12.ありがとうございます
公爵邸から馬車で一時間と少し移動すると、王都の商業地区に着く。
実家も王都から近い場所だったが、そもそも家を出ることができなかったから初めて訪れる場所だった。
「あ、あの、ベン様?」
いきなり手を握られたことで戸惑っている私に対して、ベン様は平然とした表情を浮かべる。
「淑女をエスコートするのは当然だろう?」
ベン様が私の手を引く様子に照れ臭くなってしまう。
「初心なんだな」
「ごめんなさい」
「別にこれから慣れていけば良い」
私は恥ずかしくなって俯いていると、ベン様は私の手を引いて歩き出す。
優しく手を握る感覚に慣れてくると、心地よさを感じる。
段々と街を見渡す余裕が出来て、色々なものに興味が湧いてきた。
首を左右に何度も振って、店や人を見渡す。
「あっ、良い匂い」
鼻の奥を刺激する美味しそうな匂いがする方を見ると、一気に串焼き肉の出店に目を奪われてしまう。
「食べるか?」
「良いのですか?」
「もちろんだ」
ベン様は出店の方へ足を向けると、そのまま硬貨をポケットから取り出した。
「毎度あり! 2人はデートかい?」
「そ、そう見えるのですか?」
「もちろんさ。美男美女でとてもお似合いのカップルで羨ましいわ」
店主さんは表情を柔らかくして串焼き肉を私に手渡す。
私は周りからカップルと見られていることに恥ずかしくなりながらも、嬉しい気分になできた。
「冷めないうちに食べな」
「はい!」
お肉を口に運ぶと、とろけるような食感とタレの濃い味が口の中に広がる。
熱々のお肉を口の中で転がすと幸福が身体中に伝わっていく。
「毎回美味しそうに食べてるよな」
「だって、美味しいですから」
ベン様はいつの間にか食べ終わっていて、私のことを見つめている。
「すぐに食べ終えます」
「急いで食べる必要はないさ」
「ごめんなさい……」
慌てて串焼き肉を食べ終えると、ベン様は表情を歪めた。
「俺は少し待つくらいで腹を立てるほど器は狭くないぞ」
「ごめんなさい……」
ベン様が怒っていると思うと、つい下を向いてしまう。
「別に俺は怒っている訳ではない」
「そう……なんですか?」
「ただ、君は悪いことをしていないから謝る必要はないと伝えたいだけさ」
ベン様に手を優しく握ると、笑顔を私に見せる。
「謝ってばかりだと窮屈だろう?」
生まれた時から何をしても否定されて、謝っていた。
だけど、ベン様は私に謝る必要はないと言ってくれる。
それだけで、私の肺は空気が透き通るようにスッキリした。
「はい!」
「それじゃあ、次はどこに行きたい?」
ベン様はそう言ってゆっくりと立ち上がる。
「ドレスを買っても良いですかね?」
「ああ。好きなものを買えばいい」
「はい! ありがとうございます!」
今まで謝ってばかりだった口から自然とお礼の言葉が出た。
ベン様の穏やかな笑顔を見て、胸の奥で幸せが溢れ出す。




