だ。直接的な干渉じゃなくて、情報を集めて、じわじわと物語の流れを変えようとしてる可能性がある。
(くそっ、俺、動くべきか?でも、何も証拠がないのに、変に動いたら俺の存在感ゼロがバレちまう……)
迷ってるうちに、佐藤がスマホをポケットにしまって、藤堂とまた笑いながらボールを蹴り始めた。表面上は、ただの転校生の日常。だけど、俺のモブの勘は、はっきりこう告げてた――こいつは、物語の裏側で何かを仕掛けてる。
その夜、俺は自分の部屋で、原作のライトノベルを引っ張り出して読み返した。やっぱり、佐藤健太なんてキャラはどこにも出てこない。転校生イベントも、二学期のこのタイミングでは予定されてない。改変モブ1号の時みたいに、物語の外から来たヤツの可能性が高い。
(もし、こいつが改変モブ1号と同じ「物語の外」の存在だとしたら……次は何を狙ってる?美咲と藤堂の関係?それとも、もっと大きなイベント?)
頭の中で、いろんな可能性がグルグル回る。学園祭の時、俺は地味に干渉して、物語を原作通りに戻した。でも、今回は敵の動きが読めない。佐藤のあの笑顔の裏に、何が隠れてるんだ?
ふと、美咲の言葉がまた蘇ってきた。「次は、きっともっと、面白いことが起きるから」。あの時、彼女は俺の存在をハッキリ認識してた。もしかして、美咲も何か知ってる?いや、まさか。ヒロインAが、物語の裏側を理解してるなんて、ありえない……よね?
ベッドに寝転がりながら、俺は天井を見つめた。佐藤のメモ、藤堂とのサッカー、美咲への視線――全部が、ジグソーパズルのピースみたいに、バラバラだけど繋がりそうで怖い。
(安全な箱庭を守るためにも、俺、そろそろ動かないとダメかもな)
窓の外、夜の闇が広がってる。どこかで、影の足音が聞こえた気がした。物語の次のページは、俺が思ってる以上に、ヤバい展開が待ってるのかもしれない。




