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悪魔公爵様担当

◇◇◇


 ココがアブサン公爵と出会ったのは、王国の中央神殿だ。併設されている無償の治療院に、患者として現れたのが彼だった。


 この国の貴族子女は、一定の年齢になると、奉仕活動が義務づけられている。男子は魔獣退治で戦闘の修練を行い、女子は神殿に勤めて、魔力を使って人を癒やす技術を学ぶ。無償で貧しい人たちのために働くことで、貴族にふさわしい品格を身につけるのだとして、国をあげて奨励されていた。


 ココはこの奉仕活動にハマっていた。


 忙しくて放置していたけど、明日は娘とピクニックだから膝の痛みを取りたい――


 魔獣の毒に当たってしまったが、ここの予約が取れてよかった――

 

 栗を納屋に置いておいたら、翌日、リスの魔獣がわらわら湧いていて、触ろうとしたら噛まれた――


 うちの子が妖精郷に招待されたというので、解呪をお願いしたい――


 本当に色んな人が聖なる力の奇跡を求めてやってくる。治療が終わって、元気に帰っていく彼らの後ろ姿を眺めるのが、ココは何より好きだった。


 将来は正式な聖女になれたらいいなぁ、と、密かに思っている。


 ただし、貴族令嬢の仕事は第一に結婚なので、なかなか険しい道のりだ。職業選択の自由を勝ち取るためにも、まずは実績を作ろうと考え、せっせと神殿に通い詰めていた。


 アブサン公爵はたったひとりで、ふらりと治療院に現れた。初めは名乗りもしなかったので、すっかり一般人だと誤解していたくらいだ。あとで同僚が正体に気づいて、教えてくれたのである。


 キラキラとした光沢のある、一風変わった灰色の髪をした青年だった。


 周囲から頭一つ抜けた美形なので、『わぁ、似合っているなぁ』と思った程度で、とりたてて不審な人物だとは感じなかった。


 強いて言えば、変なところに変な怪我をしていたが、そんなのは神殿ではよくあることである。


 初日は頭皮を深く切ってしまったというので治療に当たった。患部の左右にひとつずつ、黒くて丸い、硬い何かが埋まっていた。


「……これ、インプラントというか……何か埋め込んでるんですか?」


 無言でじろりと睨みつけるアブサン公爵は、独自の美学を感じるような、しゃれた服を着ていた。


「わぁ、おしゃれですねぇ。もしかして、これもファッションですか? なるほど……ピアスとかもいろんなところに付けたりしますもんね」


 そんな会話をしつつ、頭皮の切り傷なんて大したものでもないので、すぐに治療は終わった。


 二度目は、耳の先っぽが切り落とされ、血まみれの状態でやってきた。


「わあ、派手にやっちゃいましたねえ。ピアスを空けるのに失敗でもしたんですか? ダメですよ、そういうのは神殿でやらないと」


 耳の先なんてすぐに再生するので、さっそく直そうとしたが、なぜか本人に止められたのを覚えている。


「いや、血止めだけでいい。それと、少し形を整えてほしい」

「ん? 再生すれば綺麗に」

「いや! いいんだ。その……ファッションなんだ」


 耳の形を変えるファッション。そういうのもあるのか、とココは感心した。おとぎ話に出てくるエルフのようなものだろうか。


 ココは意外と手先が器用なので、そういうのは得意だ。


「任せてください。ご希望の形とかってありますか?」

「こう……普通の人間のように、丸く」  


 エルフ耳にするんじゃないのかぁ、と、ココはちょっとだけ落胆した。


 彼なら似合うのではないかと思ったのだ。


 とはいえ本人の要望なので、ちょいちょいと傷口が目立たないように縫合した。


 なかなかうまくできたと我ながら思っている。


「どうですか、カッコよく仕上がったと思うんですけど!」


 鏡を見せながらつい自分の技量を自慢してしまったのは、少しみっともなかったかなぁと、あとで反省した。実力がない人間ほど増長する、というやつだ。


 自画自賛が鬱陶しかったのか、寡黙な彼は逃げるようにして帰っていった。


 そして三回目には、犬歯が折れた状態でやってきた。


「完全に真っ二つですね……これは、歯医者さんにお願いしたほうが……」

「いいんだ。君に診てほしい」

「そうですか? 善処はしますが……」


 そのときも、傷の回復と、ちょっと尖った歯を丸くしてくれるだけでいいというので、お望み通りにしてあげた。


 彼の肉体改造にかける情熱はかなりのもので、その後も何かと治療を頼まれるようになったのである。


 特に、頭皮の治療はかなりの高頻度でやっていた。なんでも、埋め込んだインプラントを維持するのに、定期的にメンテナンスをしないといけないらしい。おしゃれは一日にしてならずだ。


「公爵様はすごいですねえ!」


 ある日、何回目かの治療で、思わずそう言ってしまったこともある。


「すごくおしゃれが好きなんですね。痛いと思うんですが、こんなにがんばってファッションを維持していて、カッコいいです!」


 身を削ってでも好きなものを極めようとするなんて、すごく素敵ではないか。


「……君は、気持ち悪いと思ったりしないのか?」


 アブサン公爵は寡黙な人なので、質問されたときには驚いた。


 いつもココが勝手に喋っていたので、嬉しくなっていろいろと答えた気がする。


「なんでですか? どこがですか? 私の知ってる限りでは、アブサン公爵様ぐらいおしゃれさんな人っていないですよ! いっつも綺麗にしてるので、つい見とれてしまいます」


 最後の方は完全にセクハラだった。


 ココの余計なひと言のせいで、アブサン公爵は真っ赤になってしまっていた。


「わ、ごめんなさい……! すみません、いきなりこんなこと言われたらびっくりしますよね。忘れてください」

「いや……全然」


 目を逸らしている姿に罪悪感を煽られ、一生懸命お詫びしたのを覚えている。


 アブサン公爵が定期的に通っていたことで、自然と周りからも注目を集めていたようだ。


 友人のオリビアからも詮索されていた。


「ココのところ、またアブサン公爵がいらっしゃったの? 先週も来てなかった?」

「うーん……たぶんそう。患者さんの数多くてあんまり覚えてない」


 彼女は目を丸くした。


「覚えてないって……あの悪魔公爵を……?」

「そんなあだ名あったんですか」


 いい人そうに見えたので、ココには驚きだ。


「そうだよ、みんな怖がって担当したがらなかったんだけど、ココは平気そうだよね」

「全然怖くないですよ、あの人」

「えぇ……」


 そしていつの間にか、彼はココの担当ということで固定されてしまった。


 そればかりか、だんだん治療以外の場面でも彼のことで呼ばれるようになっていったのである。


 ある日のこと。


「――ココ、いた! ねえ、来て! アブサン公爵が!」

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