54.遠征の終わり
ホテルの窓から見える大海原と一緒に迎える朝もこれで最後になる。
今日は汽車に乗って帰るだけのスケジュールだった。
「これで終わりですか……」
「あぁ。そうだな」
もうリゾート地を存分に満喫した私にやり残したことはない。
それでも寂しい気持ちを抱いて、綺麗な海を目に焼き付ける。
一生忘れられないように鮮明に海の景色を記憶に残す。
「本当に楽しかった」
普段は冷静であまり感情を見せないベン様も今日だけは少し寂しそうに見える。
それだけこの遠征中は幸せな時間を過ごせた。
「また来たいですね」
そんなことをずっと口にしながら駅へ向かう。
潮風は暖かく私を揺らす。
飛んでしまいそうになる麦わら帽子を手で押さえると、汽車が目の前にやってきた。
「ありがとう!」
段々と遠くなっていくビーチに手を振る。
ベン様と汽車に揺られながら遠征での感想を話し合う。
遠征地で感じた興奮は冷めず、夜が更けるまでずっと同じ話題が続く。
幸せな気分で汽車に揺られていると、いつの間にか眠っていた。
「休憩地点だ」
さっきまで外は暗くてカーテンをしていたが、気がつくと太陽が空を照らしている。
「いつの間に」
「疲れが相当溜まっていたのだろう」
「そうですね」
座りっぱなしで体は凝っていて、腕を伸ばすととても気持ちいい。
「ずっと汽車だと疲れるだろう」
「ちょっと疲れてしまいました」
ベン様は肩を回して立ち上がると、私の手をギュッと握る。
そのまま汽車を降りると、売店が目に入った。
「行ってきます!」
「あぁ。行ってらっしゃい」
私は売店の商品を眺めていると、美味しそうなお菓子のコーナーを見つける。
たくさん買い物カゴに入れて、気分良くお会計に向かう。
私はちょっと買いすぎたかもしれないと思いつつ、満足した気分で売店を出た。
「何から食べようかな」
鼻歌まじりで汽車の待つプラットホームへ足を向ける。
手にはたくさんのお菓子があって幸せを噛み締めながら歩く。
汽車の中でベン様と食べようと考えていると、ホームに汽車の姿はなかった。
「えっ!?」
幸せな気分は一気に焦りに変わる。
私は慌てて別のホームへ走り出す。
「もう出発しちゃった?」
一気に幸せな気分から絶望が心の中を埋め尽くす。
ホームの番号は全然頭の中にない。
「どうしよう、どうしよう、どうしよう」
何個もホームを駆け巡って、汽車を探す。
置いてかれたかもしれない。
そんな不安がどんどん現実味を増してきた。
「完全に迷子だよ」
気がついたら額に冷や汗が滲む。
息はどんどん苦しくなって、目には涙が浮かぶ。
「もう幸せになれないのかな?」




