自称美少女
「よーし、そしたら早速ポスター貼りにビラ配りだ!」
と、その前に、と続ける澄也。
「まずはモノを印刷しなきゃね。プリンター借りられるよね?」
「え、どうなんだろう。」
借りられるもんなのか? まあ、自前で用意しろってのも酷な話だけども。
「すいませーん、プリンター借りていいですか?」
澄也が部屋の中に入って聞く。
「Printerデスか? ありますケド……Ah! 選挙活動に使うんデスね!? それならNo problemデス! データありマスか? 操作はこちらで行うので渡して下サイ!」
「はいもちろん。よろしくおねがいします。ポスターとビラ、両方のデータが入ってるので、両方お願いします。」
データが入っているのであろうUSBを手渡す澄也。
「ドーモ! じゃあ印刷して来マスね!」
「しかし、よくもまああの短時間でポスターとビラなんて作ったな。」
後ろで腕を組んで直矢が言う。
「どんなの作ったの?」
「こんな感じ。」
澄也がスマホを出して見せてくれる。
笑顔の俺とエディが写っている。
ポスターとしては、目を引くデザイン、読みやすい内容、伝えたい内容がしっかり伝わる書き方。どこを見ても短時間で作ったとは思えないクオリティだ。
これから自分の載っているポスターを貼ると思うと少し、いやかなり気恥ずかしいが。
「おお、見やすい。」
「まあそこは僕、優秀ですから。」
フフン、と胸を張る澄也。
この一言が無ければ本当に優秀な人間だなってなるんだけどなぁ。
「Hey, 印刷し終わりマシた! 部数はこれくらいで大丈夫デスか?」
輪道先生が紙の束を持ってやってくる。
「あ、どーも! えーっと、1、2……はい、大丈夫です! ありがとうございましたー。」
澄也が紙の枚数を数えて輪道先生に挨拶をする。
「ありがとうございました。」
「どうも。」
「ありがとうございましたー!」
俺と直矢、エディも挨拶をしてその場を後にする。
「ビラはどんなのにしたの?」
ポスターは見せてもらったけど。
「ビラかい? こんな感じだよ。」
ほらこれ、と一枚の紙を渡される。
内容は……
「美少女と握手会をしよう!?」
政策の下に俺とエディの写真があり、その隣にそんな文言が。ビラによると今日だけ開催するらしい。
聞いてないぞこんなこと!
「うん。まずは顔を覚えてもらうのが最重要だからね。折角楓ちゃんもエディちゃんも可愛いんだ、その容姿を使わない手は無いでしょ。」
あ、あと女子需要に僕も握手会するよ、と澄也。
見ると確かに横に小さくイケメンもいるよ、という文字が澄也の写真と共に載っている。
「いやいやいや。」
確かに今の俺は自分でも認める可愛さではあるし、エディも可愛い。だからといってアイドルじゃ無いんだから握手会って……第一、自分で美少女って言ってしまうのがもうどうなんだという。そもそも人は来るのか? いくら可愛いとはいえただの一般人だぞ?
「ま、他に顔を覚えてもらうために有効な手があるならそっちにしてもいいけど、僕の考える限りこれが最善だと思うけどねー。演説とかしても聞き流す生徒が大半だと思うし。」
「……まあそれは確かに。」
校門で演説とかしてても顔も見ないで通り過ぎるな……
「その点、握手会は可愛い女の子目当てに来てるわけだし、顔は確実に覚えるよね。政策に興味ない層を取り入れるいい手だと思うけど。」
「うーん……」
確かに、俺がやりたくない、という点を除けばいい案な気がしてきた。
「あ、直矢はいわゆる剥がしね。長く話してる人がいたら引き剥がして次の人と替わらせて。」
「まあいいが、三人分はできんぞ……」
俺の体は一つだ、と直矢。
「そこなんだよねー。やっぱ直矢でも無理?」
「投げ飛ばしていいなら可能だが。」
「それはダメだね。」
と澄也。
ダメだな。
「困ったなー。こう、都合よく言うこと聞いてくれる屈強な集団がいればいいんだけどなー。」
楓ちゃん、心当たりない?と澄也。
「あー……まあ、無くはない、かな。」
一人の人間の顔が頭に浮かぶ。
「おっ、誰誰?」
「兄貴とその部員たち……つまり柔道部。」
兄貴に頼めばとりあえず兄貴は手伝ってくれるだろう。そうなれば柔道部員も多少手伝ってくれやすくなるはずだ。問題はお礼に何をするかだが……
「ふーむなるほど。問題はお礼をどうするか、だね。流石にタダでやってもらうワケにいかないし。」
俺と同じことを考える澄也。
「それなら、マネージャーをやるって言うのはどうですか? 探していたみたいですし。」
一昨日誘われました!とエディ。
「うーん、部活との掛け持ちは難しいんじゃないかな……でもそうか、マネージャーを探しているのか……あ、それなら。」
パッと顔を上げる澄也。
「マネージャーを斡旋するって言うのはどうかな? 当然、確約はできないけど、上級生からの勧誘以外に背中を押すものがあればマネージャーが入る確率は高くなるだろうし。」
クラスメイトに勧めてみよう、と澄也。
「ふむ、まあいいんじゃないか? マネージャーに限らず部員を斡旋すべきだとは思うが。」
誰にも迷惑はかかってないしな、と直矢。
「そうだね。別にマネージャーに限定する理由はないか。」
と澄也。
「よし、やることは決まったね。さて、そしたらポスターを貼るのと、ビラを配るのとに別れなければいけないんだけど、どうしようか?」
「俺がポスターを貼ろう。握手会をするならする人間がビラを配る方がいいだろう。お前らはビラを配ってこい。」
一人でもなんとかなるだろう、と直矢。
「じゃ、そうしようか。基本どこに貼ってもいいらしいから、目立つとこにお願い。」
はいこれ、とポスターを直矢に渡す澄也。
「おう分かった。ホームルームに遅刻はするなよ。」
じゃあな、とどこかへ行く直矢。
「じゃあ僕らは校門前でビラ配りだね。はいこれ。」
ビラを渡される。
「ホントにコレ配るの……? 恥ずかしくなってきた……」
コレを配ると自称美少女になってしまう……いや、可愛いんだけども。
「気にしない気にしない。さ、行こうか。」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「生徒会選に出馬します、よろしくお願いしまーす。」
「このビラで放課後握手会できるのでよかったらどうぞ!」
「生徒会選挙に出るからよろしくー。あ、僕と握手したかったら放課後に視聴覚室前に来てね!」
校門に着き、各々ビラを配る。
「あ、どうも。君と握手できるの?」
ビラを受け取った生徒が言う。
「あ、はい。放課後に。」
「へえー。俺、君に入れるよ!」
「ありがとうございます!」
じゃあねー、と校舎へ向かう生徒。やはりこの作戦、有効なのかもしれない。
「へえ、部費が3割増しねー。俺、君に入れようかな。うちの部、部費カツカツだし。」
「私、食堂のメニュー、少ないなって前から思ってたの! メニューが増えるならあなたに入れようかなー。」
そのまま結構な人数に配ったが、皆好印象。政策の方向性も間違っていなかったようだ。
「さてと、そろそろ引き上げようか。」
澄也が声をかけてくる。
時計を見ると、ホームルームが始まる5分前だ。
「そうだね、行こう。」
「ほら、エディちゃんも。」
「はい、分かりました!」
返事をするエディ。
そのまま全員各々の鞄を持ってその場を後にした。




