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暖かい・・・。
ぬくぬくとした、心地よい温度だ。いつまでもくるまっていたい。
でももう起きなきゃ。
眠気を引きずりながらゆっくりと目を開いた私は、知らないところにいた。
一面に真っ白な靄に包まれていて、天井も床も壁もない。
「なにここ・・・」
『起きたか? 』
ふいに聞こえてきた声に周りを見渡すものの、それらしき人影はない。
「・・・起きたけど? 」
『・・・なんでそんなに警戒するんだ? 』
「今の状況じゃ誘拐されたに等しいんだから、当たり前でしょ」
『誘拐・・・』
姿が見えなくとも、落ち込んだのが伝わってきた。
『なあヘルメス、俺は誘拐犯なのか? 』
『クロノス。悪いけど、客観的に見たらそうだよ・・・』
『一応助けた側なのだが? 』
こそこそしてるのも全部聞こえてるんだけど。
『俺の名前はクロノス。時空管理神だ』
「あ、やっぱり神様だったんだ。で、何で私はこんなとこにいるの? 」
衝撃的ではあったけど、なぜか、自分でも驚くほどの冷静さを保てている。
『そなたは時空の帯の裂け目から落ちてしまったのだ』
「時空の帯? 」
『ああ。魂というものは普通、時空の帯に乗って冥界へ送られ、そこで記憶を消される。それからまた時空の帯へ戻されて輪廻を繰り返すのだが・・・』
「私はそこから落ちてしまったと」
『そういうことだ。本当に申し訳なかった』
「申し訳なかったって言われてもね~。今ここにいるってことは、もうその時空の帯とやらには戻れないんでしょ? 」
『一度離れたものをもう一度無理矢理ねじ込もうとすれば、綻びができてしまう。その綻びはだんだんと因果律をねじ曲げ、やがて狂わせる。昔それである世界が滅んだのだ。それ以来、時空の帯への手出しは厳しく規定されるようになったため、時空の帯に戻すのは不可能に近いだろう』
戻れるか戻れないか聞いただけなのに、思った以上に長々と説明してくれた。でもこれってつまり・・・。
「つまり私は、完全にそっちのミスで転生できなくなったと」
『ウッ、すまない・・・』
元気出せよと、誰かが慰めている声が聞こえてくる。たぶんその人も神様なんだろう。
「じゃあ私はこれからどうしろと? 」
『時空の帯に戻せなくとも、今の状態でそのまま転生させることはできる』
「地球に? 」
『いや、違う世界だ』
「異世界ってこと? 」
『まあそんなとこだ。そなたにはエーレスという世界に転生してもらう』
はあ・・・。小説の定番ではあるけど、まさか現実にもあったとは。
『初めまして~! 私がエーレスの管理神、ティリアネよ! 』
突然、クロノス様とは逆タイプの、ハイテンションな声が割り込んできた。
『あとは任せたぞ? 』
『ええ! 』
担当交代かな。
『さて、ちょっとそっちに行くわよ! 』
「そっちに行く? 」
意味がわからないまま首をかしげていると、突然目の前に光が現れ、人の形を成した。光が収まると、そこには輝くばかりの黄金色の髪と目を持った美女が佇んでいた。ギリシャ神話にいる女神と似た感じの、布を巻き付けたようなワンピースを着ている。
「改めて初めましてね! 」
「あ、ティリアネ、様? 」
「様なんて要らないわよ! ティリアネでいいわよ、ティ リ ア ネ ! あと敬語も禁止ね! 」
「じゃあ、ティリアネで」
なんか・・・すごく明るい神様だな。
「ねえ、私たち友達にならない? 」
「別にいいけど・・・、逆にいいの? ティリアネは神様でしょ? 」
「そんなの関係ないわ! ありがとう! 私、人間の友達は初めてなのよ! 」
私の手を握ってそう言うティリアネは、本当に嬉しそうにしていた。