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第1話 武器が使えない!

数ある中からご覧いただきありがとうございます。

ラブコメ要素ありのざまぁ系ファンタジーです。よろしくお願いします。


【簡易ガイドライン】

【OK】朗読に使用、ファンアート、YouTube動画紹介 他

【NG】紹介やレビューでない無断転載等(なろう、Twitter、動画問わず)

「剣が使えない魔剣士(ルーンナイト)なんて役立たずだろ。追放だ追放」


 仲間の辛辣(しんらつ)な言葉に文句すら言えず、魔剣士(ルーンナイト)アルトスは呆然(ぼうぜん)としていた。


 当然だ。レベルアップしたと思ったら無能になっていた。意味が分からなかった。


「【武器使用不可(ウエポンロック)】……だって? 冗談だろう? 冗談だと言ってよ女神様!」


 アルトスの視界が涙で歪む。今まで積み上げた苦労が全て崩れていく。


 十四歳で家を飛び出し、冒険者になって二年ほど。辛いことも多かったが今日ほど酷いものはなかった。


 天を仰ぎ文句を言いたかったが、見上げる空は暗く天井が低い。


 それもそうだろう。ここはダンジョンの奥なのだから。


 アルトスを笑うのはパーティーメンバーのギドだった。彼は重装備(フルプレートアーマー)で身を包んだ戦士(ウォーリア)で、腕は立つがとても嫉妬深い。そして今、アルトスが使い物にならないと知るや鬼の首を取ったかのように喜んでいた。


「俺は知ってるぜ。それ、俗に言う女神の戦力外通告ってやつだな」

「……ギド、何がそんなに楽しいんだ? 僕が不幸になってそんなに楽しいのか!?」


 ニタニタするギドに、思い出したように怒りを露わにするアルトス。固く握る拳が震え、反対側に持つ剣の震えが止まっていた。


 このままではダンジョンのド真ん中で斬り合いが始まる――そう感じたリーダーの弓使い(アーチャー)が二人の間に割って入った。


「言葉が過ぎるぞギド。どんなスキルでも女神からの贈り物だ。敬意を払え」

「ハッ! 元騎士団らしい敬虔な言葉だなリーダー。でも聞いただろう? 【武器使用不可(ウエポンロック)】だとよ。もうウェズベルは魔剣士(ルーンナイト)じゃねえ。ダメダメな駄剣士だよ」

「……ッ!」


 言葉を詰まらせるリーダーだが、いいから黙れとギドを(たしな)める。そんな剣呑(けんのん)なやりとりの背後では、同じくパーティーメンバーの女魔術師(マージ)パメラが心配そうに様子を見守っていた。


 一方倒れたモンスターの側に座るのは斥候(スカウト)の少女ヴィヴィ。ダークエルフの彼女は常にメンバーたちと一線を引いている。修羅場を横目に黙々とモンスターの素材を剥ぎ取っていた。


 アルトスたちがいるのは緑と魔力豊かなトランドール王国の東。古代の戦場跡地にいつの間にか出来ていた『竜の口』という新しいダンジョンだった。


 最奥に古のドラゴンが住み着き『伝説の宝』が眠る噂されるも、誰も真相に辿り着いていないという。まだ見ぬ宝を求めて冒険者はこぞって集まり、今やダンジョン周辺は街が出来上がるほどだった。


 アルトス一行は数ある冒険者達の中でも、その真奥に近いとされる上位パーティーだった。


 今日は最終階層である第五階層を目前に控え、金策と鍛錬を兼ねてのモンスター狩り。帰りがけの第三階層で鉢合わせたレッサーデーモンの群れは慣れた相手であった。


 魔剣士(ルーンナイト)であるアルトスは入り乱れる戦いの中に勝機を見出すと、手にする炎剣ファイアブランドに魔力を込める。刃に炎を纏わせた魔法剣(マジック・ソード)。炎の斬線が虚空を描き、レッサーデーモンの肩口から脇まで一気に刃が疾走った。


 今までにない会心の一撃だった。


 レッサーデーモンが悲鳴を上げる前に事切れると、アルトスの頭上がにわかに明るくなる。


 それはレベルアップの合図。


 女神からの祝福であり、成長の証。


 さらに甲高いラッパの音が鳴ればスキル付与の合図。立て続けの幸運にアルトスは喜びのあまり飛び上がる――が、悲劇はその時に起こった。


 レベルアップと共に発現したのはハズレもハズレ、【武器使用不可(ウエポンロック)】という冗談のようなスキルだったのだ。


「武器が……使えない? 僕はこの前、魔剣士(ルーンナイト)に転職したばかりなんだぞ?」


 基本的にスキルは何が宿るかわからない。ただ単に運というわけでもなく、大抵は自分の職業や生き様、性格が色濃く出る。アルトスもてっきり剣士のためのスキルだとか、そういうものを賜るとばかり思っていた。


 アルトスが左手首をトントンと叩いて、空中に『己の窓(ステータス)』を開く。ふわりと現れた魔力の塊が窓を象ると、黄金の光がサラサラと文字を描き始める。





 アルトス=カストゥス

 職業:魔剣士(ルーンナイト)

 レベル:22

 ステータス:体力C 筋力C 技術B 知恵D+ 魔力C+ 素早さC

 ■■:■■■■


 スキル:【武器使用不可(ウエポンロック)

 武器が使えなくなる。■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■





 どれかがAであれば天賦(てんぶ)の才、Sと出れば勇者か魔王レベルといわれるその中で、元騎士の家の三男坊がここまであれば優秀な方だ。


 彼の魔剣士(ルーンナイト)という職業は戦士(ウォーリア)より一つ上の上級職。高威力な魔法剣(マジックソード)を叩き込む火力の要――いわゆる花形職というものだった。


 だが彼に宿ったスキル【武器使用不可(ウエポンロック)】は、そこに至るまでの苦労を全て台無しにしていた。


 加えて所々に墨で消されたような跡が不気味だ。女神からの声が無ければ呪いを受けたといってもまず信じるだろう。


 その悲惨な『己の窓(ステータス)』を見たパーティーメンバーは絶句。


 ただ一人、ギドだけは笑っていた。


「いい気味だぜアルトス。魔剣士(ルーンナイト)になったからって調子こきやがって。ウンザリだったんだよ!」

「うん……ざり……?」

「ちょっとギド、貴方アルトスが転職してから当たりが強くない? なんでそんなこと言うの? 仲間でしょ!?」


 気分を悪くしたパメラが抗議するも、ギドは中傷をやめない。それどころか嫌味の矛先を彼女にすら向けてきた。


「なんだパメラ。随分と肩を持つなお前。さてはアルトスに惚れてたのか? 確かに年下好きがコーフンしそうなショタ顔してるよなコイツ」

「いい加減にして!」

「ギド! ダンジョンの中でパーティーの和を乱すな!」


 リーダーが怒鳴り、ギドは肩を竦めるもアルトスに向ける目はずっと冷たい。確かに彼はパメラの言う通り、アルトスが魔剣士(ルーンナイト)に転職してからというもの当たりが強くなっていた。


「アルトス、本当に武器が使えないの……?」


 パメラがそっと近づいてくる。栗色のセミロングの髪をなびかせて、大きな目を潤ませる彼女はとても心配そうだ。アルトスはハッとすると、ぱちぱちと頬を叩いて気合を入れ直し、剣を構え直してみる。


 特に何も変化がない。剣の柄は慣れた感触を返してくるだけだ。


「……コォォォォ」


 剣をゆっくり振り上げて、魔力を練りあげる。大上段に掲げたアルトスの愛剣が、緋色の光を帯び始める。


 魔剣士(ルーンナイト)の代名詞でもある魔法剣(マジックソード)。剣に魔力を乗せ斬る。単純明快だがその破壊力はお墨付き。加えて彼の持つ炎剣ファイアブランドは魔法武器(マジックウエポン)の一種であり、その力をさらに引き出すものだ。


 彼が練り上げた炎呪文(ファイア・スペル)と内包する炎の精霊(サラマンダー)の力を合わせれば、下級とはいえデーモンを一撃で沈める炎の剣を作り出すほどになる。


「なんだ、普通にいけ……うわ!!」


 突然魔力が弾けた。


 振り下ろそうとした剣が空中にピタリと止まって、岩に刺さったように動かない。その姿はまるで大道芸(パントマイム)のようだった。


「嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ!」


 アルトスは信じられないと頭を振り、別の形に構え直す。思いつくありとあらゆる形に構え直して斬撃を放とうとしたが、やはり剣は何かに固定されたかのように動かなかった。


「あっはっは! ほらな!」


 青ざめるパーティーの中、唯一嬉しそうなのはギドだ。鉄兜を脱いで金の逆立った髪をあらわにすると、指をさして大笑いしていた。


「いい加減にしないかギド!」

「エリック……僕は……」


 アルトスの声は震えていた。ショックのあまり顔が真っ青になっている。エリックと呼ばれたリーダーは、はぁ、と大きなため息。頭を振ってアルトスの両肩を掴むと、顔をじっと覗き込んできた。


「リーダーとして戦闘不能と判断する。隊列変更だ。ギド、殿(しんがり)を。バックアタックを許すなよ。パメラ、警戒魔法(アラート)を最大に。ヴィヴィは先行、最短より安全を選んでくれ」


 そう言われて、ヴィヴィは静かに頷いた。体をすっぽり覆うグレーのマントから、チラリと見えるのは褐色のほっそりとしたシルエット。ヴィヴィは深く腰を落とし、パーティーの先頭に立って警戒しながら進んでゆく。


 あくまで自分の仕事を崩さずに仕事するヴィヴィに、アルトスは逆に救われた気持ちになった。彼女は寡黙すぎるので、正直組んだ時からどう接すればいいか解らなかった。今はむしろ、そのドライな性格が心の傷を広げなくて済む。


「陣形から離れるなよアルトス。慣れた道だが、油断していると簡単に死ぬ。それに最近、各地のダンジョンで黒い人影が出るとも聞いた。悪霊群(レギオン)や不死者リッチなら絶対に会いたくない相手だ」

「隊長殿? そんなことよりこのグズのお守り、しっかりしてくれよな」

「……ッ! エリック、僕はまだ戦える!」

「いいや戦闘不能だ。君は軽装な上に、武器を使えないんだぞ!?」


 確かにエリックのいう通り魔剣士(ルーンナイト)戦士(ウォーリア)と違い軽装だ。アルトスの服装は青銅竜の皮で出来たフード付きのロングコートに鋼鉄の手甲と足甲。襟付きシャツの上から最低限のプレートをつけたジャケットを羽織り、動きやすい麻のロングパンツ履く。攻撃偏重な職業だからこその装備が今になって仇になった。


「……いいな? 何度も言う。君は戦闘不能だ」


 エリックが口にした『戦闘不能』とは言い得て妙だったかもしれない。アルトスは今、言葉に反してか細い線で意識を繋いでいる危うい状態。加えて武器が使えない、まさにお荷物だった。


「……これからどうすればいいんだ。僕は伝説の宝を――神の霊薬『エリクサー』をどうしても手に入れなければならないのに。こ、こんなところで!」


 目的が遠のく。


 彼の命を捧げて追い求めた『宝』が遠のく。


 大事な人が――棺の中で待つ人が遠ざかってゆく。


 彼女を思うからこそ、辛いことも苦しいことも我慢して、傷つくことすらも恐れなかったのに。


 まるで壊れ物のように扱われるその中で、アルトスは目の前は真っ暗になっていた。

次回は本日(2021年10月4日)の20:00あたり

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