番外編:もう一つの幸せ(ジュルア視点)
音楽団の練習場に着くと、アイラが明るい声を響かせて手を振っている。
親友は相変わらず元気良く笑っている様子を見ると、私まで活力に溢れてきた。
「昨日はどうだったのかしら?」
聞いて欲しいと無言の圧力がアイラから伝わってくる。
昨日で新婚二年目を迎えたアイラ達の様子はとても羨ましい。
「初めてお酒を飲んだの!」
「そう? 感想はどうかしら」
「美味しかったと思うけど、あんまり覚えてない」
音楽団のメンバーで贈ったワインはそこまで酔い易いものじゃない。
だけど、アイラの背後にいるベンさんが必死な形相で私を見つめてくる。
酔っ払って、暴走しているアイラの様子が簡単に思い浮かんだ。
「あんまりお酒を飲みすぎると良くないわよ」
「変に酔ってないから大丈夫だけど……」
ベンさんはアイラの言葉を否定するように大きく首を横に振る。
普段の冷静なベンさんからは想像も出来ない焦り様に、よっぽどのことがあったと察した。
「覚えてないのは良くないことよ」
「そうかな?」
「えぇ。いつの間にか変な事をしてもダメでしょ?」
私の説得を聞いて、アイラは腑に落ちないと言いたげな表情を浮かべる。
その後ろで何度も頭を下げているベンさんの様子が可笑しくて、つい笑いそうになってしまう。
「でも、楽しめた様なら良かったわ」
アイラ達の仲を見ていると、私も夫のヴェインに会いたい気分になってくる。
帰ったら沢山話そうと心に決めると、頑張る気力が湧いてきた。
「幸せがずっと続くことを応援してるわ」
「うん!」
練習前から幸せな話を沢山聞いたこともあって、前向きな気持ちでヴァイオリンに触れる。
明るい気分だと、余計な迷いに囚われることなく演奏ができた。
「会いたいわ……」
夕暮れが近づくと、そんな事を何度も口にする。
半日離れるだけで寂しく感じてしまう。
だけど、胸を張って彼に会える様、もう一度ヴァイオリンに集中した。
「お疲れ様」
「えぇ。お疲れ様」
段々と暗くなる空を見て、帰りの支度を進める。
私は早く会いたい一心で、手早く荷物をまとめた。
そのまま夫の待っている家まで、馬車を走らせる。
「ただいま」
「おかえりなさいジュルア」
ヴェインの浮かべる柔らかい笑みを見ると、疲れが一気に吹き飛ぶ。
手を広げて、抱きついて欲しいとアピールするヴェインはとても可愛らしい。
「もう……」
「今日も無事に帰ってきてくれてありがとう」
ヴェインの大きな腕の中に収まると、とても心地良くて眠ってしまいそうになる。
半日ぶりに会っただけで、こんなにも幸せそうな表情を浮かべていた。
「そろそろ離して欲しいな……」
「もう少しだけ」
結局、かなり長い時間抱き合ってしまう。
ウチの夫はかなりの寂しがり屋な様で、このまましばらく離してくれない様子だった。
「お腹が減ったわ」
「もう少しだけ」
離れようとするだけで落ち込んでしまうヴェインを見て、大切にされていると実感する。
「後で沢山ハグするから」
私はヴェインの頬に軽く口づけをした。
安心したヴェインの腕の力が緩むと、そのままテーブルへ向かう。
美味しそうな匂いがキッチンから漂ってきた。
「いつもありがとうね」
「ジュルアに美味しいって言ってもらえるから作るんだよ」
ヴェインは小さなお店を営む程の料理の腕を持っている。
愛する人の美味しい手料理を毎日食べることができて、幸せ者だと実感した。




