36.デート
「今日は練習が休みだな」
満腹感に浸りながら朝食を終えると、ベン様はそう呟いた。
「もし予定が空いているなら、王都の散策に行かないか?」
「良いのですか?」
「ああ。最近は音楽団も仕事も忙しくて根が詰まっている所だからな」
ベン様は腕を伸ばすと、気持ちよさそうに息を吐く。
「それじゃあ、ご一緒させてもらいます」
「ただ、少しだけ執務があるから午後からで良いか?」
「はい! 楽しみです!」
ベン様はテキパキと速い足取りで食堂を出る。
私は久しぶりのお出かけに気分が上がって、どこに行くか頭に思い浮かべた。
美味しいお菓子のお店も行きたいし、本屋にも行ってみたいし、やりたい事を考えている内にあっという間に約束の時間を迎える。
「ベン様! 美味しいお菓子のお店って知ってます?」
「紅茶に合うケーキの店を知っているから行こうか」
「はい!」
ベン様は穏やかな表情を浮かべて私の手を握った。
私を凛々しくエスコートする様子はとても頼り甲斐がある様に見える。
「やっぱりベン様はカッコいい人です」
「ありがとうな」
優しい手つきで頭を撫でられると、温かい感触が伝わってきた。
馬車に揺られながら王都の商業地区へ向かう。
婚約してすぐにドレスを買いに行った以来の王都散策はとても楽しみに感じる。
「前に来た時はとても緊張していたな」
「あんまり思い出したくない記憶ですね」
「そうか?」
ベン様に恥ずかしい記憶を掘り返されて、顔が少し赤く染まった。
近くに音楽団の練習場があるから良く通る道だと思う。
だけど、あまり深く見てこなかったから景色に目釘付けになる。
「色々あるだろう?」
「はい! 王都ってこんなにも綺麗なんですね!」
「あぁ。自慢の故郷だよ」
ベン様の言葉に胸がズキりとし痛む。
私には誇れる故郷なんてないから、羨ましく感じた。
「音楽団で活躍しているアイラにとって王都は故郷と呼べるよ」
「そうですかね?」
「ああ。アイラの居場所は王都にたくさんある」
こういう寂しい気分の時にちゃんと気付いてくれるベン様はとても心強い。
手を握る力が強くなることを感じて、私も同じ様にした。
「足元に気をつけて」
私はベン様に手を引かれながら場所を降りる。
王都の商業地区はたくさんの人で賑わっていて、目が回りそうになってしまう。
「お姉さん! この壺は幸運をもたらすよ!」
ふと声の方を向くと、笑顔を浮かべている商人さんが壺を指差していた。
「そうなんですね!?」
「それは詐欺の商品だぞ。幸運なんてもたらすはずがない」
「そんな……」
ベン様はそう言って私の手を強引に引っ張る。
それを見た商人さんは途端に表情を歪めて舌打ちをした。
「人が多い分、邪な商売をするものだっている」
「気をつけます……」
「」




