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夏の選抜

来ていただいてありがとうございます!



「今年の秋の精霊祭には一年生からも選抜チーム入りをした生徒がいます」

先生の言葉に教室中がざわめいた。


「秋の精霊祭」は収穫祭って呼ぶ地域もあるけど、その年の恵みを精霊様達に感謝するお祭りのことなの。毎年各地の聖地で式典やお祭りが開かれる。スモールウッド学園からも小さな音楽チームを編成して、精霊様達に音楽を届けたり、絵画を奉納したりするの。音楽チームに選ばれるのは主に高等部の生徒で中等部からも選ばれることがある。でもそれは大体三年生か二年生。だから、一年生から選ばれるのはとても珍しい。


誰が選ばれたんだろう?あ、窓の外に精霊様が飛んでる。風の精霊様が涼しい風とお花の良い香りを運んできてくれた。私はざわめきの治まらない教室でそっと風の精霊様に感謝の歌を口ずさんだ。少しだけ風が強くなって私の薄い金髪を揺らしていった。


「声楽選択のロッティー・リータ!立ってください」

「はい!」

えー!ロッティー様?!すごい!!でも分かる!前の時もそうだったんだけど、ロッティー様って歌上手なんだよね!教室内に拍手が起こった。私も手を叩いて喜んだわ。あれ?でも前の時は三年生の時に選ばれてたような気がするんだけどな?変わった?私の記憶違い?ま、いいか。


「そして同じく声楽選択のリファーナ・スティーリア!あなたもです」

「え?!」

「どうしました?早く立って前に出てきなさい」

「は、はい!」

私は慌てて教室の黒板の前、ロッティー様の隣に立った。え?なんで私?こんな事、前には無かった。


「昨年に引き続き一年生から選抜されたことは、大変素晴らしいことだと思います。お二人は秋の精霊祭に向けて来週から上級生との練習に参加してもらいます。一年生の代表としても頑張ってください」

普段はとても厳しいクライム先生がしわを深くして微笑むと、クラス中からもう一度拍手が起こった。


「信じられない……」

「リファーナ様、一緒に頑張りましょうね!」

「ええ。そうですね」

ロッティー様にそう答えたものの私はまだ戸惑っていた。







「そんなのはリファーナなら当然だ」

その日の放課後にいつもの音楽室でラーシュ様に報告したら、全然驚かれなかった。

「僕も昨年から選抜チームに参加している。毎日一緒に練習してるからわかる。リファーナだって選ばれるさ」

「クライム先生が仰ってた去年選ばれた生徒って、ラーシュ様の事だったんですね!すごいです!」

正直自分が選ばれたことはまだ信じられない。だけど嬉しい気持ちがどんどん湧いて来た。聖地の音楽隊に入れる可能性が出てきたんだから。

「この選抜チームにも選ばれないようでは聖地の音楽隊に入るなんて夢のまた夢だ」

「はい。でもまさか中等部の一年生で選んでいただけるとは思ってませんでした……」

高等部に進んでから選ばれるといいな、なんて夢見ていたから。

「ありがとうございます!ラーシュ様との練習のおかげです!」

持つべきものは頼もしい同士よね。


「……珍しいね。リファーナが笑うのは」

「え?珍しいですか?」

「うん。ここで歌を歌う時も滅多に笑わないよね」

「そんなことは……」

私は自分のほっぺを触った。え?そうだったの?

「少なくとも僕はあまり見たことがない。ああ、うちでおやつを食べてる時は一人で幸せそうに笑ってたっけね」

み、見られてた!そして笑われた。私にとってもラーシュ様の笑顔は珍しいんだけどな。

「ラーシュ様との練習の時は緊張しているので、たぶんそのせいかと思います」

とりあえず言い訳しておく。でもそんなに笑ったことなかったのかな……?

「緊張か……」


「あ、となると今年は花の聖地での精霊祭に行けるんだわ。それも楽しみです」

私はポンと手を打った。前の時は家の近くでの精霊祭ならちょっと見に行ったことがある。

「今年は?」

「あ、えっと、私は聖地での精霊祭って行ったことが無くて……」

ラーシュ様の顔がなんだか険しい?

「大体そういうのはお留守番が多かったんです。私がまだ小さいからって。両親と姉は出かけてましたけど」

「………………そう。なら今年は一緒に祭りを見て回ろう」

「ええ?!いえ、友人と……」

「そういうのは婚約者と行くだろう、その友人も」

「でも、なら一人で大丈夫ですから」

「祭りは物凄い人出だ。あっという間に迷子だね。初めてのリファーナには保護者が必要だ」

「うう……。よろしくお願いします」

本場のお祭りを見てみたい。そんな欲望に負けてしまった。

「うん。そういえば、夏休みは選抜チームの練習がほぼ毎日あるから、今年からは夏休みもずっと一緒だね」

「……ぇ……」

さよなら、私の安息……。ああ、夏が近いのね。遠くに高い雲が見える。青空が綺麗だわ……。





「あなたも選抜チームに選ばれたんですってね、リファーナ」

その夜の夕食時に珍しくアグネータお姉様が話しかけてきた。

「まあ、そうなの?どうして言わないの?」

お母様はそう言うけど、いつも私の話なんてする暇無いし話しかけても返事なんてなおざりだった。

「ごめんなさい。お母様」

「そうか。我が家の恥にならないように励みなさい」

お父様はにこりともせずに私に言い渡した。

「はい。頑張ります」

褒めて貰えないのは相変わらずね。もう慣れてるけど寂しいわ。


『そんなのはリファーナなら当然だ』


不意にラーシュ様の言葉を思い出した。そういえば、これは褒めてもらえてたのかもしれない。少しだけ胸の中が温かくなった気がする。

「あなたが選ばれるなんて今年だけの何かの間違いだとは思うけれど……。とにかく、私達の足を引っ張らないでね」

アグネータお姉様の冷たい視線も今日は気にならないみたい。

「はい。頑張ります!」




「まあまあ!ご姉妹そろって選ばれるなんて素晴らしいですね!毎日グラソン様と練習なさっている成果ですね。頑張られてましたものね!」

ベッドに入る前私はサーラに髪を梳かしてもらった。肩下まで伸びた髪を編んでもらいながら、今日の事を話した。サーラはとても喜んでくれて最後には涙ぐんでた。


サーラがこんなに喜んでくれるなんて。前の時ももっと頑張ったら良かった……。


ベッドに入って色々考えた。お姉様とラーシュ様は昨年もクラヴィーアで選ばれてる。今お姉様は三年生、ラーシュ様は二年生。接点はここなんじゃないかって思ってる。ラーシュ様はもうお姉様を好きになってるのかしら。今の所お姉様は婚約者の方ととても仲良しみたいなんだけど、本当はどうなんだろう?確かクレソニア様も選抜チームに入っていたはずよね?それとなく聞けないかな?そしてラーシュ様の方は……良く分からない。


「むう…………」

なんだか胸がモヤモヤする。がばっと起き上がって胸を押さえた。心なしかちくっとする…………。


「あー!やめやめ!楽しいことを考えよう!」

私は再びぼふんっとベッドに寝転んだ。

「今年の秋はずっと行ってみたかった精霊祭に行けるんだし!何より選抜チームに選ばれたわ!これで聖地の音楽隊に入れる道が開かれた!でも、それだけじゃダメだわ。今年頑張って来年もその次も選ばれないと。楽しくて自由な将来の為にもっともっと頑張ろう」










ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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