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16.褒め言葉

 ゆっくりと息を吐くと、私の意識は全てピアノに向く。

 指がトンと鍵盤を撫でる。

 実家のピアノよりもずっと軽い感触は丁寧に手入れされている証だと感じた。


「すごい……」


 私は心臓が熱くなるくらい興奮する気持ちを抑えきれず、そのまま演奏を始める。

 どこまでも軽快で、空を自由に舞う鳥のような音楽に私は心を惹き込まれた。

 今までよりも音は透き通って心地の良いメロディーはホールにとても響く。


「もっと、響かせて」


 一曲弾き終えても、まだ私の気分の昂りは治らない。

 ピアノに呼びかけるよう力を込めると、それに応えるようにピアノも音を奏でる。

 広大な草原を吹き抜ける風のように強く気高いメロディーがホールの雰囲気を一気に塗り替えた。


「ふぅ」

 

 ロングトーンが余韻を生み出す空間で余韻に浸る。

 程よい疲れが体に幸せを伝達させて、そっとピアノから指を離す。


「すごい! アイラはピアノの天才だ!」


 ベン様は興奮気味に私の手を握ると、その目を輝かせていた。


「ありがとうございます……」

「今までで一番感動する程良い演奏だった!」

「そう……ですか?」


 普段は落ち着いているベン様と違って、今は人が変わったように興奮気味で私に感想を伝えている。


「ピアノはどこで習った!?」

「お母様に教えてもらいました……」

「君の母親は著名な音楽家か!?」


 ベン様の質問攻めに戸惑っていると、舞台に咳払いが響く。


「アイラ様がお困りですよ」

「すまない……でも、ナターシャも聞いたよな?」

「ええ。とても素晴らしい演奏でしたよ」


 様子を見に来たナターシャさんは穏やかな笑顔を見せる。

 お母さん以外に演奏を聞いてもらったことがなくて、褒められることは初めてだった。


「2人ともありがとうございます」

「こちらこそ、とても良い演奏を聞かせてもらった」

「ええ。とても感動しました」


 初めてのことでどんな反応をすれば良いのか分からない。

 それでも、飛び跳ねたくなるくらい嬉しい気分だけは私の心の中で存在していた。


「もう一回演奏してくれないか?」

 

 私は冷めない興奮に身を任せて、大きく頷く。

 ピアノは私の昂りに応えるように陽気な音を響かせた。

 

「楽しそうだな」

「はい!」


 ベン様は穏やかな表情をしている。

 何曲も演奏をしていると、あっという間に時間は過ぎていく。

 いつの間には日が暮れて、本邸に戻る時間になる。


「基本はここを自由に使ってくれて構わない」

「ありがとうございます!」


 ベン様から許可をもらった私は、明日もピアノを弾こうと考えると、視界が揺れてしまう。


「楽しむことは良いが、程々にな」

「はい……」


 倒れそうになった体をベン様に抱き抱えられると、穏やかな表情をしているベン様の顔が近くにあった。

 凛々しい顔に緊張していると、


「あぅ。ごめんんさい……」

「今日はゆっくり休むことだ」

「はい……」

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