毎朝パンツの色を教えるのは変態なのでは?
「ここはこうで、こうなるから……こういうこと。分かった?」
「うん! じゃあ遊んでくる!」
バビューン、と二階の部屋へ向かう幸。
さてそしたら俺は漫画を―――っと、デカい鞄と鍵が必要だって史田の野郎が言っていたか。準備せねば。
「母さん、デカい鞄ってある?」
「大きな鞄? ああ、教科書ね。でも光花や勇牙の話じゃ全部ロッカーに入るって話よ? 必要なものだけ順次持ち帰るだけでいいんじゃないかしら。どうせ一番使う場所は学校なんだから。」
「それならロッカーに入れればいいか。あとダイヤル式の鍵がいるって言われたんだけど。」
「用意してあるわ。去年も一昨年もいるって言われたから、今年は事前に用意したの。これでいいはずよ。」
と渡されたのはダイヤル式の小さな鍵。
「こんな小さくていいの?」
「ええ。逆にあまり大きいと鍵の部分を伝ってロックが開いて普通に開けられちゃうらしいし、このサイズがいいみたい。」
「へぇー。エディの分も必要なんだけど、ある?」
「もちろん、あるわよ。はいこれ。後で渡してあげて。」
二個目の鍵を受け取る。
「ありがとう。ふわぁ、眠い。飯ってまだだよね?」
「そうね、1時間後くらいかしら。」
「じゃあそれまで部屋で漫画でも読んでるわ。時間になったら呼んで。」
「はーい。」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふわ……おはよう。」
「おはよーございます!」
今日もなんとか予定通りの起床。エディが既に起きて着替えているのも同じ。
昨日は結局飯を食べた後すぐに寝てしまった。慣れないことの連続で疲れたのだと思う。
「今日も元気だねエディ……何時に起きたの?」
「1時間くらい前です! 元気が取り柄なので!」
「へぇ……何してたの?」
「今日の支度と、お勉強していました! あ、鍵は楓さんが持っているんでしたよね? それと鞄は必要なさそう?ってことなんですよね?」
「うん。はいこれ鍵。」
昨日母さんにもらった鍵を手渡す。
「ありがとうございます!」
「さてと、着替えないとね。」
エディの前で着替えるのももう慣れた……とは言い辛い。
「エディ……あの、あんまり見られると照れるんだけども。」
こちらを見つめるエディに声をかける。
「え? あっ、ごめんなさい! やっぱりスタイルいいなーって。」
「そうかなー?」
胸とお尻を見る。
胸……はそこそこある。成長薬を飲んだ時のことを考えるとまだまだ育つのだろう。
尻はというと、こちらも若干出ている。
背は低いが……まあスタイルがいいといってもいいのかもしれない。
近くに姉貴がいるのであまり実感はなかった。姉貴は背も高けりゃ脚も長く、出るとこ出て引っ込むところは引っ込むというまさにスタイルがいいという言葉が歩いているような人間なのだ。
「姉貴のがスタイルいいと思うけど。」
「お姉様はそもそも背が違うから参考にならないんです。背がおんなじくらいの楓さんを参考にしようと思って。僕なんて……ほら、」
そう言って自分の体を見るエディ。
なるほど確かに……言っちゃ悪いが全体的に平坦な体だ。
「ま、まあご飯いっぱい食べればそのうち成長するんじゃない?」
生粋の女性でも分からんのにこないだ女体化した俺が胸を大きくする方法なんて知らな―――くもないか。
「そういえば、ホントかどうか知らないけど揉むと大きくなるとかって聞くけどね。」
男が女の子の胸を揉む口実にしている感も否めないが。
まあもしこれがホントならきっとセルフでも効果はあるだろう。
「そうなんですか!? 楓さん!」
バッ、と両手を広げてまるで抱きつかれるのを待つような格好をするエディ。
「……いや、俺は揉まないよ? 男だからね?」
一緒の部屋で寝泊まりしているとはいえそんなことをするわけにはいかない。
「えー。じゃあどうしたらいいんですか?」
「自分でするとか……かな?」
澄也に頼めば喜んでやりそうだけどそれは言わないでおこう。
「ああ、なるほど! 今日のお風呂の時にでもやってみます!」
「姉貴にはそのこと言わないようにね。」
多分すごい勢いで揉むから。
「え、なんでです?」
「なんでも。さ、下行こ。」
理由をぼかしてリビングへ向かう。
「おはよー。」
「おはよーございます!」
「おはよう、楓、エディちゃん。」
母さんが台所から挨拶を返してくる。
「おはよう二人とも。楓、早起きに慣れてきたんじゃないかしら?」
と姉貴。
「まあねー。なんだかスッキリ起きられるようになったし、体質が変わったのかもしれない。」
「それは良かったわ。生徒会長を志す以上、遅刻なんて許されないから。」
「そう言われるとプレッシャーだなぁ……」
中学時代は遅刻回数が3桁に乗っていました。はい。
「おっ、楓はえーな。今日のパンツ何色?」
兄貴が畳んで帯で結われた柔道着を持って聞いてくる。
「言うかこの変態が。」
近くにあったティッシュの箱を投げつける。
「あいたっ! まあいいや、行ってきまーす。」
柔道着だけを担いで家を出る兄貴。
「今日授業あるんだよね……?」
姉貴に聞くと、
「あるわよ。」
とのこと。
「なんで道着以外何も持ってないの……?」
「勉強する気ないからじゃないかしら。全く、この先どうするつもりなのかしら……」
はぁ、とため息をつく姉貴。
確かにアレは心配だ。赤点とかとらないのだろうか。
「あらいけない、もうこんな時間。私ももう行くわ。行ってきまーす。」
母さんに声をかけて家を出る姉貴。
「行ってらしゃい。」
「行ってらっしゃーい。」
「行ってらっしゃいです!」
母さんとエディと一緒に姉貴を見送る。
「今日もご飯はいつも通りでいい?」
と母さん。
「うん。」
「はい、よろしくお願いします!」
「分かったわー。」
手際良く朝飯の準備をする母さん。
「今日は学力テストだっけ。エディ大丈夫?」
まあ、成績に関わるようなモノじゃなさそうだしよっぽど酷い点を取らなければ問題なさそうだけど。俺も何も準備とかしてないし。
「い、一応復習は昨日の夜と今日起きてからしました!」
緊張しますね、とエディ。
「まあ、多分クラス分けとかのためだろうし、そこまで気負わなくてもいいんじゃないかな。」
適当に気を張ればそれで。
「はい、できたわよー。」
母さんが朝飯を運んでくる。
「ありがとう。いただきます、と。……少し急がなきゃかもだ。」
手を合わせてから時計をチラッと見て言う。直矢たちが来る時間が近づいている。
「そうですね、急ぎましょう!」
いただきまーす、とエディ。
その後は特に何も話さずに黙々と食べる。
「ごちそうさまでした。歯、磨いてくる。」
エディよりも先に食べ終わり、洗面所へと向かう。
「ごちそうさまでした! 今日もおいしかったです!」
とエディ。
「あら、ありがとう。さ、エディちゃんも急ぎなさい。」
エディを急かす母さん。
「はい!」
二人並んで歯ブラシをシャコシャコ動かす。
すると、
ピンポーン
呼び鈴が鳴る。
どうやら少し間に合わなかったらしい。
「はーい。」
母さんがドアを開けに行く。
「おはよう、今日も早いわねー。」
「おはようございます。」
「おはようございまーす。お母様は今日もお綺麗で。」
「あらやだ、お世辞を言っても何も出ないわよ?」
直矢と澄也の声が聞こえてくる。
アイツは本当に見境がないな。
「立ってるのも難だし、入って待ってたらどう?」
「では、お言葉に甘えて。」
「お邪魔しまーす。」
どうやら二人が家に上がったらしい。
急いで口をすすいで顔を洗う。
「おはよう、二人とも。待たせてごめんね。」
二人に詫びつつソファに座る二人に挨拶する。
「俺たちが早く着きすぎただけだ、楓が謝ることはない。」
「そそ。楓ちゃんは何も悪くはないさ。いやー、しかし今日も可愛いねえ。」
顎に手を当ててじっくりとこちらを眺める澄也。
「……そんなにジロジロ見られると恥ずかしいんだけど。」
この体に慣れてないこちらとしては半分女装してるような気分だし。似合ってるかどうかで言えば間違いなく似合っているんだけど。
「ああ、失礼。女子高生と親しくなれると思うと今でも嬉しくてねー、ついつい見ちゃうんだ。エディちゃんは?」
「そろそろ来るんじゃないかな。」
歯磨きと洗顔に俺と全く同じ時間かかると仮定すると、とっくに終わってる時間だし。
「ごめんなさい、お待たせしましたー! さあ、行きましょう!」
エディが洗面所から出てくる。
「おう。それじゃあ行くか。」
直矢が立ち上がる。
「それじゃあ、お邪魔しましたー!」
「お邪魔しました。」
母さんに挨拶する二人。
「ええ、行ってらっしゃい。何も出せなくてごめんなさいねー。」
「いえいえ、座らせていただいているだけで十分ありがたいですよ。どうぞお構いなく。」
では、行ってきます、と母さんに頭を下げる直矢。
「行ってきまーす。」
「行ってきます!」
俺たちも母さんに挨拶する。
「ええ、二人とも気をつけてね。」
どうも、イガイガ栗(爆死神)です。本当は昨日投稿する予定だったのですが、予約投稿をし忘れてしまいました申し訳ありません。先月は体調のいい日が少なかったので投稿数も少なめで3話です。もっと書ければ良かったんですけど……申し訳ありません。
短いですが3日間、楽しんでいただけると幸いです。




