先祖返りってヤツ
「あーお前ら……面倒なことになったぞ。」
直矢がうんざりしたというような顔で言う。
「面倒なこと?」
俺としては既にもう十分面倒なんだけれども。
「最高神……あー、今まで言っていた上司のことなんだがな。なんでも、入学してすぐの生徒会選挙に出馬して当選しろとのことだ。」
「つまり生徒会長になれと?」
一年生なのに?
「ああ。なれなかった場合は罰が用意されているそうだ。」
「罰……」
指令したのが件の上司ということはこの指令は俺をこんな体にさせた張本人が出したモノってことであるわけで、性格の悪い奴が出したってことだ。そこで罰とくると、どんなモノかは分からないが嬉しくないもののは確実だな……
「罰の内容というのはなんでも生徒会選挙に当選しなかった場合その日より三カ月の間何を食べても湯葉の味しかしなくなる、という内容だそうだ。対象は俺たち四人全員とも。」
「は……?」
地味だけどすごい嫌だ。
湯葉ってほぼ無味じゃん。
「澄也さん、湯葉ってなんです? 甘いですか? それなら僕大丈夫ですよ!」
エッヘン、と胸を張るエディ。
「あー、エディちゃん、残念ながら湯葉は甘くない。何もかけてない豆腐みたいな味かな……」
苦笑いしながらエディに教える澄也。
「えぇっ!? それってほぼ味無しじゃないですか! 嫌です僕! 楓さん、頑張ってなんとか当選?しましょう!」
「そうだね。俺も毎日湯葉生活は絶対回避したいし……」
最悪だぞそんな生活。
「確か楓ちゃんのお姉さんは生徒会長だったよね? 当選のノウハウとか選挙制度の話とか聞こうよ。」
「まあいいけど、カミサマの力使えばわざわざそんなことしなくてもいくらでも情報なんて手に入るんじゃないの?」
姉貴も姉貴で忙しそうだし。
「いやー、これはもう指令だから力は制限されてるんだよねー。あとはほら、ゲームでチートを使ってもあんまり楽しくないでしょ? そんな感じさ。便利で万能だからこそ、使いどころを見極めなきゃね。」
俺にウィンクしながら言う澄也。
こいつ顔はいいし俺が元から女なら嬉しかったかもしれないが中身男だぞ。気持ち悪いだけだ。
「そういうことだ。早速で悪いがお姉さんに連絡してもらえるか?」
「いいよ。ちょっと待ってね。」
携帯を操作して姉貴の番号にかける。
「―――あ、もしもし姉貴? 今時間大丈夫?」
「もしもし。いきなりどうしたの? 今は……ちょっと立て込んでるわ。要件は何かしら?」
「生徒会選挙の仕組みとかについて聞きたくてさ。今がダメなら後でもいいんだけど。」
「生徒会選挙? 出るの? まあ確かに校則的には学年問わず出馬はできるけど、アレは二年生がなるのが慣例よ?」
「いやまあそうなんだろうけどちょっと事情があってね……」
学校入りたての一年生じゃ務まらないだろうし逆に三年は受験やらなんやらで忙しいだろうし。二年がなるのは妥当だよな。
「まあいいわ、とりあえず忙しいから切るわね。家帰ったら教えてあげる。」
「分かった、ありがとう。それじゃあまた後で。」
電話を切る。
「後で教えてくれるって。とりあえずウチ戻ろうか。」
「上がって大丈夫なのか?」
直矢が聞く。
「いつも友達とか来てるしまあ大丈夫でしょ。それに朝いきなり乗り込んできたのは誰だっけ?」
「それについては悪いと思っている。すまない。」
ペコリと頭を下げる直矢。
ここまで素直に謝られるとこれ以上追及する気にはならないな。
「おお、てことはお母さまとまた会えるのかな? 嬉しいなー、美人家族の家にお呼ばれとは。」
身内が褒められている以上、悪い気はしないのだがこいつに母親をこういう形で評価されるとなんかイラッとするな。
「澄也お前、失礼なことはするなよ。」
「大丈夫大丈夫。安心しろよ。この僕が女性に失礼を働くなんてあり得るとお思いで?」
「お前だから心配なんだよ……あと、エディもエディで失礼の無いようにな。食器棚とかには間違っても近づくなよ。」
「え、なんでですか?」
「お前がああいうワレモノの周囲にいるときだけ異常に転ぶからだ。まあ悪気はないんだろうが……ドジなのは責めないからせめて予防をしてくれ。」
「はい、分かりました! 食器棚には近づかない、メモメモ―――えーっと澄也さん、食器棚ってどう書くんでしたっけ?」
「ん? 食器棚はね、こうしてこうだね。エディちゃんも高校入る以上漢字覚えていかなきゃだねー。」
食器棚……ヤバい、結構うろ覚えかも。あまり書ける自信がない。
「そうですね! でも分からないときは澄也さんに聞けば問題ないんじゃないですか?」
「あー、この世界の―――いやまあ大抵の世界で学校っていうのはそういうものなんだけど、学校にはテストいうものがあってね、それは自分だけで解かなきゃいけないんだよねー。まあ漢字ドリルは買っておいたからそれを使って勉強すればいいさ。エディちゃんは努力家だからすぐ覚えられるよ。」
「はい、頑張ります!」
頑張るぞー!と拳を突き上げるエディ。
「じゃあ、そろそろ行く?」
直矢たちに声をかける。
「ああ、悪かったな待たせて。お前ら、行くぞ。」
「はいはーい。」
「はーい!」
二人が返事をした後、皆で歩き始める。
「そういえばさ。」
「どうした?」
「色々あって聞きそびれてたんだけど、俺なんで銀髪碧眼っていう日本人離れした見た目になってるわけ?」
女として生まれていたとしてもこうはならないと思うんだけど。家族全員黒髪黒目だし。
「ああそれか。俺も詳しくないんだが、どうも先祖返りってやつらしい。確かお前の母方の先祖に外国の血が混ざってるんだよ。えーと、どうだったか。澄也、どのくらい上の先祖だったか覚えてるか?」
「6世の祖、つまりひい×5お祖母ちゃんが外国人らしいよ。楓ちゃんは女性として生まれた場合その形質が発現するようになってたみたいなんだ。」
「へぇ。」
そんなことがあるんですね。
「まあこれ自体はたまたまだけど、それが原因で選ばれやすくなっていたっていうのはあるかな。」
「なるほど……」
嫌な偶然だ……
「まあしかしこうも見事に先祖返るものなんだねー。遺伝子ってシステムも中々奥深くつくられたものだよねー。」
「遺伝子の仕組みってカミサマが作ったの?」
「飽くまでこの世界に限って言えばだけど、そうではないよ。概ねこの世界の人類が研究している通りだね。まあ僕ら的には自動プログラミングでいつの間にか組みあがってたみたいな感覚かな。」
「なるほど……」
この世界ってことは他にも色々世界があるのか。
「ま、あんまりこの世界のこと話すと怒られちゃうからこの話はこの辺で。」
「そうなんだ。」
まあ聞く限りなるべく影響がなんて言ってるし(こと俺に関しては影響しまくりだけど)この話を続けると内容によってはノーベル賞モノの事実が分かってしまって、それはマズいということか。
「そうだ、直矢!」
突然直矢に呼び掛ける澄也。
「ん?」
「ジャンケンポン!」
突然始まったジャンケン。直矢がチョキ、澄也はパーで直矢の勝ち。
「ッカー、俺の負けかー。」
「で、今回は何のジャンケンだ?」
どうやら突然のジャンケンはよくあることらしくこんなことを言う直矢。
負けたら何かする的なヤツ?
「この後の不動産屋の大人役。」
不動産屋?
「ああ。なるほどな。じゃあ頼んだぞ。」
「ジャンケン最近負けてばっかだなー。」
「ズルはしてないぞ。ただの運だろ。」
「知ってる知ってる。直矢がズルするなんて思ってやしないさ。んー、まあいっか。そんなに面倒な仕事じゃなさそうだし。」
「不動産屋行くって住む家探すってこと?」
確かに住む場所は必要そうだし。
「ああ。毎回カミサマ世界からこっちの世界に来て通うわけにもいかないからな。力も制限されるっていう話だし。ただなあ……」
直矢が渋い顔をする。
「何か問題が?」
「エディの住む場所がな。今までは俺と澄也は家を借りていて、エディは寮のような場所で生活していたんだが、この学校には寮が無いしなぁ……」
「一人暮らしだとマズいことでもあるの?」
「それはあまりに心配でな……言っちゃ難だがエディはいわゆる相当なドジっ子で、砂糖と塩に関しては正しく選ぶことより間違えて選ぶことの方が多いわ、運んだ皿のうち半分は割るわでなぁ……あとはこの辺そこまで治安良く無いだろ? 心配なんだよなぁ……」
お前はお母さんか。
「半分は言い過ぎですよ! 多分……三割くらいです! それに、砂糖と塩だって、二回に一回はちゃんと選べます!」
これは心配。エディ、悪い人に騙されそうだしなぁ……
「……まあとりあえず上がりなよ。中で話そう。」
家に着いたので皆に中に入るよう促す。
「ただいまー。直矢達も来たよー。ん?」
家に入ると見慣れない小学生くらいの男の子が。
「お邪魔しま―――げっ。」
直矢が挨拶をしようとしたところで男の子を見て中断して嫌な声を出す。
「ん? あぁー……」
澄也が男の子を見て苦笑いする。
「あっ、どうも、お疲れ様です! あ、それと、お邪魔します!」
エディはエディで男の子にあいさつをする。
……誰?