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61.気難しい店主

「なんで俺より先に結婚するんだよ! この裏切り者!」

 

 目に涙を滲ませながら叫ぶ様子に私は苦笑いを浮かべる。


「お前は一生結婚しない同士だと思ってたのによぉ」

「結婚しないとは一言も言ってないぞ」

「うるせぇ! お前みたいな仏頂面に結婚できて、どうして俺にできない!」


 店主のバードンさんの荒れている様子に困惑していた。


「おいコラ! そんな目で俺を見るな! 惨めになるだろ!」

「それで注文だが……」

「チクショウ」


 文句を言いながらも、バードンさんがちゃんと注文を受け付け始める。

 段々と指揮棒に関して熱心に語る様子を見て、根はいい人だと思う。


「お嬢ちゃん暇だろ? 適当に店の中を見てくれ」

「ありがとうございます」


 店の中は散らかってはいるが、音楽関係のものが沢山置いてある。

 本棚にはぎっしりと楽譜が詰められていて、どれも魅力的な曲ばかりだった。


「おっ、ピアノだ」


 埃被ったピアノを見ると、実家を思い出す。

 嫌な思い出ばかりだけど、このピアノだけは嫌いに慣れない。


「弾いてみても良いですか?」

「構わないぞ」


 埃を手で払ってピアノの台を開く。

 味のある古さに気分は上がって、鍵盤を弾く。


「あれ?」

「やっべ、整備してないせいでかなり音がズレるわ。ごめんお嬢ちゃん」


 普通じゃあり得ない音に驚きを覚える。

 だが、鍵盤の上で指を躍らせる内になんとなくピアノと心が通じた気がした。

 ピアノの声を聞く様なイメージで演奏をすると、ちゃんと美しい音色が響く。

 

「すげぇな……」


 バードンさんの呟きを耳にすると、嬉しくなって更に演奏を激しくする。


「おいベン、お前の嫁さんピアノ弾けるのか?」

「あぁ。音楽団でピアニストをしている」


 自慢げに話すベン様の表情を見て、愛されている実感が湧く。


「またベン達の演奏を聴きに行くわ」

「そうか」


 そう言って楽しそうに聞いてくれるバードンさんを尻目に私はピアノに向き合う。

 ちょっと変わった音だけど、コツを掴むと良い音が出る。


「あぁ。演奏会のチケットくれよ」

「自分で買ってくれ」

「連れないなぁ」


 二人のそんな話をしている横で私は一曲を弾き終えた。


「良い曲を聴かせてもらった」


 バードンさんは満足そうな表情を浮かべる。


「お礼に何か好きなものを持ち帰ると良い」

「良いのですか?」

「演奏のチケット代とでも思ってくれ」

「ありがとうございます!」


 沢山の楽譜や音楽に関する小物を選んでいる間にベン様の注文は終わってしまう。


「これ貰います」


 私は音符がモチーフのヘアピンを選ぶと、そのまま髪につける。


「これ可愛らしいです!」

「あぁ。似合っているぞ」

「イチャつくのは店の外でやってくれ」


 そう言ってため息を吐くバードンさんは立ち上がって店の奥へ向かう。


「んじゃ、指揮棒はまた公爵邸に送らせてもらう」

「あぁ。頼む」

「二人とも、また機会があれば来てくれ」


 手を振って私たちを見送ると、バードンさんの鼻歌が聞こえてきた。


「良いものをもらっちゃいました」

「俺も良い買い物ができたな」


 そう言って店の奥を眺めると、早速バードンさんは指揮棒用に木を削っている。


「帰ろうか」

「はい!」


 私はベン様の手に指を絡めると、暖かさが伝わってきた。

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