苦節5年。生まれてきてくれて、ありがとう。
なろうラジオ大賞用小説第七弾!
千文字で出産シーンをどこまで書けるかの実験作でもあります(ぇ
私は分娩室にいた。
これから私は出産するのだ。
私が愛する人達の、愛する子供を。
「フェリスさん、大丈夫ですよ」
「母子共に安定してます。これなら」
私を勇気付けようと。
医師と学者が声をかける。
「大丈夫か、フェリス?」
「フェリス、私も付いてるからね!」
そして、分娩室まで付き添ってくれた……私が産む子供の本当のご両親である、レイナ様とアラン様も声をかける。
私は静かに頷いた。
怖くないと言ったら嘘になる。
処女のままでの出産なのだから。
だけど、怖くても私は。
私が愛する人達……レイナ様と、その旦那様であるアラン様の子供を産まなくてはいけない。
私の命を、引き替えにする覚悟で。
私がお仕えするレイナ様は、子供が出来ない体で。
そしてアラン様は、レイナ様と協力して、それでも子供を得るための手段を確立し……私が、そして私の産む子供が希望になるのだ。
ここで失敗なんか、しない。
大好きなお二人を、悲しませたくないから。
そしてお二人以外にも……子供が欲しいのに出来ない方々が、今のこの世界にはたくさんいるから。
その方々のためにも、失敗するワケにはいかない。
「よし、息んで!」
医師の指示に従い、息む。
同時に学者達が、私の体と魔晶板を交互に見る。
私と、私が産む子供の状態は、魔晶板で常に確認されてる。
そして、そんな学者達が何も言わないのだから、問題ないのだから……私は私がやるべき事を、やり抜くだけ。
私は、息む。
お腹の中の子に。
外の世界を、知ってほしいから。
代理出産、という特殊な産まれ方で。
さらに、私の胎内に受精卵を着床させた後、問題が見つかる度に成長を遅らせる処置を施されたりして……五年もの年月を掛けられて。
大人の都合で、この子を振り回してしまったから。
その分、この子にいっぱい愛情を注いであげたいから。
だから私は、襲いくる激痛を前にして。
レイナ様と、アラン様が……手を……握っていなければ、意識を……手放してたかもしれない状態のまま……夢中で……息んで、そして……。
最後の力を、振り絞り。
私の意識は、飛んで――。
そして、次に目覚めた時。
「フェリス、よくやってくれた」
「フェリス、私達のために……ありがとう」
涙を流す、アラン様とレイナ様が見えて。
さらには、レイナ様から……私が産んだ子供……レイナ様が、ルイスと名付けた子供を手渡され。
「生まれてきてくれて、ありがとうございます……ルイス様」
私は、私達の子供を優しく抱き締めた。