番外編:変わらない日々
「早く夜にならないかな」
朝からずっと同じことばかりを口にしている。
公爵邸に戻ったら、ベン様と結婚記念日を祝うと決めていた。
「これかしら?」
ジュルアは小指を立ててニヤニヤとした笑みを浮かべている。
二年経ってもこの関係は変わらない。
「うん……」
「相変わらず熱々だわ」
揶揄うように手で風を仰ぐジュルアの反応に、私は照れ臭くなってしまう。
「そっちこそ、熱々の癖に……」
言われっぱなしだと腑に落ちないから、私は反撃するように手を振って暑いとジェスチャーをする。
昨晩で一緒に過ごした様子を思い出したのか、ジュルアの頬は真っ赤だった。
「ジュルアはなんて言われたの?」
そんな様子を見て、私は追い討ちをかけるように質問する。
「愛してるって耳元で囁かれました……」
恥ずかしそうに小さな声で惚気話をするジュルアはとても可愛らしい。
旦那さんが溺愛するのもよく分かる。
「もぉ……恥ずかしいんだから……」
「ジュルアは愛されてますね」
「アイラだって、ベンさんに愛されているじゃない」
「うん……」
お互いに愛する男性を思い浮かべて、赤面してしまう。
好きな人のことを考えている時間はドキドキして仕方ないけど、幸せだった。
「さぁ! 今日は結婚記念日でしょ?」
「うん!」
「帰って気持ちよく祝うために、練習頑張るわよ!」
私は元気よく頷くと、ピアノに向き合う。
一度鍵盤に指を触れると、浮ついた心は冷静な状態に戻った。
「いくよ」
一切乱れることのない音が部屋に響く。
自分の奏でる音は聴き心地が良くて、落ち着いた気分になった。
「流石王国一番のピアニストね」
一曲弾き終えて満足した気分のまま余韻に浸る。
いつの間にかそんな肩書きで呼ばれるようになっていた。
「その呼び方は恥ずかしいよ……」
「でも、すごい事よ!」
確かに大好きなピアノで褒められる事はとても嬉しい。
「よしっ、もうちょっと弾くかぁ」
私は再度ピアノに意識を向ける。
ピアノは早く弾いてほしいと主張するように綺麗に磨かれた鍵盤が光沢を輝かせた。
「行くよ」
声をかけると、飛び跳ねるように軽快な音が響く。
集中をしてピアノを弾いていると、あっという間に時間が過ぎてしまう。
いつの間にか部屋は夕日に照らされていて、慌てて片付けを始めた。
「早く帰らないと……」
公爵邸に戻ると、大好きなベン様が待っている。
今日は結婚記念日を祝おうと約束をしているから、特に楽しみで仕方がなかった。
「ベン様楽しみにしてくれてるのかな?」
そんな事を口にして、私は馬車に揺られる。




