捜索
「承知致しました」
私は屋敷の使用人を下がらせると、蔵の扉の閂にぶら下がっている南京錠に鍵を差して、蔵の扉を開けた。
軋みながら開いた扉の先にあったのは、山積みになった書類の山だった。両サイドの棚には、書類が山のように詰まれている。正面にある棚の上には、人形が置かれており、溶けかけた雪だるまのような、丸みを帯びた骸骨の眼が、こちらを見ているような気がした。骸骨の頭には何故か釘のような物が刺さっている。
「え?」
人形は、こちらを見ると微笑んだ──ように見えた。見間違いかと思って瞬きをすると、人形は元に戻っていた。
「奥様? いかがなさいましたか?」
「いえ……」
入り口の方へ振り返ると、今度は人形が緑色に光ったような気がした。
「え?」
「奥様?」
自分のお腹の辺りが、淡い緑色に光っている。日の光を見た後に蔵を見たから、目がおかしくなっているのだろうか──そう思って蔵を出ると、やはり光は消えていた。
(なんだ、気のせいか)
「ごめんなさい。立ちくらみかもしれないわ」
「お身体に触ります。どうか、お部屋へお戻りください」
「分かった。そうするわ」
気味が悪くなった私は、蔵を閉めると自分の部屋へ戻ったのだった。
※※※※※
次の日の朝。朝食の後になっても離れにいる二人の姿が見えなかったので、屋敷の使用人に尋ねた。すると、二人は何処かへ出かけたのか、朝から姿が見えないという。
「おかしいわね」
「ええ。昨日の夜に、夕食を召し上がって、離れへ戻るのは確認したのですが……」
「まさか」
私は呪われた可能性を考えて、離れへ駆けていった。彼らが呪われたのであれば、何処かに倒れているかもしれないと思ったのだ。
しかし、いくら探しても彼らは何処にもいなかった。トイレや納屋まで探したが、見つからず、結局は出かけたのだろうという話になった。
「いないわ」
「ええ。そのうち、帰って来るでしょう」
次の日も、またその次の日も彼らは家に帰ってこなかった。二人で家出したのか分からなかったため、今まで捜索願いなどは出していなかったが、書類上で彼は私の夫だ。捜索願いは出した方がいいだろう──私は使用人と相談して、最終的に捜索願を出すことにしたのだった。