第21話 無自覚はハーレムの始まり
「ギルドマスター……何か疲れてませんか?」
「イゾルテがぐずってな。解るだろ?」
「心中お察しします」
「俺の事はいい。あのバカの事ももう慣れた。それよりもだ。ギルドとしてはモモチの加入をお勧めするぞ。こいつブラックリ……もとい、それなりに有名人でな。実力については折り紙付きだ」
ヴィヴィのジト目に、ギルドマスターはウインクで返す。彼はこう言っている。ギルドからの推薦を言い訳にすりゃいいだろうと。
「ヴィヴィ? やっぱダメ? ギルドマスターもこう言ってるし」
ヴィヴィは何か言いたげそうだったがどうやら観念したらしく、はぁ~と深いため息をしていた。
「……いや、いいよもう。どうせ他に集まらないだろうし。何よりギルドマスターの推薦だからね。そういう事にしておく」
「なら決まりだ。三人ともしっかりやれよ?」
「え、良いのでござるか!? ヤッター!」
大喜びで跳ねるモモチ。再びその大きな胸がバルンバルン揺れている。アルトスは顔を赤くして目を伏せて、ヴィヴィはチィと舌打ちをしていた。
「ただよ、これだけは皆の代わりに言わせろアルトス。お前は罪作りな男だ」
「???」
「まぁ、長く冒険してりゃ、そういうこともあるだろうさ。美少女と美女に挟まれて隅に置けねえなこいつ」
アルトスとしては割と真剣で、ヴィヴィが拒むのは彼女の豊富な経験則から来る危機回避とモモチの悪名のせいだと思っていた。ところがどっこい問題は既にヴィヴィの乙女心に置き換わっていたことに、彼は気づいていない。
「あのギルドマスター、話がよく見えなくて……」
「お前はそれでいい。ただ一つ先達として言わせて貰うが、刺されないようにな? 俺は刺された」
「刺されるの!?」
「男女に起きる感情を舐めるな。心に深く刻み込んでおけ」
笑いながらアルトスの背を叩くギルドマスター。周囲も「ギルドマスターは刺されたんかい!」とどっと笑いが起きて、張り詰めた空気が一転して和んでいた。
流石は歴戦のギルドマスターである。こういう時の手腕はピカイチだった。
「ほれ、問題を収束させたお礼だ。パーティー登録証をやる。イゾルテがすぐ作ってくれたぞ。仲良くやりな」
アルトスが登録証を受け取ると、必要最低限の項目が丸っこい字で埋められた。パーティーのリーダー名などには特に大きな文字で『炎拳のアルトス』と書かれていた。
「主殿! 二つ名が!」
「イゾルテが勝手につけたんだよ。ちょっと恥ずかしい」
「まあこれはこれでいいんじゃない?」
意外にも肯定的なヴィヴィに驚くアルトス。不思議に思っていると、ヴィヴィが「周り、見てみなよ」と促してきた。
「炎拳のアルトス……あの拳は一体なんだ?」
「鷹の目のエリックのとこ抜けたのは独立だったのか。誰だよ無能で追放されたって言ったの。最強の一角じゃねえか」
「あの鬼族のサムライを手懐けるのかよ。とんでもねえガキだ」
「宿に帰って作戦会議だ。トップランカーがまた増えた」
アルトスは戸惑うも、ヴィヴィの言いたいことが理解できた。明らかにアルトスへの視線が変わっていたのだ。
やがて慌ただしくなる冒険者達。ギルドのカウンターには列ができて、有望な新人はいないかだとか、転職して戦力強化を図りたいなど活気だっている。
「みんなアルトスを認めだした。儲けたね」
「ヴィヴィ、もしかしてさっき喧嘩を止めなかったのはこのため?」
「変態リボンの剣をいなしてくれるだけでいいかなとは思ってたけどね。ここまでは予想外」
いいように使い捨てられた経験のあるアルトスの手前、予想外だと伝えたヴィヴィだが、実のところ計算通りでもあった。
歴戦のイゾルテを何とかいなせば、それだけでアルトスの力量を的確に示せるのは火を見るより明らかだった。
どうせ彼の力は遅かれ早かれ露見するもの。その未知なる圧倒的な力を、怪しい術だとか、それこそ黒魔術だとか思われても仕方が無い。
ならばセンセーショナルに衆目に晒す事が大事だと、ヴィヴィはブラックスキルを見た瞬間から思っていたのだ。
まさかモモチまで加わるというのは予想外だったが、結果としては良かったのかもしれない。
冒険者にとって名声は高ければ高いだけいい。
舐められないということは、それ自体がパーティーのステータスになるのだから。
ギルドマスターから受け取った書類に必要事項を書き込んで提出すると、その瞬間アルトス達は正式にパーティーとして認められた。
「パーティーは仲間であり運命を共にする家族みてえなもんだ。仲良くやんな」
「主殿。これからよろしくお願いします!」
深々とお辞儀するモモチ。その所作はとても品が良く、黙っていればとにかく絵になるのになとアルトスは思う。
「あと、コレの件は人の少ないところでな?」
周囲を伺いながらギルドマスターが指差すのはピンバッジ。アルトスは静かに頷くと、ギルドマスターにペコリと頭を下げて「いこ、とりあえず外に出よう」と二人を連れ出す。
長身の美人鬼、モモチは嬉しそうについてゆく。アルトスにピッタリとついてゆくその様は忠犬のようだ。
反してムクーっと頬を膨らませてついていくのはヴィヴィ。パメラのように心配する事はないだろうなと思いつつ、やはり別の女がアルトスに近づくのは不愉快らしい。
外に出ると既に昼を過ぎていた。ただただ冒険者ギルドに寄っただけなのに、第二階層まで潜ったような疲労感がアルトスとヴィヴィにのしかかる。
昼は再び出店で昼食をとり、午後は次なる冒険の為の買い物をすることになった。
ダンジョンはある意味段取り八分と言っていい。基本的に準備を念入りにすればするほど成果は上がり生存率が上がる。アルトスが以前ヤケクソでダンジョンに潜ったのは誰が見ても自殺行為だった。
食料を買って各種回復薬を揃える。アルトスは鍛冶屋に寄り、ヴィヴィは各種道具を揃えてゆく。その間モモチは二人の後ろにずーっとついて自ら荷物持ちを買って出ていたが、とても楽しそうだった。
「モモチ、退屈じゃない? 行きたいところあったら言っていいよ?」
「拙者は殆ど用意を済ませております故。ただ、こうして主殿とヴィヴィ殿と並んで歩くのが嬉しくて」
「何、ホントにパーティーに飢えてたってコト?」
「その通りでござるよヴィヴィ殿。拙者、今のところひと月持ったパーティーを知りませぬ」
流石に同情する二人。パーティークラッシャーの名は伊達じゃないなと思えた。
「迎え入れてくれる者もおりましたが、拙者の体をジロジロ見る者ばかりで……そういうのとは、あまり良い思い出はありませぬ。不埒な者は斬り捨てましたが」
寂しそうに笑うモモチだが、やることはしっかりやっているのが流石である。それまで不機嫌だったヴィヴィは「へえ、やるじゃん」と一転して興味を示した。
「わかる。何人かいたよそういうの」
「ヴィヴィ殿は当然でござろうな。中々の器量の持ち主ですし、破廉恥な服装も似合ってござる」
「破廉恥は余計だよ!」
「それでも芯の強さがお顔に出ているでござる。主殿も。それが美しいから、下賤な輩も集めてしまうのでしょうなあ」
ストレートに褒めてくるモモチにヴィヴィは「なんか調子狂うな」と言いつつも、芯の強さと言われて少し嬉しいようである。
そこから二人はセクハラ体験談から始まって意外にも女子トークで盛り上がり、宿屋に帰る時にはヴィヴィとモモチはそれなりに仲良くなっていたように見えた。
アルトスたちが宿屋に戻ったのは夕暮れ時。色々と準備をすればこんなものである。ダンジョン変異はそろそろ落ち着きそうだというウワサを耳にして、今日は早めに休んでおこうと酒場には寄らなかった。
宿屋のロビーにはいつもより冒険者が多く屯していた。アルトスが歩くと、皆がこちらを見つめてくる。前のような侮蔑と嘲笑まじりのものではない。一気に名声が高まった彼らに対しての驚きと賞賛、そして疑念と嫉妬が入り乱れていた。
もうなんか慣れたなと思いつつ、アルトスはカウンターにデーンと座る宿屋の主人に部屋の鍵を求める。宿屋の主人は夕刊をゆっくり置いて「もうお楽しみタイムか? まだ夕方だぞ」と茶化してくるが、モモチを見るなり目を丸くしていた。
「バカな……お楽しみが二倍になっただと……」
わなわなと震える宿屋の主人。アルトスがもう一度鍵を求めようとすると、宿屋の主人は「ちょっと待ってな!」とスタッフを集めてドタドタと別棟への階段を上がっていった。
暫くして疲れた様子で戻ってきた宿屋の主人に鍵を受け取ると、アルトスは何故か「グッドラック」とサムズアップで迎えられる。スタッフ達も玉のような汗を流して、同じくビッと親指を立てていた。
怪訝な顔をして部屋に戻ると、何が起こったかすぐに解った。
「ベッドサイズがさらに大きくなってる……」
というより、キングサイズのベッドを三つも連結されていたというのが正しい。もしかして三人あの広いところで寝ろというのか。アルトスは頭を抱えた。
「いーじゃん別に。寝る場所が広いってことは出世した証だし」
そう言ってヴィヴィは疲れたーとマントをソファーに放り、買い物袋とカバンをベチャリと置いて、ナイフとボウガンのホルスターだけは静かに床に置くと、靴を脱ぎ散らしながらベッドにダイブ。大の字になって「あ”-」と変な声を上げていた。
外ではしっかりしているのに、部屋に入った途端にだらしなくなるのは何故なのだろうか。アルトスはそれが信頼の証であることに気づかない。
アルトスはちゃんとコートをコートかけにかけて、背負っていた剣をテーブルに置き騎士の祈りを捧げると、靴をしっかりと揃えた上でヴィヴィのようにベッドへダイブ。ふわんと一回バウンドすると大の字で寝っ転がって、やはり「あ”-」と変な声を上げていた。
「あ、あの。主殿」
あれ? と思って見てみると、モモチが部屋の入り口で何やらモジモジしていた。どことなく落ち着かないと言った様子である。
「どうしたのモモチ?」
「拙者は……その、斯様に豪奢な部屋に泊まった事がありませぬ」
そりゃそうだ、とアルトスとヴィヴィは頷く。恐らくはVIP用に作られた場所なのだろうが、冒険者の宿にとまざるを得ない要人などほとんどいない。
改めて見るとギルドクラス4の冒険者も泊まれるかどうかとアルトスは見たが、ここのところは宿屋の主人の厚意だろう。
「一介の冒険者がどうしてこんなところに。主殿はもしかして、どこかのお殿様なのですか?」
真顔でそう言うモモチに、思わずブフッと吹き出してしまうヴィヴィ。
「ペンドラゴン卿? バレちゃいましたね。お疲れのようですから御足をお揉みいたしましょうか?」
「やめてよヴィヴィ。モモチが誤解しちゃう」
「や、やはり! 拙者、そんな事も知らず粗相をーー」
「う、嘘だから! やめてそこでドゲザしないで!」
次は2021年10月29日(金)の午後8時頃




