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見えてなかったこと 知らなかったこと

来ていただいてありがとうございます!




「マーガレット!こんな所にいたのか!」


花畑の中お姫様のような人と一緒で、夢見心地でいた私の胸が早鐘を打ち始めた。突然現れたその人はアグネータお姉さまの婚約者。なのに、なんでそんなにマーガレット様と親し気なの?


なんで?なんで?なんで?どうしてクレソニア様がここに?


「まあ、アンソニー。わざわざ探しに来てくれたの?」

そして、もう二人は名前で呼び合う仲なの?そんな……。やっぱりそうなの?前と同じになってしまうの?









「そうなんですの。お散歩してたら歌声が聞こえてきて!お会いできて嬉しいですわ。でも突然お邪魔してしまって申し訳ございません」

マーガレット様は正面に座った私に天使の微笑みを向けてくれた。


聖地の街にあるグラソン侯爵家の別邸の居間。今、クレソニア様とマーガレット様とラーシュ様と私でお茶を飲んでお話をしているの。


「いえ、お誘いしたのはこちらですから。でもどうしてクレソニア様がオルコット様とご一緒だったのですか?」

ラーシュ様が私が今一番聞きたいことを質問してくれた!

「ああ、それは僕の家とオルコット家は少し遠いけど親戚関係だからだよ」

「それは存じ上げておりますが、お二人がここまで近しい間柄とは知らず……」

え?ラーシュ様は知ってたんだ。全然知らなかった。私ってもの知らずだわ。


「いわゆる幼馴染というものですわね」

うふふって可愛らしく笑うマーガレット様。

「とはいっても本当に小さな頃に何度か遊んだくらいのものだけどね。留学中のオルコット嬢の世話を頼まれているんだ。まさか一人であんな所へまで行くなんて」

クレソニア様は呆れたように頭をかいた。

「ごめんなさい。どうしても精霊様にお会いしたくて!花の聖地も間近で見てみたかったのですわ」

マーガレット様の所作はとても優雅で、やっぱりお姫様みたいに綺麗。アグネータお姉様も美人だけど正反対な感じだわ。



マーガレット様と花畑で偶然出会った後、マーガレット様の侍女さんとクレソニア様がマーガレット様を探しに来られたの。マーガレット様はこうして一人でお散歩をするのがお好きなんですって。侍女さんも心配はしてたけどいつものことだって苦笑してた。


それからラーシュ様が私を迎えに来てくれて一番近いグラソン家の別邸でお茶を、ってことになったの。クレソニア様がマーガレット様を探しに来た時はとうとう二人が……!って思って覚悟したけど、お二人は元々親戚だったのね。注意深く観察したけど、まだそんな甘い雰囲気は無くて兄妹のように見えた。お二人ともとても誠実で優しいのに、これからお姉様を悲しませる原因になるのね。ちょっと信じられない。



四人でしばらくの間談笑(と言っても私はほぼ聞き役だったけど)して、お二人が帰られた後、私もラーシュ様に叱られてしまった。

「心配したよ。外に出るなら声をかけてくれればいいのに」

「ごめんなさい。最初はお庭を散歩してたんですけど、つい湖の方へ行ってみたくなってしまって」

考え事してたらあの場所で座り込んじゃってた。

「少し元気が出てきたみたいだね。顔色が良くなってきた」

ラーシュ様は手を伸ばそうとして少しためらった後、私の頭をそっと撫でた。ラーシュ様、また背が伸びてる。どんどんあの時のラーシュ様に近くなってるのを感じて、私の心がひやっと冷たくなった気がする。


「ご心配をおかけして申し訳ありません。……あの、ラーシュ様はどうして昨日、音楽室へ戻ってらしたんですか?」

ラーシュ様がいてくれなかったら、私はあの場でずっと動けずにいたかもしれない。ラーシュ様には助けてもらってばかりだわ。

「よく考えたら、話をするなら二人でカフェにでも行けばいいと思ったんだ。カフェまで送って行こうと思ってね。ほら、リファーナは練習後はおやつが欲しいでしょ」

「ラーシュ様、酷いです。私そんなに食いしん坊じゃないです」

「あれ?そうなの?じゃあ王都へは行かないの?」

「う…………行きます」

「ほらね」

うう、やっぱり反論できないかも。歌を歌うと結構お腹が空いちゃうのよね。それに甘いお菓子は大好きだからやめられない。


「それでこそリファーナだ。……それはそうと、クレソニア様を随分と熱っぽい目で見てたけど、どうしてかな?」

「え?熱……?いえ、いいえ!そんなんじゃありません!」

そんな風に見られてたなんて!どうしよう、あのお二人にも誤解された?

「あの、私、お恥ずかしながらあのお二人がご親戚って存じ上げてなくて。その、クレソニア様はアグネータお姉様の婚約者なのにどうしてマーガレット様とご一緒にって思ってしまっていて……その……」

「ああ、成程。疑ってたってこと?」

「申し訳ありません……。お二人にも誤解されてしまったでしょうか……」

「ううん、彼らは気が付いてなかったと思うよ。大丈夫。そうかリファーナは知らなかったんだね」

「はい。世間知らずで本当に恥ずかしいです」


やり直しをしてて思うの。前の私は自分ができないこと、知らないことに盲目すぎたんだって。家族から出来の悪い子って言われ続けて、勝手に諦めて自分からは何もしようとしなかった。閉じこもって何も見ようとしてなかった。今もそう。私はロッティー様のことが好きだったけど、それはたぶんロッティー様を自分の都合の良いように見てただけ。ロッティー様の気持ちなんて見てなかったんだわ。だから、嫌われてしまった。


「また遠くを見てる」

いつの間にかラーシュ様が隣に座ってて驚いた。

「すみません。つい考え事をしてしまって」

お話してる途中なのに私ったら物凄く失礼なことをしてしまった。

「……時々、リファーナを精霊に取られそうだって怖くなる時があるよ」

「精霊様に?」

取られるって?

「うん。リファーナは精霊に愛されてる。リファーナもそうでしょ?聖地の音楽隊に入りたいくらいなんだし」


本当は最初はそうじゃなかった。できれば愛のある結婚したい。そうするためには自立する必要があるから、そこを目指しただけ。もちろん歌うのが大好きだったからだし、そのくらいしかできないって思ってた。でも何度か大きな舞台を経験したりして、精霊様達に喜んでもらえるととっても嬉しかった。もっともっと頑張ろうって思えたの。


「……はい」

「リファーナなら精霊の歌姫になれるかもしれないね」


精霊の歌姫……って、聖地の音楽隊の歌い手の最高位。精霊の奏者、精霊の歌い手、精霊の創作者と並ぶ最も栄誉ある立場……。本で読んだ文字が頭に浮かぶ。


「む、無理無理無理ですっ!そんな!考えるだけで恐れ多いです!まずは試験に合格して音楽隊に入らないと!私は全然そんな……選抜チームのソロだっていっぱいいっぱいで……!」

「そうだったね、じゃあ練習頑張らないとね。今まで以上に」

「…………はい」

今まで以上って……。今でも十分に厳しいのに更にですか?

「じゃあ、僕も今まで以上に気合を入れないとね」

「うう……」

ラーシュ様の気合って、お、恐ろしい……。怖すぎるわ……。

「歌姫を繋ぎ留められないと困るから」

「え?」

つなぎとめるって?



頬に温かな感触が……。


「っ!」

い、今……!頬にキスされた?!

「あ、あの、ラーシュ様、今……」


離れようとしたけど二人掛けのソファは逃げ場がなくて、その上、肩を強く抱かれていて動けなかった。


「僕も精霊の奏者を目指そうかな」

ラーシュ様の深い緑の瞳がいたずらっぽく笑った。

「ラ、ラーシュ様なら間違いなくなれると思います……。あのラーシュ様、今のは……」

頬が熱い。手で押さえて俯いてしまう。

「僕はリファーナの婚約者だからね。問題ないでしょ。いずれ結婚するんだし」

「そ、それは……」

たぶん、そうはならない。でも、言えない。胸が痛い。


「リファーナ、真っ赤だ。慣れてないの?父上からとか」

「……父はあまりそういうことをしない人なので」

幼い頃はお姉様にも無関心だったものね。

「そうなんだ……。じゃあ僕が初めて?」

「たぶん……」

「へえ……。唇は?」

「…………へ?く、くち?そ、そんなことは……私はっ……」

「その反応って……。ふうん、そうなんだ。まあ、そうだよね。あれだけ練習漬けだったし、そんな暇ないよね」

ラーシュ様は一人で何かを納得してるみたい。私の顔はさっきより赤くなってると思う。もう、リファーナという名の赤い何かになってるかも。


「あ、あの、ラーシュ様っ?!」

顔が近いわ。どんどん近づいてくる……?!ちょ、ちょっと待って。もう無理……。目を瞑る間際、吐息がかかる距離で止まった。

「……ふ……」

あ、ラーシュ様、笑ってる?

「酷い……からかったんですね!し、失礼しますっ」

私は涙目で立ち上がり、ラーシュ様から逃げ出した。

「…………逃げられちゃった」

ラーシュ様の呟きが寂しそうに聞こえるのはきっと気のせい。


限界だった。泣き出してしまいそう。ラーシュ様は時々意地悪だ。酷い酷い……。冬には私の前からいなくなっちゃうのに。


キスして欲しかった……。


ああ、私、ラーシュ様の事が好き……。知らなかった。好きになるって、こんなに苦しいのね。










ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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