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変化

「心も人間ではなくなったのか?」


「それは……、わかりません。人間であった時の記憶はあり、感情があるのも感じています。」


それはわからぬか。

私自身も実際の所は分からない。

サイードと同様に人間の時の記憶もあり、感情というものもある。

うまくは言えないが、感情が薄まったようにも感じるが相変わらず静かな怒りは常に感じている。

ただ獣のように本能のままに、という変化ではない事は僥倖か。


現状の変化に考えを巡らせ、洞穴の外に目をやるととっぷりと夜の帳が下り星々が煌めいている。

何故あのような星が空に浮かんでいるのか、何故こんなにも煌めく粒が空に存在しているのか考えても答えが出ないように、今自身の事を考えても答えは出ないだろう。


しかし、このまますべてが謎のままで良い訳はない。

この体で生きていく以上、解き明かさなければならないだろう、何が起こったのか、私は何者なのか。


だが、今は別の事を考えなければならない。

もうひとりの兵の事だ。

未だに帰らぬ彼を探しに行かなければ。

最悪な考えは今は捨てておこう。

この辺りは草こそ生えているが枝が生るような木々が少なく、忠実に枝を探す為少し遠くまで行った可能性はある。


注意深く洞穴の外に目を配ると辺りは暗いにも関わらずよく見える。

夜なので暗いことには変わりないが、周りの輪郭がはっきりとしている。

人間だった頃も目は悪くはなかったが、明かりがなければ少し先に居る人に気付かないなんてこともあった。


もうひとりの兵は確か洞穴を出て左の方に行ったな。

外を眺めていると、お供します、とサイードが駆け寄ってきた。

もう1人の兵を探しに行こうとしたのを察したようだ。


10分ほど歩いた茂みの中で首から血を流し倒れている兵を見つけた。

最悪の結果となってしまった。

既に息を引き取っており、冷たくなっていた。

サイードの時の様に何かを出来ればいいが、不思議な知識が頭を過ることもない。


首に小さな穴がある。

おそらくは先程のヒッタイトの矢によるものだろう。

射られた矢は運悪く首を撃ち、ほぼ即死に近かったのか。

サイードと同様に首も刀傷によって裂かれているが、その他には目立った傷はない。


せめて墓だけでも作ろう。

こういった悲しみの感情は湧いてくる、むしろ強く感じている様な気さえする。

まだ人の心は完全に死んではいないのだろうか。

私も含め兵になった以上戦となれば何時死んでもおかしくは無いとは言え、この様な死に方は不本意だっただろう。


草が茂った地面を素手で掘るのは骨が折れるかと思ったが、やはりというかこの体は頑丈なようだ。

土を掬おうと指を刺せばぶちぶちと草と根を引きちぎり掌が埋まる。

そのまま掬い上げるとぼこりと小さな穴が掘れた。

サイードも無言で私に続く。

体格を見れば一目瞭然だが、私ほど力はないのか土を掘るのに少し苦戦しているようだ。


暫し掘り続けるとようやく人1人を埋葬できる深さまで掘れた。

人が道具を使うより早く掘れるとは思わなかったが、この体は流石ということか。

肉体が強靭なだけではなく、単純な腕力も道具を使った人間を凌駕し、更に不思議な術を使う。

我ながら人間離れしていると思わざるを得ない。


息を引き取った兵を穴に横たわらせ、この肥大した身体にまだ付いていた装飾とともに埋葬した。

エジプトの神々によって冥福のあらんことを。


さて、これからどうするべきか。

近くの街に行こうにも距離があり、そもそもこの様な風貌では人と出会った瞬間に戦闘なんてことにもなりかねない。

一旦元の洞穴に戻って今後の事を考えるべきか。

しかしどうしたものか。

この体では人として通るのはおそらく無理だろう。

国へ戻った所で話も聞いてもらえず、軍に包囲され戦闘になる可能性も低くない。

いやむしろその方が高いだろう。

サイードに使った物とは別の不思議な力でなんとか出来ればいいが、あまり期待はしないほうが良さそうだ。


元の洞穴を目指し程なくして到着すると先程屠った2人のヒッタイトを川に流した。

命を狙ってきた者にまで墓を建てるつもりはないからな。

それから、再び壁にもたれた。

疲れている訳ではないが、立っているよりマシだろう。


「サイード、お前も楽にしろ」


疲れているかは分からないが、先程も墓を掘った時私よりも苦戦しているようだったし、見た目だけではなく体力的にも違うと見た方がいいだろう。


「ありがとうございます。では、私は外を警戒しながら休息を取らせて頂きます。」


真面目なやつだ。

先程のようなヒッタイトが現れ、隙きを突かれようとも早々に討ち取られることはないと思う、だがサイードの方はどうか分からないか。

しかし、墓を掘る時苦戦していたとは言え、そこらの人よりも素手で掘れていた事からサイードも強靭な肉体を得ているのだろう。


それにしても、この体やサイードに使った不思議な術は何なのか。

元はと言えば、あの玉だ。

確かに美しく不思議な玉だったが、まさかこんな事が起こるとは。

玉が溶けた右手を見るが、茶色く変化した以外特におかしな所はない。

あの玉は何だったのか、何故こんな力を授けてくれたのか。

分からないことだらけで、更にアテは突然頭に湧く知識のようなもの。


行き詰まったな。

せめて自身の事だけでもどうなったのか、教えてくれないものか。


そう思うと、手の甲がじんわりと暖かくなり、溶けて消えたと思われた先程の玉が半分だけ埋まった状態でぷっくりと現れた。

貴重なお時間で読んでいただきありがとうございます。

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