忘らるる歴史
人々は知っているだろうか、
目的を。
人々は気付いているだろうか、
理由を。
人々はどう思うだろうか、
絶望するしかない暴力を。
◆◇◆◇◆◇
荒野で、俺は見下ろしていた。
俺だけじゃない、数えるのも億劫になるほどの友共とともに。
視線の先には、我らを食い止めようとする人間の群れ。
俺は地上から30mほどの上空からそれを見下ろす。
地上には、雄叫びを上げるデーモン、口元から紫がかった黒い霧を吐き出すリッチ、自ら鼓舞する獣人、地を掻き今にも走り出しそうなケルベロス。俺より後ろの空中では、ドラゴンが咆哮を上げ縦横無尽に滑空している。
これはまだ決戦ではない。
俺が目指すものはまだまだずっと先だ。
俺は緩やかにマントを靡かせる風を堪能する。
目をつむり、天を仰ぎ、両腕を軽く広げると、自然の全てが自分の味方をしている感覚を掴む。
そのまま右手に、血の巡りに似た流動する力を集めると、5本の指先から液体を思わせる光が掌の上に集まる。
それが混ぜ合わさると、高速で蠢きながら安定を求めて球体を形取り、キーンッと耳鳴りに似た音を微かに漂わせ、人の頭ほどの大きさになると俺は目を開き、人間共に目を向ける。
人間共の所々からは天に向かって防護魔法を放ち、半球体の灰色の薄い膜は見る見るうちに分厚くなる。
人間よ、力を合わせれば俺の一撃を防ぐほどの力を得られるのに、なぜ道を踏み間違える。
1度深く息を吐き、右手に集まる力を人間共に放り投げる。
それが人間の防壁に当たると、光の玉から八方に紐が伸び、締め付け、パキパキと小気味のいい音を立て防壁にヒビがはいる。
それを合図にドラゴンが火球を吐き、地上の兵は地鳴りを起こし突撃する。
火球を無数に防いだ後、防壁は大気を震わすほどの衝撃波を放ち音もなく霧となって、締め付けていた光球とともに消えた。
その衝撃波は先陣を切る烏合のように見えるドラゴンの群れから衝撃耐性が弱いドラゴンをぽつぽつと墜落させ、同様に地上の兵の血管を破壊して命を奪っていた。
地上兵が人間と交戦を始めると剣と魔法の応酬を始めた。
骸骨がローブを纏ったリッチが氷の力を宿した魔力弾を放つが、人間の盾に防がれる。
盾は魔障壁を施されているようで、氷の魔力弾が盾に当たると砕けた。
リッチは追撃を仕掛けようとするが、別の人間に後ろから剣で切りつけられ怯むとめった切りにされ朽ちた。
狼の獣人は圧倒的な身体能力で人間の攻撃を一閃、二閃、三閃と身軽に躱してゆく。
圧倒的な身体能力と動体視力、鋭い勘で人間を翻弄し動きを崩す。
剣を振り抜いた先の隙きを突き、鋭い爪で人間を切り裂くと首筋に噛みつき息の根を止める。
ドラゴンは上空から火球の炎撃をしかけるが、人間共の頭上に流砂を思わせる水色の粒が現れ威力を殺し、人間に届く頃には薄皮1枚が焼ける程度に弱らされた。
空間を指定し、施術したのか。
熱に反応して発現し、火球が消費する空気とともに取り込まれ、魔力を相殺する魔法だな。
鋼が白熱するほどの火球を、あそこまで弱体させるとは。
輝く才能をどれほど集めたのか。
数では人間の方が勝っている。
個々の力で見れば、我が友共の方が優れているが人間の強さは群れて力を合わせた時に最大限の力を発揮する。
簡単に勝てる戦ではない、だが負けるわけにもいかない。
そこかしこで失われる命に悲しみを覚えながらも先へ進まなければならないのだ。
ちらほらと個の力で抜きん出た人間も居るな。
友共では少々手に余るか。
さて、俺は抜きん出た人間の相手をしに行くか。
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