71.パレード直前
鏡を見つめると、ちゃんとリップの塗られた唇は赤くてぷっくらとしている。
水色を基調としたドレスはキラキラと私を輝かせていた。
「準備は出来たか?」
「はい! バッチリです!」
普段ヒールを履いていないせいで妙に歩きづらい。
踵が地面を叩く音が大きく響せて、慎重に一歩ずつ進む。
「段差に気をつけて」
ベン様に手を引かれてゆっくりと馬車の席に座る。
「こういう催しを楽しみに思うのは初めてだ」
王城へ向かう道中でベン様は小さく呟く。
「そうなんですか?」
「煩わしく感じていたよ」
思い出すだけで表情を引き攣らせるベン様に私は苦笑いを浮かべた。
「でも、アイラと一緒なら不思議と嫌な気持ちはしないよ」
「そうなんですか?」
「君の綺麗な演奏を聞くことを楽しみに思っている」
「もぉ……」
揶揄うように耳で囁くベン様に私は顔を真っ赤に染める。
こんな恥ずかしいことを言われたら、ベン様を直視出来なくなってしまう。
「ただ色々と気疲れはするだろう」
そう言うベン様は長いため息を吐いていた。
その様子を見て、緊張感が体を硬直させる。
うまく話せるのか不安になってきた。
「何かあったら俺を頼ってくれ」
「でも、ベン様だって大変なはずです」
「妻を守ることより重要なことはない」
ベン様の一言で緊張感が和らぐ。
頼りになる旦那様と会話を満喫していると、大きな王城が見える。
国中から貴族が集まっているからか、多くの人で賑わっていた。
「お久しぶりです」
「ええ。ご無沙汰しております」
王城を歩いていると、ベン様は色々な人に話しかけられる。
一人ずつ丁寧な態度で接する様子はとても紳士的に見えた。
自分の旦那様のカッコよくて、つい見惚れてしまう。
「そろそろパレードが始まるな」
「そうですね……」
一通りの挨拶まわりを終えると、時計はちょうど良い時刻を示す。
「緊張してるか?」
「結構してます……」
「大丈夫さ」
そう言ってベン様は私の手を握る。
体温が伝わってくると、ガチガチに硬くなっていた指先がほぐれた。
「これで大丈夫だ」
「ありがとうございます」
ステージの上から王都を見渡す。
沢山の人がパレードに注目をしていた。
「大丈夫……」
指先に意識を集中すると、ベン様の温もりを思い出す。
手を合わせて思いっきり息を吐く。
不安も緊張も全部体の外に出すと、頭の中がスッキリとした。
「すごい歓声……」
賑やかな声がそこら中から聞こえてくる。
その歓声が全てパレードに向けられていた。
「頑張らなきゃ」
みんなが期待しているパレードを絶対に成功させる。
そう意気込んで、ベン様の方をじっと見つめた。




