15.ピアノ
ベン様との買い物で手に入れたドレスを着ると、自然と安心する。
「おはようございます」
「おはようございます。アイラ様」
公爵家に務める使用人さんたちともかなり打ち解けてきた。
気前よく挨拶してくれて、居心地の良い場所だと思う。
「今日は何をしようかな」
段々と新しい生活にも慣れてきて、余裕が生まれてくる。
実家にいた時は書類を押し付けられていたが、ベン様は全然私に仕事を渡さない。
役に立ちたいと思っても、公爵家に何も貢献できない状態だった。
「暇だなぁ」
何もやることがなくて、ただボーッと公爵邸を歩く。
すれ違う使用人さんはみんな忙しそうにしていて、テキパキと仕事をしている。
そんな様子を眺めていると、無性に何かがやりたくなって仕方がない。
「何か悩みがあるのか?」
「ベン様!?」
私はできることがないか考えていると、ベン様に後ろから声をかけられて驚く。
「別に驚くこともないだろ……」
「いきなりのことでびっくりしてしまいました」
「そうか。もし良ければ悩みを聞くぞ」
ベン様は私の手を握って、庭園の方へ足を向ける。
「綺麗だろ?」
「はい。とても綺麗で落ち着きます」
「ああ。俺もここで気分を入れ替えると、次の仕事が捗るんだ」
ベン様はそう言って、空を見上げた。
「もっと視野を広くすると、見えてくるものもあるだろう」
「そう……ですか?」
「俺はいつも悩んでいる時はそうしている」
私も同じように空を見上げると、青く広がる風景に息を呑む。
「どうだ? 頭がスッキリするだろう?」
「はい!」
「何か思いついたか?」
私は何かしたいことがないか、ヒントを探す。
ふと、公爵家に飾ってあるピアノの事が頭に思い浮かぶ。
「何か思いついたか?」
「はい! 私、ピアノを弾いてみたいです」
実家にいた頃は辛い時に弾いていたが、今では辛いことはなくてピアノに触れるきっかけがなかった。
「そうか。着いてこい」
ベン様は何かを思いついたようで、公爵邸の離れの方へ歩き出す。
離れの方に着くと、そこにはたくさんの楽器が置いてあった。
「すごい沢山楽器がありますね」
「はい。音楽団が練習するのでかなり買い揃えております」
ベン様に案内されて、大きな舞台に立つ。
舞台の上から見る景色はとても壮観で私は目を輝かせる。
「ここで演奏するんですね」
「はい。多くのお客さんが座る中で合奏をする様子はとても素晴らしいです」
客席は今は空っぽだけど、きっと合奏する時は満員になるだろう。
舞台の真ん中に堂々と置いてあるピアノに私の意識は持っていかれた。
「弾きたいのだろ?」
「良いのですか?」
「もちろんだ」
私はゆっくりとピアノのカバーを取る。
中は綺麗な黒で塗られていて、目が惹き込まれてしまう。
「よろしくね」
私はピアノに挨拶をすると、蓋を開く。
埃一つない鍵盤に指を置くと、吸い込まれてしまう感覚を覚える。
「いくよ」
そう言って私はゆっくりと息を吐く。




