最高神最低
「やあこんにちは、直矢君に澄也君、エディちゃん。お久しぶり……ではなくちょっとぶりだね。そして楓ちゃん、どうも初めまして。世界を見守るカミサマを統べる神の中の神、最高神だよ! どうぞよろしく!」
手を差し伸べられる。
「えーっと……どうも……」
とりあえず握手しながら答える。
最高神……カミサマを統べる……こいつが例の上司?
「最高神、何しに来やがった。」
直矢が機嫌悪そうに聞く。
「いやだなあ、部下が困っていたから問題の解決に動いたまでだよ。そんな目で見ないで欲しいなぁ。」
悲しいよーなんて言いながらべそをかくフリをする最高神。
ちょっとうざいな。
「問題だ?」
あぁ?といった感じで言う直矢。
完全にヤンキー。
「エディちゃんの住む場所、困っていたでしょ?」
「……まぁな。」
「そこでこちらのお母さんにエディちゃんをここに住まわせてもらえないかお願いをしてね、快諾してもらったんだ。」
「部屋もなんとかすればなんとかなるし、お家賃までくれるっていうんだもの。問題ないわよね?」
と母さん。
「まあそれはいいけど……それなら直矢達と一緒に住めばいいんじゃないの?」
男女一緒に住むのは~なんて問題はうちにも兄貴がいるから同じなわけだし。
「それがな、こいつが一緒に住まないでねなんて言うからできないんだよ……」
最高神を顎で指す直矢。
「流石に同じ高校に通ってる男女が一緒の家に住んでるのはマズいじゃない? 付き合ってるとかでもないわけだし、誤解されちゃうじゃない。」
「それはここに住んでも同じだろ。」
直矢の反論。
その通り。
「まあ話を最後まで聞いてよ。実は一つ屋根の下の男女が同じ高校に通っても全く問題の無い場合があるんだ。」
「……親族、か?」
「そうそう、流石勘がいいね直矢君は! エディちゃんは楓ちゃんの従姉妹ということにして、新条エディとして入学してもらうことにしたんだ。いい案でしょ?」
「……まあ新条家側の了承が得られているならいい案だな。」
心底嫌そうに言う直矢。
そんなに最高神のことを褒めるのが嫌か。
「それと、君たちの苗字も決めたから。これからは直矢君は明神直矢。澄也君は天神澄也ということで。同じ離島の出身で二人でルームシェアをしているということにしてね。」
「細かい設定まで考えてくれてどうも。ついでに家の確保もやってくれたりしないのか?」
「嫌だよー。やらなくていいことをやってる君たちの顔を見るのが僕の趣味の一つなんだから。」
なんだこの最悪な人間―――いや神か―――は。
「最低だろ、こいつ。こいつが事の元凶、例の上司だ。」
直矢が割と大きな声で言う。
「いやまあ……うん。」
本人(神?)の前だが同意せざるを得ない。
「うわー酷いなあ直矢君。そんな大きな声で悪口言うなんて。傷ついちゃったなぁ、僕。」
ニヤッと最高神が笑う。
「っ! マズい!」
何かを察知した直矢がすごい勢いで外に飛び出していく。
パチンッ
ガシャーン
「ぬおうっ!」
最高神が指を鳴らすと指から星形の何か(エフェクト?)が出て、直後鉄のフェンスに何かが衝突したような音と共に直矢の声が聞こえてきた。
外を見ると、
鳥籠を大きくしたような檻に直矢が捕まっていた。
「さて、どんなお仕置きをしよっかなー。」
ニヤニヤしながら近づく最高神
「何をする気だお前……!」
直矢は睨むが表情に恐怖の色が少し混じっている。
「じゃあ、これで!」
またもや最高神が指を鳴らすとポップな星形のエフェクトと共に直矢が光に包まれる。
光が晴れると―――
「俺もか……」
爆乳の美女がいた。
目の傷はそのままだし目つきも悪いので直矢だとわかるがなんというか凄い。女性ホルモンの量が半端じゃない。胸は小玉スイカが入っているのではないかという程の大きさで、華奢というほどではないにしろしっかりと腰もくびれていて、お尻も大きくまさしくボンキュッボンといったグラマラスな体型だ。厚い唇と長いまつ毛が色っぽさを増している。
「今日はこれで過ごしてねー。じゃあねバイバーイ」
パンパン、と最高神が手をたたくとまたしてもポップなピンクの雲のエフェクトが出て、エフェクトが消えると直矢を閉じ込める籠と最高神が消えていた。
「な、なあ直矢……その超でかいおっぱい……ちょっと揉んでも―――」
熱にうかされたような表情で近づく澄也。
まあ男の夢だよな。俺も可能なら一回触ってみたい。
「いいわけあるか気持ち悪い。触ったらぶちのめすぞ。女になったとはいえお前を半殺しにするくらい余裕だからな。」
「直矢さん、すごいですね……僕にも少し分けて―――」
エディが懇願する。
やっぱり小さいの気にしてるんだ……
「できるか。……しかし、邪魔くさいなコレ。足元が見えん。分けられるなら本当に分けたいくらいだ。」
「じゃ、じゃあ普段何食べたらそんな風になるのかだけでも……!」
「んー……まあ栄養バランスのいい食事だな。米は毎食三杯だ―――まあ流石にエディには難しいだろうから大盛にするとかしたらいいんじゃないか? 前から思っていたがエディ、お前はもう少し飯を多く食べた方がいいぞ。」
「が、頑張ります……」
というか直矢お前、絶対十五歳じゃないだろ。十五の体じゃない。
「あ」
澄也が突然言った。
「どうした?」
直矢が聞く。
「今気づいたんだけどさ、俺らこれから不動産屋行くわけじゃん。」
「そうだな。」
「大人役が契約して高校生の姿の方は借主として同席するわけじゃん?」
「ああ。」
「まあそんなによくあることではないと思うんだけどさ、このままだと直矢、大家さんと会う度その姿にならなきゃいけないことにならない? 借主以外の人間しか部屋にいないのは問題でしょ。」
「あー、そうだな。でもそれは俺が大人役をすれば問題なくないか?」
「いやぁそれがねー、なんだかロックされてるみたいで直矢を大人の姿にできないんだよね。年齢サバ読めばとも思ったけど直矢の分の身分証がどうやっても15歳のしか出せないんだ。」
ほらね、と直矢名義の保険証を見せる澄也。
なるほど俺と同じ生まれ年だ。
「俺は大家が来るたびにこの体になるわけか……」
はぁ、とため息をついて、
「やりやがったなあの野郎……」
眉間にしわをよせながら言う直矢。
「直矢も少し口を慎めばいいのに。」
と澄也。
「小声で言えばよかったんじゃないの?」
と聞いた。あんなわざわざ聞こえる大きさで言ったらそりゃああなりますよと。
「あいつどんなに小声で言っても難なら強く思っただけでも拾ってくるからな。それならいっそ堂々と言った方がスッとする分まだマシだと思ってな。ああ、心底最低だと思ってしまった時点でこうなるのは逃れられなかったのかもしれないな……」
「まあ直矢は今日だけだからまだマシだよ……」
俺なんか三年間だからな。
「まあそうだな。楓の手前、長く落ち込んでもいられないか。さて、じゃあ改めてお邪魔しよう。」
「そうだね。ただいまー。」
言いながら玄関のドアを開ける。
「「「お邪魔しまーす。」」」
「あらいらっしゃい。えーとそちらは直矢君……でいいのかしら?」
「はい。ちょっと事情があってこんな姿に……」
「やだもう美人じゃないー。顔の傷が少しもったいないけどそれを差し引いても美人だわー。」
「あ、ありがとうございます……」
少し赤くなりながら言う直矢。
可愛いな。……いやいや中身は男だぞ。
「そういえば最高神ちゃんは? 帰っちゃったのかしら?」
「最高神ちゃん……?」
眉をひそめる直矢。
「ええ。あの小学生くらいの子。直矢君たちの上司の方なんでしょう? 小っちゃいのに偉いわよねぇ。」
「あのクソガキ、猫被ってやがったな……」
まああの見た目なら普通に振舞ってる分には子供にしか見えないよな。
「そういえば幸は?」
幸。今年度から小学五年生の可愛い妹だ。
幸にお姉ちゃんとか言われたらどういう顔したらいいのか分からん……
「友達と遊びに行くって行って出てっちゃったわ。ああそういえばこれ、玄関にいつの間にか届いてたわよ。楓の?」
QS4とアケコンの包みを指さす母さん。
「ああ、うん。」
そういえばこれがあるんだった。触りたい! いや開けるのは勿体ない気も……飾る……? でも触りたい……
「ああ、楓ちゃん、安心して。プレゼントの一環で絶対劣化しないようになってるから。安心して使ってくれて構わないよ。」
どうやら悩んでいたのがバレていたらしく澄也にこう言われた。
「マジで? じゃ、じゃあ開けちゃおうかな……でもその前に部屋に持ってかなきゃだね。」
ゲームは基本自室でやるので。
「じゃあゲーム機は俺が持って行ってやろう。その体じゃ重いしでかいだろ。しかも階段だからな。」
直矢も女体なんだけどなぁ……まあ力ありそうだけど。
「じゃあ僕はアケコンの方を。さあ行こう。」
「あ、ありがと。」
ここで少し申し訳なく感じる辺り俺はこいつらをパシらせるのにはあまり向いてないんだろうな。
「僕もお部屋にお邪魔してもいいですか?」
「別に大丈夫だよ。」
エディだけ仲間はずれになんてしない。
「知ってるかもだけど、こっちが俺の部屋。そっちは姉貴と妹の部屋だから入らないでね。あっちの兄貴の部屋はまあ……入ってもいいけど。」
トロフィーとか以外なんもないからな。男子特有のものに関しては知らないけど、まあ見える場所には無いでしょ。……いやあの馬鹿兄貴だからな、もしかすると……まあいっか。