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お読みいただきありがとうございます! ようやく転生です。

 ティリアネ遅いな・・・。


 ボーッとしていると、知らず知らずのうちに、手遊びを始めていた自分に気付いた。


「こういうのは全部覚えてるのに」


 やっぱり不思議だ。


 使っていた言葉も、通っていた学校も、弟の名前も、友達の名前も、全部思い出せるのに、自分の名前だけは、思い出そうとすればするほど、わからなくなるのだ。


 正直、前世も来世も信じていなかった私が、あんなことを説明されてよく呑み込めたなと、今も思う。


 めちゃくちゃチートになりそうだけど、できれば目立たずに生きたいな。これで王女生まれとかだったら、マジでティリアネ恨むよ?


 しばらく勝手に想像を広げていた私の前に、再び光が現れた。今度は二人分。


「遅くなってごめんなさいね! 急いで申請書を受理してもらってきたわ! 」


 それって、勢いで上に押し通してきたんじゃ・・・。


「それと、こっちはウィンクルム! 世界間連絡管理神よ! 」

「世界間連絡管理神・・・」

「初めまして。シエルだっけ? 僕が君をティリアネの世界に送るね」


 時空管理神のクロノス様もそうだったけど、全員が全員、ティリアネみたいに世界を管理している訳じゃないんだ。


「もう話は一通り済んだっぽいし、さっさと行っちゃおうか」

「あら、そんなに急がなくてもいいじゃない! 」

「僕まだ明日提出の資料できてないし、今こうしてしている間にも、机に新しい書類が積まれているんだよ・・・。なんかさっき、トラブルが起きたみたいな、めんどくさい報告来上がってたし・・・」


 なんというか・・・、人間の会社みたいというか・・・。神様って、神社でお賽銭投げてもらってるの見てるだけって感じだったんだけど・・・、あれだね。


 楽な仕事じゃないんだね、神様も。


「ごめんね、こんなやつで! でも腕は確かだから心配ないわよ。安心してちょうだい! 」


 ティリアネと同じ色彩の髪と目をしているものの、パーカーというカジュアルな服装のせいで、ティリアネほどの荘厳さは感じれない。


「念のためもう一度だけ聞くけど、説明は全部終わったよね? シエルも、他に聞きたいことがあったりしたら、今のうちだよ」

「じゃあ一つだけ。ティリアネ」

「なにかしら? 」


「また会える? 」


 せっかくできた友達なのに、これで最後なんて悲しすぎるから。


「・・・ええ! もちろんよ! シエルは私と深い繋がりがあるから、思念を送ってくれたらいつでも招待できるわ! 」


 ティリアネは目を見開いたあと、突然バッと飛び込んできた。


「わかった。ありがとう」

「楽しみにしてるわ! 」


 そんな中、ぎゅっと私に抱き付いたままのティリアネに、半ば空気と化していたウィンクルム様が声をかける。


「感動シーンをぶち壊して悪いけど、それ以上話がないなら、そろそろ送ってもいい? 」

「全く、せっかちね! ふぅ・・・じゃあね、シエル」

「うん」


「じゃあ行くね」


 そう言ってウィンクルム様が指を鳴らした途端、私の足元が光りだして、体が浮いた。


 おお・・・! なんかかっこいい。


 すると、いつの間にか透明な膜に回りを覆われていて、底から水が湧き出始める。細かいことはわからないけど、ただの水である訳がなく、触れたところから体が粒子になって溶け出している。


 自然と恐れは感じない。


 とうとう水が胸の辺りまで来た。


「バイバイ、ティリアネ。またね」


 振り上げた手は、肘から溶けていく。次第に口、鼻と、溺れるような感覚と共に水が登ってきた。


 静かに目を閉じる。水位が目の位置を越したのがわかった。溶けた部分の感覚はないものの、意識ははっきりしている。


 とうとう水が全身を覆った瞬間、私の意識は消えた。



***


 

 シエルが完全に溶けて膜の中が細粒子保護水で一杯になると、水球は目の前でパッとその場から消えた。


 と同時に、第三時空第二百二十宇宙エーレスの管理神であるティリアネは、自身の管理域に異質なものが入ったのを感じ取った。


「無事着いたみたいね! 」

「ならよかった」


 通常、転生時には時空の帯が転生先の世界まで運ぶのだが、シエルは直接界渡りしなくちゃいけないため、その時の衝撃で魂が割れてしまわないよう、保護水を使わないといけなかったのだ。


「いつの間に指パッチンなんてできるようになったのよ! 」

「さあ? ここ百年は直接力を使うことなんてなかったからね~。でもあのシエルって子・・・━━でしょ? 」



「そうよ、それがなにか? 私の大事な友達よ。手を出したら容赦しないわ」



 突然ティリアネの雰囲気が変わり、シエルがいたときとは打って変わったような、底冷えする視線がウィンクルムへ向けられる。とっくに慣れたウィンクルムは、相変わらず飄々としたままだ。



「まあまあ、手を出すつもりなんてないよ。ただ『()()()()()()()()()()()()』のおまえが、シエルの前ではあんなに猫を被るのが面白くて、ね」



「うるさいわね」

「ちなみにあのシエルって名前も、君が名付け親だったりして? 」

「そうとも言えるわね。最終的にはシエルが自分で選んだけど、候補を出したのは私だから」

「ふーん。・・・いい名前だね」

「もちろんよ」



 古神語で「悠久を生き抜く者(シエル)」。



「これからどうなるんだろうね? 」


 悠然と、ウィンクルムが微笑んだとき、



『おいウィンクルム、いつまでそこにいる。さっさと帰ってこい、さっきから、おまえ当ての緊急報告が上がりまくってるぞ』



 突然降ってきた声に、名指しされたウィンクルムが慌て出す。


「ヤバッ! 珍しくクロノスがお怒りだ・・・」


 本人は知らないものの、つい先日発表された「怒らせてはいけない神ランキング《最新版》」で、クロノスは見事第四位にランクインしている。そんなやつの逆鱗をわざわざ逆撫でしたくはない。


「ねえ、一緒に帰ってくれない? 」

「いいけど、その後は知らないわ」

「ねえ~、そんな冷たくせずに、ね? お願い、せめてサボってた訳じゃないことぐらいは言ってくれ! 」

「・・・今度メーレンで奢ってくれるなら」

「わかった! ありがとう! 」

「じゃあよろしくね」

「任せて! メーレンだよね? あとで住所送っといてくれる? って、メーレン? メーレン、メーレン、どこかで聞いたような・・・。あ! メーレンってあの超高級レストランじゃん! そこを奢れってこと!? 」

「そうに決まってるでしょ」

「俺の財布~・・・」


 話ながら、二柱(ふたり)の姿が徐々に消え始める。



神々(わたしたち)は見守っているわよ、シエル」



 そう言い残して。



***



「なんか小さい・・・? 」










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