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2.使用人

 屋敷の中でも人通りの少ない通路を選んで調理室へ足を向ける。

 今日は運良く、誰とも鉢合わせずに目的地へ辿り着いてホッと息を吐く。 


「今日もあの厄介者は無様だったわ」

「ええ、ダイア様に踏みつけられて可哀想だったわね」


 ふと、部屋の中から談笑が聞こえる。

 どうやら使用人達は私の悪口で盛り上がっている様だった。


「それにしても、あの女狐が辞めてから面倒になったわね」

「ええ、私たちの負担は増やした挙句、厄介者だけ残して死ぬなんて」

「本当に迷惑よね」


 耳を塞いでなるべく聞こえない工夫をしても、嫌でも意識してしまう。


「でも、いい気味だわ」

「ええ、ご主人様を誘惑した女狐にはお似合いの境遇よ」


 もう何を言われても怒りは湧かない。

 それでも、胸の奥がズキッと痛む感覚はずっと残ったままだった。


「そういえば、そろそろ厄介者が残飯漁りをするわね」

「ええ、卑しいったらありはしないわ」

「残飯なんて漁るくらいなら、夕食は用意してあげましょうよ」


 誰かがそう言うと、物音が廊下まで響く。


「これは良いわね」

「ええ、きっとあの卑しい娘は美味しく食べるはずよ」

「ちゃんとお皿に盛り付けてるって感動するに違いないわね」


 外から聞く限り、今日の夕食はきっと酷いものだろう。

 それでも、これ以上想像したって嫌な気分になるだけだと自分に言い聞かせる。

 なるべく考えないように別のことを頭に思い浮かべた。


「さて、そろそろ仕事は終わりね」

 

 その言葉に安堵を覚えて、そっと調理室から距離を置く。

 笑い声が聞こえなくなると、周りを警戒しながらドアを開ける。


「うわ……」

 

 調理台の上にあったのは、一つのスーププレートの中にいろいろな料理がごっちゃ混ぜになったものだった。

 具材のパンやソーセージ、フルーツは誰かが食べた跡がある。


「ごめんね」


 それでも、食材に罪はないと自分に言い聞かせた。


「いただきます」


 鼻を刺すような匂いに顔を歪ませてしまう。

 恐る恐るスプーンを手に取って、パクりと口に運ぶ。


「うん……」


 混ざりに混ざった味は異様な刺激を産んだ。

 ヨーグルトの味と塩胡椒、フルーツの酸味がごちゃ混ぜで相当に不味い。

 それでも、残す選択肢はないから、鼻を摘んで少しずつ食べていく。


「ごちそうさまでした」


 胃のなかで残飯スープが暴れているのを我慢して小さく呟いた。

 

「はぁ……」


 舌と鼻がおかしくなっているのを無視して、食器を洗い始める。

 使用人達が残していった調理器具の汚れを丁寧に落とす。


「ようやく終わった」


 血が凍った感覚がするほどの寒気に耐えながら、ようやく食器を洗い終える。

 ふと、外を見ると太陽が登っていた。


「あっ……」


 もう朝だと気づくと、一気に疲れが体に襲いかかる。

 頭の中がフラフラするが、力を振り絞って調理室のドアを開く。

 もう何も考える余裕もなく、段々と意識が闇の中へ消えていった。

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