呪いとは
「君とは結婚できないよ」
結納の帰り道、東郷家の跡取りである東郷幸仁は車の中で、そう呟いた。
「え?」
「当たり前だろ。僕には君を抱けない。他に好きな人がいるんだ」
「でも結納が」
婚約者である幸仁は私を小馬鹿にしたような目で見ると、尊大な態度で言った。
「会ったその日に結納なんて、流石に可笑しいだろ。平安時代から続くしきたりで、掟を破ると両家に災いが起きるとか言われているけどさ、今の時代、しきたりを重んじる人なんていないんじゃない?」
確かに、彼の言うとおりだ。でも、そんなことを言われても困る。江戸末期に、しきたりだの呪いだの、今時流行らないと言って掟を破ろうとした人がいたらしいのだが、その時、話し合いのために本家に集まっていた親戚50人ほどが、東郷家跡取りの男性と八ツ柳家跡取りの女性を除いて、急に亡くなってしまったという。
「江戸末期の話もありますが、少し前に叔父様が事故死した件もあります」
今の時代、家同士が取り決めた結婚をする人はいないだろう。たぶん、私達ぐらいじゃないだろうか。しかも理由が呪われるからとか、正直言って笑えない。
「あれは──あまり言いたくはないが、事故だろう。反対してたから殺されたというなら、身内の犯行になってしまうだろ」
「本当に何も起こらないんでしょうか?」
「不安ならする? 結婚」
「え?」