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夏の約束

来ていただいてありがとうございます!



「あなた最近調子に乗ってない?」


先生に呼ばれて用事を頼まれて、教室に戻ろうとして廊下を歩いていたら、突然誰かに前に立ちはだかられた。

「お、お姉様?」

珍しくアグネータお姉様が話しかけてきた。どうして一年生の教室の近くにいらっしゃるのかしら?そして調子に乗ってるってどういう事?訳がわからなすぎて言葉が出ない。


「代表挨拶も選抜のソロも運が良かっただけでしょう?それなのにアンソニーったら……」

クレソニア様が何か仰ったのかしら……。そういえばお母様がそんなようなことを仰ってたような……?

「確かにどちらも運が良かっただけかもしれません。もっともっと精進いたします。アドバイスありがとうございます。お姉様」


「ふん。わかればいいわ!あなたは身の程をわきまえる事ね!」


眩い金色の髪を翻して、颯爽と去って行くお姉様を見送った。


「何だったんだろう?」

お姉様が話しかけてくるのも珍しいけど、機嫌が悪いのも珍しいわ。









「ねえ、スティーリアさん、知ってる?」

授業が終わって、帰り支度をしている時、クラスの男子生徒が話しかけてきた。

「隣のクラスに隣国のアップフィール王国からの留学生が来たんだって」

「私も聞きましたわ!ご家庭の御事情で二月遅れになられたとか!」

ロッティー様が話しに入って来られた。

「お名前はマーガレット・オルコット様でしたわね」

最初に話しかけてきた男子生徒が少しだけムッとしたような表情になる。自分が言おうとしてたことを取られてしまったから?

「そうなんですね。知らなかったですわ。教えて下さってありがとうございます」

二人にお礼を言うと、その男子生徒……たしかエバンズ様だったかしら?がにこやかな表情になった。


…………とうとう来た……。確かその方だわ。隣国の公爵令嬢だったはず。前の時にクレソニア様の恋人に、そして婚約者になった方。入学式の時には見かけなかったから、もしかして前とは違う展開になるのかと思ったけれど……。やっぱり流れは変わらないのね。


「とても美人でヴィオリアが得意だって話だよ」

別の男子生徒も話の輪に入って来た。うん。それ知ってる。優しくてお淑やかで才女で……。お姉様と十分に張り合える人。直接会ったことは無いけど、前の時に話に聞いた事はある。両国の友好の為だって、クレソニア様のお姉様との婚約解消は非難されなかった。心変わりは仕方のないことなのかもしれないけど、クレソニア様とアグネータお姉様はあんなに仲が良かったのにそういう事になってしまうのね。





ふいに肩が温かくなった。温かい?

「何してるの?練習の時間だよ?」

「っラーシュ様っ」

え?ラーシュ様が私の肩を抱いてる?ここ一年生の教室よ?ラーシュ様はクラスメイトの子達をちらっと見ると

「練習があるので、失礼するよ」

とだけ言って、そのまま私を教室から連れ出した。

「じゃあ、ロッティー様、皆様また明日っ」




「大丈夫?」

「え?」

「顔色が悪い……。体調が良くない?それとも何か心配事?」

「いえ、何ともありません」

私は肩を抱かれたままなのに気付いて離れようとしたんだけど、できなかった。


まただわ……。中等部から高等部に進級した頃から、ラーシュ様の様子が何故かおかしいの。何かって……、距離が近いの。私は来るべき日に備えてラーシュ様とは適切な距離感でいようとしてるんだけど、私が離れた分だけ近づいて来るの。どうしてなの?特に放課後とかに廊下なんかで先生とか他のクラスメイトと話をしてると、必ず肩を抱いてくる。学年が違うから教室のある階も違うのにいつの間にか近くにきてる。一緒に練習はするけど、音楽室へはそれぞれで行ってもいいと思うんだけど。


「話の邪魔をして悪かったかな」

「いいえ、大丈夫です。それよりも早く練習に行かないと」

そうよ。ぐずぐすしてる暇はないわ。クレソニア様とマーガレット・オルコット様が出会ったらきっと前のようになってしまう。その前にもっともっと歌を上達しておかなきゃ。


「……今日は休みにしよう」

「え?!」

ラーシュ様が前に回り込んで私の顔を覗き込んだ。ああ、あまり近づかないで……。

「酷く顔色が悪いよ。最近練習も根を詰めすぎてる。今日は街へ行こう」

「で、でも、そんな時間は……」

「リファーナが参加する聖地の音楽隊の演奏会はまだ先だ。今日一日くらい休んでも大丈夫だよ。それにたまには喉を休めないとね」


私はラーシュ様と一緒に聖地の音楽隊の練習に時々参加させてもらってる。その流れで、今度の聖地での小さな演奏会に参加させてもらえることになったの。聖地の音楽隊は月に一度聖地で精霊様達に捧げる演奏を行うの。それ以外にも十日に一度くらいの頻度で少人数で演奏会をするんだけど、今度私もそれに参加させてもらえることになったの!これは大事な一歩。とても大きな一歩なの。頑張りたいの。

 

「リファーナは最近頑張りすぎてる。見ていて心配だ。今日だって」

今日のはちょっと違うのだけど、ラーシュ様がそう言うならそうなのかもしれない。

「わかりました」

少しだけ肩から力が抜けちゃった。ラーシュ様と初めて一緒に高等部の校舎がある街を歩いた。前にロッティー様達と歩いたことがある街。景色は変わらないけど前とは違う街に見える。



「で?さっきは彼らと何の話をしてたの?」

近くのカフェに入ってお茶を飲みながら、このカフェには入ったこと無いなって店内を見てた。

「マーガレット・オルコット様のことを聞いていました」

「ああ、アップフィール王国から留学してきたっていう……。たしか王家の血縁だって聞いてるけど」

「とてもお綺麗で素敵な方で、ヴィオリアがお上手だとか。きっと今年の選抜チームにも選ばれるのでしょうね」

私は食べようとしていたケーキのフォークを置いた。窓の外は明るくて精霊様達が飛んでいるのが見える。店内も明るくて雰囲気がとてもいい。でも、私の胸の中には重くて暗い何かがあって沈んでいきそうな気持ちだった。


やっぱり、流れは変わらないのかしら。ラーシュ様との関係は随分と変化があったけど、練習仲間ってだけだし恋人同士になった訳じゃない。クレソニア様とマーガレット・オルコット様はたぶんもうすぐ出会って惹かれ合ってしまうのだろう。そうしたらお姉様とラーシュ様が……。



「リファーナは、姉上をどう思ってるの?」

「え?」

ラーシュ様は静かな瞳で私を見てる。もしかしてラーシュ様はお姉様に興味を持ち始めたの?

「どう、とは……」

ドクンドクンと胸が鳴り、テーブルの下で握り締めた手が震える。

「うん。リファーナは家族の事をあまり話さないから、少し気になってね」

「特に何も……」

前の時は両親やお姉様に仲良くしてもらいたいと思って色々頑張ってみたけど、結局お父様もお母様もお姉様にしか興味が無かったし。今回も同じで、私は自立するために交流自体を諦めてしまった。


「特に何も……か。…………ねえリファーナ、夏休みはうちの別邸においで」

「え?!グラソン侯爵家の?」

毎年、秋の精霊祭の時にお世話になってるけど、夏休みの間中ずっと?!ひと月もあるのに?!い、嫌だわ。困る!!…………ううん、本当は嫌じゃない。夏の間ずっとラーシュ様といられるのは嬉しい。ああ、もう駄目だわ。私ラーシュ様を好きになり始めちゃってるみたい。


「い、いえ、さすがにそれはご迷惑すぎます!!」

「なんで?聖地の音楽隊の練習にも参加するんでしょ?だったら近い方が便利じゃない」

「そ、それはそうだと思いますけど、うちも別邸を持ってますし……」

「行くの?」

「い、いえ……」

聖地の街は避暑地でもある。もしかしたらお父様とお母様も来るかもしれない。だったら寮にいる方がいいわ。

「あと、僕は迷惑だなんて全く思ってないから」

「でも……」


「母も来るといってるし、リファーナに会えるのを楽しみにしてるんだけど……」

え?グラソン侯爵夫人も?あ、会いたい。また歌の指導していただけるかしら。グラソン侯爵夫人は聖地の音楽隊にもいらした方なのよね。

「……そうなんですか。ありがとうございます。ではよろしくお願いします」

うう、私ってば欲望に正直なんだわ。それにここまで言ってもらえては断ることも出来ないもの。


「………………」

突然、ラーシュ様は不機嫌になってしまって、頬杖をついたままそっぽを向いてしまった。どうしたのかしら?







ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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