姉貴は演説が上手い
すいません! 昨日予約投稿し忘れました!
「おっ、史田がいるってことは……A組か。追いついちまったな。」
神田先生が生徒を連れてやって来た。
「あらら、追いつかれちゃいましたか。」
たはは、と笑う史田。
「言っとくが、お前がチンタラしてっからだかんな? さっさと次の場所に行けよな。……というか、なんでバナナの皮なんか持ってんだ?」
「ああ、これですか? ホームルーム中に食べたやつです。教室のゴミ箱に捨てようとしたら臭うからやめろって……神田先生は捨てられる場所のアテとかあったりします?」
「ホームルーム中に食っただぁ?」
神田先生の目つきが変わる。
「お前なぁ、生徒に禁じてることを教師が破っていいと思ってんのか? ホームルーム中に飯を食ってはいけないなんて、誰もが分かることだろ!」
史田の襟元を掴んで前後に揺らす神田先生。
相変わらず乱暴な人だ。
周りの生徒もざわついている。
「苦しい苦しい! いや、だからその後ホームルームすぐに終わらせて生徒が並ぶ間に食べたし、ちゃんと教室のゴミ箱に捨てたりもしてないんですって!」
「生徒を並ばせるのはァ!」
神田先生は頭を後ろに振り、
「オメーの仕事だろうがァ!」
史田に強烈なヘッドバット。
額を押さえてそこらじゅうを転げ回る史田。
滅茶苦茶痛そう……
史田はしばらく転げ回り、そのまま遠くへ転がって行き、
「ニコチンが切れたのでちょっと休憩してくるわ! お前らちゃんと教室戻れよ!」
立ち上がり、こう言って走り去ろうとしたが、
「逃がすかこのシャバ僧がァ!」
神田先生のドロップキックが決まり、
「勝手に、休憩時間を、作るなァ!」
よく分からないプロレス技らしきもので固める。
「痛たたた! ロメロ痛い! 誰か助けて!」
史田が周りに助けを求めるが、教師が教師にプロレス技をかけているという異様な光景に皆戸惑うばかりで、誰も何もできないでいた。
と言うかそもそも全面的に史田が悪いので助ける理由もあまりないというか。
「直矢、アレって痛いの?」
持ち上げられてるだけに見えるし、特にどこが痛いのかよく分からない。
「ああ、食らったことはないが痛いらしいぞ。肩周りがな。ロメロスペシャルとか、釣り天井固めって呼ぶんだけどな。」
なんて話していると、
「ふう、疲れた。定められた休憩時間以外はタバコは禁止だ、分かったか!?」
ロメロスペシャル?を解いて、史田に言う神田先生。
「そんなー。」
当たり前のことなんだけどなあ……
「……ん?」
ここで周りから注がれる恐怖の混じった視線に気づく神田先生。
「あー、これはーだなー……こいつがあまりにもだからってだけで、生徒にやったりするなんてことは有り得ないから安心してくれ! 皆礼儀は大切に、な!」
にっこりと笑う神田先生。しかし、な!の部分での目は笑っていなかった。
怖い……
「おーいたた……さて、そしたら次でラストだ。視聴覚室だな。C組の邪魔にならんうちに退散するぞー。」
起き上がって肩を回しながら言う史田。
はーい、とか分かりました、とか皆それぞれ返事をする。
「じゃ、行くか。」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここが視聴覚室。なんかビデオとか見るときに使う場所だな。後は1学年のみとか体育館に集まるほどの人数じゃないときに集まったりする。ま、意外と使うし覚えといてくれ。案内はこれで終了だ。体育館行くぞ。」
タバコ吸いてえなーと呟く史田。
その史田に引率されて歩いていると、
「楓ちゃんが握手会?するのってここだよね?」
とさやかちゃん。
「えっ、なんでそれを!?」
ビラもらった中にいたのかな。
「クラスで話題だったよー。」
「そうなんだ……」
嬉しいような嬉しくないような。いや、嬉しくないな。
「あ、そういえば、お兄ちゃん、多分握手会のスタッフとして来るよ。」
まだ決まってはいないけど、多分来るでしょ。
「え、ホント!? 行く行く! 行くわ私!」
「うん、ありがとう。お兄ちゃんにはどう紹介したらいいかな?」
段取りはあまり把握してないけど、握手会の前後なら時間も取れるだろう。
「ううん、女は度胸! ここは直球勝負で行くわ! 楓ちゃんはクラスメイトが話したがってるって話す場合を作ってくれればそれでいいわ。そういえば今更なんだけどお兄さんの名前って?」
意外な度胸を見せるさやかちゃん。まあ、こちらとしてはその方が楽でいいのだが。
「勇牙。勇気の勇に牙。性はもちろん私と同じ新条ね。」
「新条 勇牙さん……いい名前ね!」
なんて話していると、
「はい、到着ー。」
体育館に到着した。
「えー、K新条と愉快な仲間達はこっち。それ以外は俺の指示に従うように。」
ニコチンが切れてきたな、と天井を見上げる史田。
体育館ステージの裏に案内される。
「あー、緊張してきた……なんでこんな大事なこと事前に教えてくれなかったんだよ……」
「いやー、申し訳ないことに気づいたのが昨日の深夜でね。拝借した日程表に目を通していたら、小さく書かれていてね。恐らく史田先のミスか、そもそも二、三年生にのみしか演説の情報がいって無かったんだろうねー。」
僕が優秀で良かったねえ、と澄也。
まあ、その通りなんだけど、自分で言うか普通……
「あ、そうそう。別に今公開する必要はないんだけど、役職の予定としてはエディちゃんは字が綺麗だから書記、僕は計算が得意なので会計、直矢は庶務ね。」
「なんで俺が庶務なんだ。」
ムッとして直矢が言う。
「さっき言った通りだよ。エディちゃんよりも字が綺麗ではない。計算も僕ほどはできない。そして会長職は楓ちゃんのもの。残るのは庶務だけだぜ?」
と澄也。
「むぅ……まあ、今はこんな話をしている場合じゃないな。出番のようだぞ、行ってこい、楓。」
直矢の言う通り、直矢の言葉の後すぐに呼ばれる。
「え、えーっと、演説を始めます! 名前は―――」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「め、滅茶苦茶緊張した……」
なんとか演説を済ませた。結果は……可もなく不可もなく、と言ったところだろうか。
「次はあね……お姉ちゃんの番か。」
誰がどこで聞いてるとも限らない。なるべく目立ちたくないのだ俺は。生徒会選挙に立候補しておいて何を、という話だが、それはそれ、これはこれ、ということで。
「お疲れ様楓ちゃん。そうだね、次はお姉さんの番みたいだ。注意して聴こうか。」
「そうだね。」
◇◆◇◆◇◆◇◆
姉貴と他の立候補者が演説を終え、教室に戻っている。
結果を言えば、演説自体ではこちらの圧倒的敗北。姉貴のマニフェストは(俺たちのものと比べれば)地味なので、そこも含めれば五分五分と言ったところか。それほどまでに姉貴の演説は威力があった。
「大した演説だったな。やはり前生徒会長の貫禄といったところか。」
と直矢。
「だなー。これはマニフェストの追加を考えないといけないかもだ。」
と澄也。
「どんなものを追加するんです?」
とエディ。
「まあ、定番ではあるけど目安箱とかでいいんじゃない?」
無難だしね、と澄也。
「後は握手会で選挙に興味のない層をどれだけ取り入れられるかが重要になるねー。頑張ろう!」
「うん。」「ああ。」「はい!」
それぞれ返事をする。
「さて到着だ。あ、そうだ、お前ら、俺ニコチンを定期的に摂取しないと死んでしまう病気だからホームルームの前にタバコ吸ってきていい? すぐ戻るから、じゃあな!」
教室に到着するなり、普段のダルそうな態度からは考えられない俊敏な動きで走り去る史田。
「おい待て……チッ、逃したか。廊下で教師を蹴り飛ばしたとあっちゃ事情がどうあれ選挙はいい方向に転がりはしないからな。仕方ない、待つか。」
と直矢。
「はあ、羨ましいなぁ。」
と小声で澄也が。
「我慢しろ。」
そのうち平気になる、と直矢
「だといいけどねー……」




