22.アイラの真実
「ベン様。サートン家に関する調査書です」
「ありがとう。確認しておく」
今では大分明るくなったが、公爵家に来た頃のアイラ嬢は異常な程に自己肯定感が低かった。
ティーカップを落とした際に怯えるように体を震わせた様子を思い出すと、違和感を感じて仕方ない。
「ふぅ」
緩くなった紅茶を口にすると、程よく体が温まった。
俺はアイラ嬢の実家に関する調査書を読み始める。
「っ……」
滅多に社交界に顔を出さない様子から、違和感の正体はサートン家にあると予想していた。
想像を遥に超えるサートン家に惨状に俺は唇を強く噛み締める。
「クソっ……」
調査書に書かれていたアイラ嬢が受けてきた数々の虐待に言葉にしようもない怒りが湧く。
「本当に許せない」
使用人だったアイラの母親に関係を迫った挙句、保身のために2人も不幸に変えてきた。
それを容認するサートン家の惨状はあってはならない事だと思う。
「ベン様!」
「どうした?」
「サートン家から仕送りの催促です」
アイラ嬢から沢山の搾取をしても懲りずに続ける様子に、怒りを通し越して呆れに変わる。
「今すぐゴミ箱に捨てておけ!」
「畏まりました」
すぐに謝る癖は数々の虐待から生まれた自己防衛として根付いている。
極端なほどに清貧な性格は碌な環境で生きれない弊害だった。
どうしようもない怒りに震えていると、慌ただしい様子で部屋がノックされる。
「ベン様!? アイラ様が未だに公爵邸に帰ってきません!」
「何!? 今すぐ探しに行く!」
「しかし外は雨です」
使用人が歯痒い思いを口にするように唇を噛む。
「知ったことか! 火と傘を用意しろ!」
俺は慌てて傘と松明を手に持って、全力で公爵邸の離れの方へ走り出す。
今頃アイラ嬢は暗闇の中で不安な思いをしているだろう。
きっと実家に居た頃は誰も気に掛けずに1人で膝を抱えるしか方法はなかった。
だからこそ、結婚相手の俺がアイラ嬢を安心させねばという使命感に駆られる。
「アイラ! どこだ!」
喉が張り裂けそうな程に声を出しても、雨にかき消されてしまう。
いくら松明があっても、前ははっきりとは見えない。
「今助けに行く!」
それでも、俺は全力で公爵邸の庭園を走っていた。
今までは不幸だったアイラ嬢を幸せにしたい。
使命や義務だと思っていた事が、明確に自分の意志になっている。
「アイラ!」
何度も何度も彼女の名前を叫ぶ。
結婚した当初は形だけの関係だと思っていた。
だけど、アイラの朗らかな笑みを見ていると、もっと幸せになってほしいと無意識に願っている。
「はぁ……はぁ……」
肩で息をしながらも、俺はアイラを探す。
今まで沢山の不幸を経験してきた。
だからこそ、今後は一緒に幸せな人生を歩もう。
アイラが見つかったらそんな言葉を掛けたいと心の底から思えた。




