噂の出どころ
捜索願を出してから三ヶ月が経ち、私は赤ちゃんを出産した。あれから何度も刑事が訪ねてきたが、彼らが見つかることはなかった。
どこかで元気にやっているのだろう──そう思うしかなかった。
父親のいない子供をかわいそうに思いながらも、掟に違反していることに、私は不安を抱いていた。この時の私は、何人女性を連れてきても構わないから、家に帰ってきて欲しいと、そう思っていた。
※※※※※
ある日の夜。赤ん坊の夜泣きがひどくて、私は赤ちゃんをあやしながら、中庭を歩いていた。後ろから見張りの使用人がついて来ていたが、気にせずに庭のあちこちを彷徨い歩いていた。
ある蔵の前まで行くと、赤ちゃんは泣き止み、蔵のある方を指さしていた。気のせいかと思って、指を元に戻すと、赤ちゃんは再び蔵のある方を指さしていた。
「蔵に何かあるの?」
私はまさかと思い、使用人に蔵の鍵を取りに行かせると蔵の鍵を開けた。カビ臭いのは以前に開けたときと同じだったが、中を覗くと、棚の隙間に何か挟まっていることに気がついた。
予めポケットに入れていた、携帯用の懐中電灯を取り出すと、私は蔵の中へ入り、棚のある辺りを照らした。風が吹いたのか、蔵の扉は急に閉まり、中にある物が月明かりに浮かび上がった。
棚の隙間に挟まっていたのは、誰かの衣服だった。恐る恐る近づき、棚の隙間から服を取り出すと、それは東郷幸仁の上着だということに気がついて、思わず手から離してしまった。
「ひっ……」
それと同時に、蔵の扉を叩く音が聞こえて、私は狼狽えた。
「奥様、奥様!!」
「開いてるわ」
八ツ柳家本家からついてきている使用人の斉藤だろう。私がそう言うと、彼は蔵の扉を開けた。扉を開ける瞬間、また緑の光が見えた。私が抱えている赤ちゃんの指先が緑色に光って見えたのだ。
「奥様、ご無事ですか?」
「大丈夫よ、斉藤さん。それより、どうして無事かどうか聞いたの?」
「いえ、その──昔から、この蔵は良くない噂を聞きますので」