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38.曲芸団

 私は声のする方を向くと、華々しい雰囲気を放つ女性が立っている。

 その人は長く綺麗に伸びる金髪がとても特徴的な美人だった。

 

「お久しぶりです。リーナ王女」

「えっ!? 王女様!?」


 私は思わず大きな声を出して驚いてしまう。

 ベン様の知り合いであれ程美人ならすごい人だと思っていたが、まさか王女様とは考えもしなかった。


「今はお忍びで来てるのでね、その呼び方で呼ばないでくれ」

「あっ……わかりました」


 リーナ様はそう言って口元に指を当てる様子も映えて見える。


「いくら王位継承権が低いとはいえ、もう少し危機感を持つべきた」

「それにしても可愛らしいお嫁さんを貰ったものだね」

 

 リーナ様はベン様の言葉を聞こえないフリをして、私の方に目が向く。

 ベン様はリーナ様にこのこのと言われながら肘で脇腹を突かれていた。


「アイラが困っているだろ?」

「デート中の邪魔をしてしまったか……これは失礼した」


 リーナ様が後ろへ振り向くと、私に向かって手を振る。


「またゆっくりとお茶をしながら話そう」

「はい! 楽しみにしてます!」


 リーナ様は従者さんから何かを受け取ると、私に手渡す。


「王都でも人気な曲芸団の公演チケットだ」

「そんな貴重なものを譲っても良いのですか?」

「デートの邪魔をしたお詫びだ。受け取ってくれ」

 

 そう言ってリーナ様は軽い足取りで店の出口へ向かう。


「ベン! こんな可愛いお嫁さんを泣かせたら許さないからな」


 リーナ様の背中は王族らしくとても偉大に見える。


「俺たちも店を出ようか」

「はい!」


 周りを見渡すと、埋まっている席ばかりだった。 

 私は美味しいケーキの味を思い出して、幸せな気分に浸りながら店を出る。


「公演ってどんな感じですかね?」

「噂だと炎を使った演技や帽子から鳩を出す演技をするらしい」

「帽子から鳩なんて出てきませんよ」


 私はそんな魔法みたいなことはないと思って、疑ってしまう。

 席に着くと、会場は多くの観客で賑わっている。

 

「滅多に席の取れない公演と噂だから、運がいいな」

「はい! またリーナ様にお礼を伝えたいです!」


 そんな会話をしていると、すぐに公演が始まった。

 陽気な音楽に合わせて縦横無尽に踊り子が駆け回る様子はとても印象深い。

 普通じゃあり得ない程に高く飛んだり、猛獣と呼ばれる動物に乗ったりしながら踊っていた。


「カッコいい!」

「確かにこれは迫力がある」


 ベン様も目が釘つけになっていて、会場は歓声で賑わう。

 そんな中でステージの真ん中で一人の演者が炎の付いたトーチを三つ上に投げる。

 それを空中で回すと、炎が揺れていた。


「よく出来ますね……」


 とても危ないことなのにステージに立っている人は笑顔を浮かべている。

 そして、ベン様がさっき言っていた帽子から鳩を出すと演者が宣言をした。

 魔法みたいなことだと思って、よくステージの方に目を凝らす。


「えっ!? すごい!?」


 何も怪しい動きはなかったのに、小さな帽子から鳩が出てくる。

 驚きで思わず声を上げてしまうが、周りも拍手や歓声でいっぱいだった。


「すごく楽しかったです!」

「あぁ。こんな風に観客を喜ぶような演奏を俺たちもしたいな」

「そうですね……頑張ります!」


 公演が終わっても興奮と驚きは冷めずに、帰りの馬車ではその話ばかりしか浮かばない。

 

「ベン様とお出かけできて、すごく楽しかったです!」

「そ、そうか……」

「はい! ありがとうございます!」

 

 ベン様は照れ臭そうに笑う。

 今日はとても幸せな時間を過ごせたと満足感を覚えると、眠気が襲ってきた。


「少し寝ると良い」

「それじゃあ、お言葉に甘えて……」


 私はベン様の肩に頭を乗っけて、体重を預ける。

 心地のいい感覚に安心して、ゆっくりと意識を手放した。

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