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26.卒業試験

 足音がよく響くホールの中でベン様とセリナ先生が客席に座っていた。

 二人の視線はステージの上でピアノと向き合っている私に向く。


「アイラらしい演奏を期待しているよ」


 そんなセリナ先生の言葉を胸に刻んで指を鍵盤に置いた。

 指先まで神経は研ぎ澄まされている。

 鍵盤の軽さに指が吸い込まれそうになる。


「ふぅ……」


 ゆっくりと息を吐くと、頭の中から不安や焦りが外へ出ていく。

 吐息が手に触れると、指先の緊張が解れた。

 

「始めます」


 広い空を表現するように迫力ある演奏を頭に思い浮かべる。

 ホールの中で強いが吹き抜けたみたいな音が響く。

 どこまでも人を圧倒する激しい演奏ができるように全力を込める。


「今度は優しく」


 意識を切り替えて、鍵盤を優しく撫でるように指から力を抜く。

 春のそよ風のように温かい音がホールを彩った。

 私は草原を駆け回るような気分で演奏をする。


「次は寂しい感じで」


 今度は冬の寒さを思い出す。

 凍えるような風みたいな音を頭に浮かべて、それをピアノで表現する。

 雪が揺れるような情景が目の前に広がっていく。

 

 教えてもらった繊細な技術がなければ、弾けない音色をピアノに乗せる。


「最後は力強く」


 指が思いっきり鍵盤を駆け抜けていると、ホール全体を震わすような音が響いた。

 前へ前へと進んでいくような音楽に自然と体は前のめりになる。


「はぁはぁ……」


 一曲を弾き終えると、充実感と疲れが体の中で湧き上がった。

 体全体の力が抜けて、私は上を見上げる。


「これで合格だね!」


 肩で息をする音に混じって、拍手が耳の奥まで届く。

 セリナ先生から合格と言われて、安心感で大きく息を吐く。

 今まで緊張で詰まっていたものが吐き出されて、気分はとても清々しい。


「すごいぞ! アイラ!」


 とても興奮した様子で舞台まで突進するベン様はすごい勢いで私の手を握る。

 ベン様の口から褒め言葉が出る度に私は嬉しさで飛び跳ねそうになった。


「おめでとう! これでファルト音楽団の一員だね」

「あぁ。アイラの入団を心から歓迎するよ」

「ありがとうございます!」


 セリナ先生の卒業試験に合格したことで、早く音楽団で合奏をしてみたいと強く思う。


「早く沢山の楽器で演奏をしてみたいです!」

「アイラと一緒に演奏できるのを楽しみにしているよ」

「はい!」

 

 沢山の人で演奏すると、きっと素敵な音が響くだろう。

 そんな様子を想像してさらにワクワクとしてきて、私は拳を強く握りしめる。


「今日はコックに頼んでご馳走を用意してもらおう」


 ベン様はそう呟くと、セリナ先生がお腹を鳴らす。


「これは失礼した」

 

 セリナ先生は恥ずかしそうに頭を掻いた。


「もし、良ければ一緒にどうですか?」

「ベンが良ければ、同席させてほしい」


 私はベン様の方を見ると、困ったような笑みを浮かべて頷く。


「じゃあ、ベンが子供の頃の話でもするか?」

「セリナっ、お前!」


 セリナ先生は悪戯っぽく笑う。

 今は大人らしく冷静で凛々しい印象だが、子供の頃はどんな人だったか興味が湧く。


「是非聞かせてください!」

「はぁ……」

「ベンはアイラに甘いんだな」


 セリナ先生は機嫌が良さそうに歩き出す。

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