異界
洞穴から出ると景色に変化はなかったが、空の色が違っていた。
あちらの世界と同じなら今は夜なはずだ。
夜空と言えば、僅かに昼間の青色を残した黒だ。
しかし、こちらの夜空は僅かに赤みがかっていた。
夕暮れの色が残っている可能性もあるだろうが、恐らく違うだろう。
それにしても、風景はほとんど同じだな。
空の色だけが違うならば私が元の世界の色を変えてしまったのだろうか。
いや、流れてきた知識にはもう一つの世界とあった。
別の世界と考えていいだろう。
ひとまず探索をしてみるか。
もう一つの世界と言うくらいだ。
空の色以外にも何かしら変わっているに違いない。
まずは川沿いに登ってみるか。
サイードも私に付き従い上流に登っていくと、すぐに変化に気が付いた。
木々が生い茂っているのだ。
元の世界でもオロンテス川沿いで木々が茂っている場所はあったが、少なくともあの場所あたりには少なかった。
森やジャングルと言った物に近いだろう。
それに元の世界では見なかった形の葉や木の形をしている。
更に進むと生き物の気配がした。
狼の様な生き物が5匹いる。
狼の様なというのは目が4つあり角が生えているのだ。
普通生物は目が2つだ、蜘蛛の様に例外もあるが。
角自体は不思議ではないが、こういう毛の生えている獣に鋭い角がある生き物は見た事がないな。
普通の人ほども大きさがあり、訓練されている人間が1匹太刀打ち出来るか、と言ったところか。
あちらも気付いているようだ。
5匹が一斉に襲い掛かってくる。
この大きさの獣が5匹となると骨が折れるな。
獣とは戦った事はあまり無いが、人間より苦戦すると考えた方が良いだろう。
人ではなくなったサイードの実力はまだ未知数だが、相手にできるだろうか。
私とサイードはほぼ同時に剣を抜いた。
先行する狼は私より小さいサイードにまず狙いを定めたようだ。
サイードに飛び掛かろうとする時、横から斬りつけると狼は両断された。
人のままであったなら、狼の素早さに翻弄されていたかもしれないが、この身体はこの速度にも付いていけるようだ。
人であった時の感覚になれているせいか、この様な大型の獣を一刀の下に両断する感覚には違和感がある。
次に私に飛び掛かって来た狼を、剣を構え防御する。
狼は剣に噛みつき、大きな体躯が私に覆い被さるが空いている左拳で殴ると吹き飛び木にぶつかり動かなくなった。
残りの狼は、先行する狼がやられたことで警戒しているようだ。
2匹を屠った感触から、私にとってこの奇妙な狼は驚異にならないようだ。
「面目ありません。」
「気にするな。」
サイードの反応から自分が相手にするつもりだったのだろうが、私が横取りする形になってしまったのだから。
それに万が一、命の恩人をみすみす死なせては自分を責めなければならなくなる。
この身体で何処まで相手に出来るのか試さなければならないしな。
いずれサイードも試さねばならないが。
残りの3匹を相手にしようと数歩近づくと、攻めあぐねていた狼がこちらに攻めてきた。
いなして後方に回せば、サイードに行ってしまう。
飛び掛かってきた一匹目を拳で横っ面を殴り倒し、2匹目、3匹目を剣で切りつける。
両断こそ叶わなかったが、十分致死の一撃を与えられた。
苦戦することなく、狼5匹を倒すことが出来た。
この肉体は本当に凄まじい。
人であっても反応できないこともないだろうが、集中すればこれ程狼が緩やかに動いていると感じるとは。
何よりこの膂力だ。
あの様な人ほどもある獣を戦闘で両断など私はおろか、国中探しても居なかっただろう。
探索を続けようとすると、倒した狼から靄のようなものが湧き上がり私の身体に吸い込まれた。
色々不思議なことが起こる。
身体に変化は感じられないが、これにも何か意味があるのだろう。
あちらの世界では死んだ獣から奇妙な靄が出て身体に吸収される事などなかったのだから。
それから更に2時間ほど探索の為に歩く。
途中川から離れ、ジャングルの中を進んでいく。
このジャングルは歩くのが困難と言う訳ではないが、時に草を切り倒し蔓を引きちぎり進まなければならない。
目的地のアテもなく、ただ歩き回るというのもなかなか骨が折れる。
幸い体力も増えているのか疲労を強く感じることはない。
しかしサイードの方はそうではないらしく、顔に疲労が現れている。
平地を歩くのではなく、こういった茂みを歩く方が数倍疲れるのだから仕方がないか。
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