40.デートのお誘い
リーナ様とのお茶会を終えて、私は鼻歌を歌いながら馬車に揺られる。
「ベンはアイラをお嫁に貰えて幸せそうだよ」
頭の中ではリーナ様の言葉が反響していた。
確かにベン様は最近はすごく楽しそうで明るい表情を浮かべている。
私はベン様に貰ってばかりで、何かを返せた記憶があまりない。
「うーん……どうしようかな」
ベン様は何をしたら喜ぶのか、案を考える。
だけど、パッと思いつくものはなかった。
「全然良い案が浮かばない……」
そんな事を考えていると、公爵邸に着いてしまう。
「何か悩み事か?」
「ちょっと、馬車の中で考え事を……」
「そうか。あまり無理はしないでほしい」
ベン様はポンと私の頭に手を乗せる。
優しく丁寧に撫でると、少しだけ気持ちが落ち着く。
「でも、リーナ様とのお茶はとても楽しかったです!」
私は笑顔を浮かべると、ベン様も安心したように表情を和らげた。
とりあえず、ナターシャさんに相談しようと思って自室に向かう。
「ナターシャさん!」
「どうかなさいました?」
「相談があります!」
私はナターシャさんに考えていた事を打ち明ける。
ナターシャさんはしばらくの間悩んでいると、ハッとした表情を浮かべた。
「何か思いついたのですか?」
「はい! とびっきりの案が思い浮かびました」
自身ありげな様子のナターシャさんに期待を抱く。
「ベン様をお出かけに誘ってみては、いかがでしょう?」
「おお! お出かけ!」
「ベン様は仕事や音楽団関係で根を詰めているので、気分転換に最適でしょう」
そんなナターシャさんの助言に私はどこに行こうか考える。
ふと、公爵邸の庭園で飛んでいる小鳥が頭に浮かぶ。
小鳥が飛び回っている様子を見ていると、落ち着いた気分になる。
「動物園ってどうでしょう?」
「おお! 良いですね!」
噂では聞いたことはあったが、一度も行ったことのない場所だった。
ベン様と一緒に行けば、きっと楽しいものになるだろう。
「ダメダメ。私がベン様を楽しませるの」
それでも、今回はベン様に恩を返すことが目的だと自分に言い聞かせる。
「とりあえず、ベン様の予定を聞いてみては?」
「あっ、忘れてました」
ふと、窓の外を見ると夕暮れ時だった。
頭の中が動物園でいっぱいになりながら、私はスキップをして食堂へ向かう。
「悩みことは解決したか? とても機嫌が良さそうに見える」
「はい!」
些細な気分の変化にちゃんと気づかれると、それだけで嬉しく感じる。
夕食が机の上に並んで、しばらくの間はなかなか動物園の話題を出せないでいた。
もしかしたら忙しいと断られるかもしれないと、不安が募る。
どうやって誘えば良いのか分からず、その間にも夕食はどんどん減っていく。
「何か困りごとがあるのか? 浮かない顔をしているぞ……」
ベン様は心配そうな目で私を見つめる。
そんな様子に私はこれ以上心配させたらダメだと自分に言い聞かせて、勇気を出す。
「えっと、ベン様……」
私は覚悟を決めて、緊張して鼓動が不規則な心臓に手を置く。
「また、お時間のある時に動物園に行きませんか?」
「もちろんさ。楽しみしている」
「やった!」
私はホッと息を吐いて、胸を撫で下ろす。
「準備は私がやっておきます」
「別にそれくらい俺が……」
「いえ、ベン様は忙しいので私にやらせてください!」
ベン様は小さな笑みを溢す。
嬉しそうな表情を浮かべていて、私は安心感で胸の中がいっぱいになる。
「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらう」
ベン様は鼻歌を歌いそうな程に上機嫌に見えた。




