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目覚めたら

来ていただいてありがとうございます!



「お嬢様!朝ですよ。今日から学校です!早くお仕度をなさいませんと!」

私の身の回りのお世話をしてくれてるサーラの声がする。温かいベッドの中で寝返りをうった。


……学校なんて卒業したばかりだし……私は湖に落ちて……


「さあ早くお着換えを!入学式に遅れてしまいますわ」

サーラが私を揺さぶり起こす。


覚醒!


「生きてる?私、助かったんだ!良かったー!」

がばっと起き上がった私。思わず万歳した!

「何寝ぼけてらっしゃるんです?」

サーラは少し白いものが混じった茶色の髪の生え際を引きつらせている。あれ?サーラ少し若返ってる?もしかしてお化粧変えたの?


「本当に入学式に遅刻してしまいますよ?!」

「え?入学式?どこに入学するの?聖地精霊学院?無理よ?私の成績じゃ……」

聖地精霊学院は私が卒業したスモールウッド学園から数人しか進学できない更に上の学校だ。私なんかの成績じゃとても試験に合格できない。

「…………リファーナ様、本当に大丈夫ですか?奥様と旦那様をお呼びした方がいいかしら?お嬢様がおかしくなってしまわれたと……」

サーラが頬に手を当てて悩んでる。


あれ?私がおかしいの?なんだろう?あ、そういえば結婚式ってどうなったの?やっぱり延期?体、どこもなんともないや。


そう思いながらごそごそと起き出してとりあえず顔を洗おうと思ったんだけど、ドレッサーの鏡を見て驚いた。腰を抜かすかと思ったよ。


え?子どもになってる。戻ってる?


サーラがクローゼットから出しておいてくれただろうスモールウッド学園の制服は初等部のもの。小さい。っていうか私が小さい……!


混乱したまま着替え、朝食のために食堂へ下りた。


「あ、やっぱり同じ……」

朝食のテーブルに両親はいなかった。二歳年上の姉アグネータが中等部に進級して学年代表の挨拶をするから、そちらへ二人とも行ってしまったのだ。ちなみにスモールウッド学園は初等部、中等部、高等部があってそれぞれ建物が少し離れた場所にある。

「前はすごくショックだったけど、今はもう慣れちゃったわね……。さあ!朝ごはん」


食べながら冷静に状況を把握しよう。私には確かにスモールウッド学園を卒業して、明日には結婚式のはずで。でも湖に落とされて……。目覚めたら、子どもに戻っちゃってた。はい。夢ですね。たぶん起きたら元通りだわ。きっと。お父様やお母様やお姉様が心配してるから、早く目覚めないと…………あまり心配はされてないかもね。ま、大丈夫でしょ。とにかく明日目覚めたらきっと大丈夫。


いやに現実味のある夢だなぁって、のんびり美味しい朝ご飯を一人で堪能してたら、またサーラに叱られちゃった。一応入学式には間に合ったけど、どうせ夢なんだし行かなくてもいいのになぁ……。









って!戻ってないじゃないー!!


次の日もその次の日も十七歳の私に、もうすぐ十八歳の私に、明日結婚式の私に戻ることはなくて、学校の初等部に通い続けた。十歳のまま。相変わらず両親の興味は美人で優秀な姉にいってて、会話は私の頭の上を通っていく。私はこの不可思議な状況を誰にも相談できなかった。ある日の夕食の後やっと私に視線を向けたお父様がこう言った。

「明日はお前の婚約者との顔合わせの日だ」


あー!そうだったわ!学園に入学して初めてのお休みの日の前日に言われたんだった!前は驚いて緊張する間も無くて、頭の中真っ白であの人に会ったんだっけ。



ラーシュ=オーラ・グラソン様


現在十一歳。スモールウッド学園の初等部二年生。私の一歳上の男の子。侯爵家の次男様。ホワイトベージュの髪に深い緑色の瞳。思い出せるのはこれだけ。


前の時、私には無関心で、お茶にお誘いしても三回に二回はお断りされて(忙しいからって)、休日にお出かけにお誘いしても十回に一回程度来ていただけて(忙しいからって)、たまにお会いしてもあまり会話は進まず(仲良くもなれず)、挙句の果てに私の姉に心変わりしたから婚約を解消したいと申し出てきた人。


うん。無いな。もういいよね?きっと今回も同じだろうし、私も前の時はほぼ義務感でお手紙を送っていたし。お母様は私には興味が無いだろうし手紙なんて送らなくてもきっと分からないわ。


そんな無駄な事に時間や気持ちを使うくらいなら、自立して生きる手段を今から身に付けよう!できるなら、大好きな歌を歌って暮らす生活をしよう!


聖地の音楽隊に入れば、もし結婚しなくても家から追い出されても大丈夫。嫌な人と結婚しなくてもいい!今から必死でやってみよう。それからその道が駄目でも一人でも生きていけるように準備しておこう。よし!頑張るぞ!


ひとまずはラーシュ様だけど、彼は私に興味が無いだろうし何とか無難にやり過ごそう。私は新しくした日記にこれからの目標をしたためてベッドに入った。もしかしたら次は元の年齢に戻ってるんじゃないかと一縷の望みをかけて。ダメだったけど。





『君はつまらないね……』


前の時そうため息交じりに言われたことを覚えてる。前日に突然顔合わせを伝えられたことなんて相手は知る由もない。だから仕方ないけど……傷ついたわ。初対面で苦手な子になってそれがずっと続いたの。


でも!今回はもうそんなのどうでもいい!どうせ裏切られるんだから仲良くする必要もないしね。かえって気が楽だわ。大人達が私達を置いて別の部屋に行ってしまった後、私は特に彼に話しかける事もなく、用意されたお茶とお菓子を堪能していたの。だって私が何を話しても空返事なのは経験済みだから。


「君はそのお菓子が好きなの?」

「はい?」

突然話しかけられて驚いた!なんでそんな質問をされるの?前と違う……。違和感に不安を覚えた。

「婚約したんだから、少し話をしよう」

「…………はあ」

「…………」

あ、やっぱり会話が続かないね……。

「あの、どうぞお構いなく」

「…………」


どうしてこんな事になってるのかは分からないけど、とりあえずラーシュ様はそのまま黙ってしまったのでいいかって思った。うーん、やっぱり侯爵家のお菓子とお茶はうちのより美味しいわ!幸せ!


「…………つまらない、か」

「え?…………」


ぽそりと呟いたその後もラーシュ様は何かを言いたげだったけど、結局やっぱり前と同じで会話はほとんど無く顔合わせは終わった。


私は少し混乱していた。おおむね前と同じだったと思う。前は私が頑張って話しかけても会話は成立せず、最後は無言に終わった。今回は二人とも話さなかった。だから会話無し。結果は同じ。そしてラーシュ様は「つまらない」と言った。ちゃんと。


でも、何かが違う。「私」の事が「つまらない」とは言ってないような気がする。お菓子に集中していてラーシュ様のお顔は見てなかったから確証はないけれど。


「今回は前と何かが違うのかしら?」


小さな違和感にまた少し不安になったけど、私は明日の為に眠りについた。もしかしたら、明日の朝は元に戻ってるかもしれないと、淡い期待を抱いて。











ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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