32
「ほう、そなたが・・・。随分と幼いようだが、どこから来たのだ? 」
「森で暮らしていました」
「故郷は? 」
「わかりません。物心がついたときにはすでに森にいました」
アルシュさんとクラックさんがどこまで報告を上げているかわからないから、迂闊に口を滑らすわけにはいかない。慎重に答えないと。
「神獣と契約を結んでいると聞いたが・・・」
「契約を結んでいるかどうかはわかりませんが、彼らは私と共に森で過ごしてくれました」
私が神獣との関係を認めた瞬間、ザワッと会場の空気が揺れた。
「契約なしに側にいるということか? 」
「ではあの四匹はみな・・・」
「なんと・・・」
「真実なのか? 」
ひそひそ声があからさまに大きくなる。
さて、このカミングアウトが吉と出るか凶と出るか。
「なるほど。・・・王妃よ、どう思う」
「そうですわね・・・。そちらの神獣様方と直接お話はできるのですか? 」
「ああ、できるぞ」
ザワッと、本日二度目の驚愕が広がる。
「聞いたことのないことだ・・・」
「人の言葉を話せるのか! 」
自分で問いを出した王妃自身も驚いているようだ。
「なんだ? そっちから聞いてきたというのに、何を驚いているんだ? 」
「いえ、予想外でしたわ・・・。神獣様方はシエルさんの命令を聞くのでしょうか? 」
「我らにとってはシエルさえ良ければそれでいい。その他も同様だ」
「そうですか、ありがとうございます」
実質「私さえ言いくるめられれば神獣を思い通りにできる」とも取れる発言だ。たぶん黎月は牽制のつもりで言ったんだろうけど、これで変な事を考える輩が出ないとも限らない。
『いいよ、一緒に行こう』
『ありがとうございます! 』
『但し、政治とかには一切関わるつもりはないから。こっちで決めたなら別だけど、知らないうちに変なことに巻き込まれるつもりはないよ』
『わかりました。できる限り尽力します』
『できる限り尽力ってことは、やっぱり私に関わって欲しいなにかがあるんだね? 』
ふとしばらく前の会話が脳裏に浮かんできた。
あのときは結局どんな問題なのか聞けなかったけど、人間と関わるってことは、こういう問題にも巻き込まれるってことなんだよな・・・。しかも国の上層部とかいう超絶めんどくさいじゃん。
「陛下。まだ子どもとはいえ、貴重な人材だと思いますわ」
「王妃もそう思うか。よくぞ我が国に参られた、正式に客人として歓迎しよう! 」
パチパチパチパチと拍手が起こった。
これは・・・この国での滞在を認められたってことでいいのかな?
「すぐに住まいを用意させよう」
「あ、いえ、今まで通り第二騎士団の方で世話になりたいと思います」
「よいのか? 」
「はい」
「では護衛はこちらから送ろう」
できれば護衛も第二騎士団の人がいいけど・・・、あまり断りすぎて変な勘ぐりをされるのは嫌だな。
「ありがとうございます」
「ではそういうこととしよう。皆の者も、急な招集だったにも関わらずご苦労だった」
そうして少しばかりの不安を残しながら、謁見は終わった。
お読みいただきありがとうございます!