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デートだった?

来ていただいてありがとうございます!




「今日はここまでにしよう」


今日も変わらずラーシュ様は厳しかった……。でも今日はずいぶん早く終わったわ。まだ夕方にもなってない。いつもなら学校が早く終わっても夕方までみっちり練習なのに。しかも最近では私の成績を上げるためといって、勉強までみてくれるようになったの。ラーシュ様は一学年上だし成績も優秀なんだって。その分歌の練習時間は減ったけど、ラーシュ様は勉強の方もとても厳しいから気が抜けなかった。


スモールウッド学園は三学期制。春期、秋期、冬期があって、その間に夏休み、新年のお休み、準備のお休みが入る。今日は春期最後の日で授業は午前で終わった。


「明日からは選抜チームの練習が始まるから、僕達だけの練習はしばらくお預けだね」

ラーシュ様はクラヴィーアのふたを閉めて立ち上がった。あ、そうか。明日に備えて今日は早く帰ろうってことなのね。

「ありがとうございました」

私も楽譜を鞄にしまい入れた。ああ、明日からは約一か月間の夏休みと選抜チームの練習が始まる。あまりきつくないといいなぁ。頑張ろうとは思いつつちょっとため息がでちゃう。


「………………今日は……街に出てお茶を飲んで帰ろう」

さあ、帰ったらサーラにお茶を淹れてもらっておやつを食べて、夏休みの課題を進めようかな……、あれ?今ラーシュ様にお茶に誘われた気がする。

「…………え?」

「何でそんなに驚いた顔するの?婚約者同士なんだからそれくらいは普通でしょ?」

いえいえ、あなたは前の時に何度もお茶会の誘い断ってくれましたよね?だから私、今回は一度も誘ってませんよね?……言えないけど。

「……そうですね」


「リファーナは甘いもの、好きなんだよね。この街に新しいカフェができたって聞いたから一緒に行こう」

そっか、クラスの女の子から聞いたんだ……。やっぱり私以外の人とはそういう普通の話をするのね。私の時は歌や音楽の話ばかりなのに。やや暗い気持ちになりつつ、どうにか断ろうと考えてた。ここはやっぱり体調不良って言っちゃおうかな。急に頭痛が……とか言ったらわざとらしい?

「その店に美味しいショコラムースがあるんだって。あと今だと季節限定のシトロンのタルトが……」

「行きます!」


ああ、またしても食欲に負けてしまった……。私の馬鹿。……それにあまり寄り道とかってしたことないからちょっと嬉しい。お姉様は許されるけど私はすごく怒られるの。お姉様は成績優秀で私の成績は中の上くらい。だからかな。そんなことする暇があるなら勉強しなさいって言われる。寄り道すると御者の人からお父様とお母様に報告が行っちゃうのよね。


前の時、高等部では寮に入ってた。使えるお金は限られてたけど、ロッティー様と学校の近くのカフェに行ったことがある。小さなカフェでそんなにメニューも多くなかったけれど、とてもドキドキして楽しかったのを覚えてる。






ラーシュ様に連れられて行ったカフェは、窓が大きくて明るい光が差し込むとてもきれいなお店だった。白を基調とした店内にはお花や植物が飾られていて、カフェスペースには制服姿のグループやカップルがたくさんいた。ショーケースには色とりどりのケーキや焼き菓子がたくさん並んでる。

「わあ……」

小さく歓声をもらした私の背中に手が当たる。

「?」

「行こう。二階の席を予約してあるから」

「二階?予約?」

戸惑いながらも店員さんに案内されて二階へあがる。パーテーションで仕切られた窓際の席しかないフロア。その一番奥の見晴らしのいい席に通された。

「わざわざ予約して下さったんですか?」

「ああ、一階は人が多いから。騒がしいのは苦手なんだ」

「そうなんですか……」

ラーシュ様は静かな方が好きなのね。普段無口なのはそのせいなのかしら。



しばらく二人で無言で向かい合って座っていると、優しそうな店員の女の人がお茶とケーキを運んできてくれた。さっきラーシュ様が言ってたショコラのムースとシトロンのタルト。


「他にも食べたいものがあったら注文して。今日は頑張ったご褒美とお祝いだから」

「お祝いですか?」

「リファーナが選抜チームに選ばれたから」

ああ、そうなんだ。飴と鞭の飴の方なのね!いつもは鞭ばかりだけど。

「ありがとうございます。いただきます」


まずは温かいお茶でのどを潤した。

「あ、このお茶美味しい……」

「これは僕のおすすめ。シュネーっていう花の香りのお茶だよ」

「いい香り……」

「うちの庭にも植えてあるから、今度冬に咲いたら見せてあげるよ」

「はい。ありがとうございます」

ラーシュ様と音楽以外の話をするのって初めて。そっか、ラーシュ様はこういうお茶が好きなんだ……。

私はもう一度ゆっくり味わってお茶を飲んだ。


ケーキはどちらもとても繊細な飾りつけがしてあって、味もとても美味しい。さすがにお腹がいっぱいでそれ以上は食べられなかったから、ちょっと悔しい。将来、自立できたらまた絶対食べにこようって決めた。目標が増えるとモチベーションが上がるよね。


「リファーナは幸せそうに食べるね。それ、美味しい?」

「はい。とても!ラーシュ様は召し上がらないのですか?」

ラーシュ様はお茶しか頼んでない。

「うん。僕は甘いものがそんなに得意じゃないから。量が食べられないんだ」

「なら、少し味見なさいますか?」

私はカトラリーボックスから予備のフォークを取り出そうとした。


「じゃあ、それをもらうよ」

「え?」

ラーシュ様は私の手ごとフォークを掴んで一口大に切ったシトロンのタルトを口に入れてしまった。

「ああ、本当だ。美味しいや」

……何てことをしてくれるの?!これって、これって!!いわゆる……。一瞬で顔に熱が上がる。あまりの事に私はフォークをテーブルの上に落としてしまった。


「はい。新しいフォーク。どうしたの?もう食べないの?」

あ、なんか意地悪い笑顔をしてる!ラーシュ様、確信犯だ。私からかわれたんだ。悔しい。

「食べます。残しません!」

今度いつ来れるかわからないもの。ちゃんと食べきったわよ!味、良く分からなくなっちゃったけど……。知らなかった。ラーシュ様って意外と意地悪だったんだ。それともこれって婚約者なら普通の事?明日、ロッティー様に聞いてみようかな。




翌日の選抜チームの練習の前にロッティー様に聞いたら、

「……惚気なの?」

ってちょっと冷たい声で言われちゃった。

「もう!ちゃんとデートもしてるんじゃないの!どこが『練習ばっかり』なの?」

って怒られた。



…………え、あれってデートだったの?人生初なんだけど、自覚なしに終わっちゃった……。でもラーシュ様はあんなのは慣れてて、きっとデートだとは思ってなかったんだろうな。








ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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