蛙
そうして進むと池にたどり着いた。
水辺というのは生き物が集まる場所だ。
先程の狼も川辺で水でも飲んでいたのだろう。
だが、見渡す限り生き物はいないな。
そう思った瞬間、持っていた剣をぐいと引っ張られ手を離してしまった。
引っ張られた方向を見ると、池の対岸付近の水から頭だけを出し剣をぼりぼりと咀嚼している生き物が居た。
皮膚はぬるっとした印象を受け、2本の触覚のようなものはあるが目は見当たらない。
蛙のような顔をしているが、鋭い歯が生えており剣を咀嚼出来るほど頑丈なようだ。
剣は食べられないと判断したのか、ぺっと吐き出した。
すると、池からするすると水が浮かび上がり触覚の前で水の塊が出来始めた。
ぞくり、と背筋に冷たいものが走る。
「サイード、下がれ!」
言うやいなや、水の塊が弾かれた様に物凄い速度で飛んできた。
間一髪で横に飛び退くと、後ろで木が粉々になる轟音と共に木が倒れる音がした。
後ろに目をやると木が半ばから折れて倒れていた。
凄まじい威力の水球だ、飛び退いたのは正解だった。
幸いサイードも飛び退き無事なようだ。
まさか、この身に危険を感じるとは思わなかった。
間抜けな面をして恐ろしい術を使う。
今回は運良く直感が働き避けられたが、次は避けられるかはわからない。
飛び退いている時に視界をよぎったが、動体視力が良くなった目で見ても凄まじい速度だった。
どう攻めるべきか。
恐らく水の中に入っては奴の思う壺だろう。
攻め倦ねていて観察していると、蛙の口が少し開いたかと思えば、途轍もない速度で引き寄せられていた。
既の所で蛙の両顎を押さえられたが、顎を閉じる力もまた強い。
引き寄せられた原因は蛙の舌だ。
胸からぐいと引き寄せられたかと思うと、瞬く間に口元に運ばれていた。
口の中は、鋭い歯がびっしり敷き詰められており、舌は喉の奥から伸びている。
引き寄せる力も口を閉じる力も強く、本気で力を込めなければじわじわと引っ張られるが力なら私に分があるようだ。
全力で押し返すと顎を下から殴り付ける。
水しぶきを上げて吹き飛び、後ろの大木にぶつかりぼてっと地面に落ちた。
やはり全身蛙みたいな身体か。
でっぷりとした身体で、先程の狼よりも一回り大きい。
けろっとした顔しやがって。
だが、あまり効いて無さそうな事は殴った感触から分かった。
剣があったとしても通りにくそうな感触だ。
殴るとすぐに追撃を仕掛る為に吹き飛んだ蛙を追った。
奴の技は早いものばかりで厄介だ。
攻撃する暇を与える訳には行かない。
蛙に追いつき蹴り飛ばそうとするが、大きく左に飛び跳ねた。
更に舌を飛ばしてきたが、運良く外れて再び蛙を追う。
動きながらだと舌の精度は下がるようだ。
それに飛び跳ねる速さは大した事がないのも幸いか。
蛙の着地点に追いつくと地面に挟むように殴る。
殴る殴る殴る。
幾度目の拳を振り上げた時、蛙の身体から靄が沸き立ち拳を解いた。
靄が身体に吸収されると身体が淡い光を放ちすぐに収まった。
「王、ご無事で。こちらを。」
そう言いサイードが駆け寄り自分の剣を差し出してきた。
「それはお前が持っておけ。」
このジャングルが危険だという事は分かった。
だが、剣はサイードが持っていた方が良いだろう。
私で苦戦したのだ、彼では恐らく命はなかった。
サイードはありがとうございます、と小さく溢すと剣を持ち直す。
ただのジャングルではないとは感じていたが、あの様な生き物がいるとは。
人外の力を得て、人間ほどの大きさもある獣を苦もなく屠りさる力を持ってしても苦戦する相手がいるとは思わなかった。
あの知識の言葉、『存在を誇示し、高める為の場所。』とは強さを求め高めるということか?
まだまだ強くならなければならない、あの蛙はこの池の主の様だがこのジャングルで最も強いと言う訳ではないだろう。
今日は一度撤退して洞穴に戻り体勢を立て直すべきか。
武器も失い、何も考えず探索を続けるのは得策ではないな。
◆◇◆◇◆◇
帰りは来た道を戻り、川を下ってもどった。
幸いにも狼や蛙のような生き物に出会うこともなかった。
周りに細心の注意を払ったのもあるがな。
あの蛙位の強さで不意打ちを喰らえば、次は命があるかは分からない。
この身でも危機を感じる的に出会ってしまった以上警戒し過ぎるくらいでもいいだろう。
さて、これからどうするべきか。
とにかく、探索は続ける必要はあるだろう。
今の所文明らしきものは発見できていないが、元の世界と同じならば何かしらあるはずだ。
存在を誇示し、高める為の場所と知識にあるくらいだ、意味に当たりは付けたがこの先の道標になる言葉に違いない。
しかし、完全に信じている訳でもない、知識の出処が分からない上、完全に私に有利な事かも分からないからな。
それにしても分からないことばかりだ。
まずはこの世界その物もそうだが、そこに住まう生物。
あの蛙は不思議な術を使っていた。
あの水の塊は恐らく魔力を使ったものだろう、元の世界ではありえない現象だ。
占い師が、魔力とは摩訶不思議な力でこの世のものとは思えぬ力を発揮する、と言っていた。
その時は、目にも見えぬ、何も起こらぬで何が力か、と一笑に付したが実際に目にすると笑うことなど出来ない。
元の世界の人間で魔力を使える者はいなかった、もしいれば有名にならない事などないだろう。
だが、私には今その力があるようだ。
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