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ナイトというにはあまりにアグレッシブ

「んー、無いなぁ。」


広告のプリンはどうやら売り切れていたようで、棚に見当たらない。


「プリン、好きなのか?」


「いや別に。ただ広告見たらなんだか無性に食べたくなって。」


「そうなのか。時間がある時に言ってくれれば作ってやるぞ。」


「え、直矢お菓子も作れるの?」


料理とお菓子作りって割と別物なイメージだけど。


「ああ。お菓子は子供受けがいいからな。」


「子供受けって、そんなに子供と接する機会多かったの? なんか幸と話してる時も子供の扱いが上手いなとは思ったけど。」


「俺は元々この世界の住人でな、見た目の通り日本人で日本に住んでいたんだ。俺はジジイ―――まあ祖父なんだが―――と住んでいてな。ジジイは道場を開いていて、俺も道場の手伝いをしていたんだが、そこには子供が結構習いに来ていたから、自然とな。」


「へぇー。じゃあ、戦う技術もお祖父さんに?」


「まあな。戦闘以外はてんでダメで、家事もしないし、酒が大好物のどうしょうもないジジイだった。お陰で家事が得意になったわけだが。」


「そうなんだ。」


ダメな点ばかりを挙げているが、どことなくお祖父さんへの愛情を感じる話し方だ。


「まあ、俺のつまらん話はここまでにして、さっさと買い物を済ませよう。そろそろ補導される時間帯だしな。」


「そうだね。えっとじゃあ……これにしようかな。えーと、家族の分と、あ、エディの分も忘れちゃいけないな。」


選んだのはちょっと高めの焼きプリン。カラメルの香ばしい香りが楽しめそうなプリンだ。それを人数分買う


「ふむ…… 少し待ってくれ。朝は米派なんだが、炊飯器も冷蔵庫も無いからな。当面の間は食パンとジャムで済まそうと思う。一番安いジャムは―――」


ジャムの棚をじっくりと眺める直矢。


マジで金ないんだな……


「ウチにあるお金使うのはダメなの?」


大金渡されたけど。


「確認はしていないが、まあダメだろうな。そんなことが許されるならそもそも支給金を絞らないだろうし。」


「そっか……」


まあそれもそうか。じゃなきゃ妨害する意味がない。


「さて、会計してくる。」


「あ、俺もしなきゃ。」


二人でレジに並ぶ。


「楓、別に今の一人称が悪いとは言わんが、目立ちたくなければ外では一人称を改めるべきだと思うぞ。」


「あーそっか。」


「俺」は目立つか。人と話す時は意識して変えてたけど、事情を知っている人間と話すときはつい素が出てしまうな。気をつけないと。


「じゃあ……私?」


「それが無難だろうな。」


「気をつけるようにするよ。」


そう言った後、レジが空いたので会計を済ませる。


「さてと、送って行こう。」


同じく会計を済ませた直矢が言う。


「ありがとう。」


わざわざ送ってもらうのは少し心苦しいが、あんなことがあった後だし直矢の厚意に甘えるとしよう。


二人で店の外に出るとヤンキーのリーダーはまだのびたままだった。


「生きてるんだよね……?」


直矢はそのうち起きるとは言っていたが、やはり少し心配になってしまう。普通に死んでもおかしくない勢いだったし……


「なんだ、こんな不良のことを心配してるのか? 大丈夫だ。」


そう言うと直矢はリーダーの胸ぐらを掴んで無理やり起き上がらせると、パシパシと往復ビンタをし始めた。


「おーい起きろ。」


「そんな乱暴な……」


「のびてるやつを起こすにはこれが一番手っ取り早いからな。」


「そうなんだ……」


そのまましばらくビンタをすると、


「ん、んん……うおっ! やめろ!」


リーダーが目を覚まし、目の前の直矢に驚いた後、直矢の手を振り解き、走って逃げていった。


「リベンジする気概もないとは、やはり群れるだけが能の雑魚だったな。」


フッ、と鼻で笑う直矢。


「いや、あんな目に遭ったら誰でもこうなるって……」


喧嘩の原因はあっちとはいえ、バッチリとバックドロップ食らったからな……


「まああんな奴はどうでもいい。ところで、風呂上がりか?」


「うん。なんで?」


「いや……湯冷めが心配でな。」


「あ、うん。心配どーも。」


しっかり拭いたから大丈夫!なはず。


「でもどうして分かったの?」


「シャンプーの香りが……いや、気にするな。」


「え、何?」


よく聞こえなかった。


「ともかく、家に向かうぞ。」


「了解ー。」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「ただいまー。」


「お帰り、遅かったわね。って、あら直矢君じゃない。」


母さんが出迎えてくれる。


「こんばんは。」


挨拶をする直矢。


「どうして一緒に?」


「なんか、ヤンキーに絡まれて困ってたところを助けてもらったんだ。」


母さんの疑問に答える。


「ほほう。ほほーう。なるほどねぇ。」


急にニヤつき始める母さん。


「な、なんだよ。」


ロクなことない気がするが。


「楓、直矢君に守ってもらったんでしょ? それって、なんだかナイトって感じじゃない? お姫様に使えるカッコいい騎士様! いいじゃない楓!」


手を合わせて言う母さん。


「ちょ、そんなんじゃないって……直矢だって仕事だからやってるんだろうし……でしょ?」


勝手にそんな関係にしないで欲しい。直矢だって迷惑だろう。


「……まあ、な。」


そっぽを向いて言う直矢。


さっきからなんでそっぽばかり向いているんだろうか。


「ふーん……ほほーん……」


相変わらずニヤつきながらこちらをじっと見る母さん。


「とにかく、俺はもう部屋戻るから! 直矢、明日七時ね! おやすみ!」


母さんの視線に耐えられなくなり、一方的な挨拶をして、部屋へ向かう。


「おう、おやすみ。そしたら俺も帰ります。お邪魔しました。」


直矢の母さんへの挨拶を聞きながらリビングへと入った。


「あ、お帰りなさいー。目当てのものはありました?」


とエディ。


「一番食べたかったのは無かったから、別のプリン買ってきた。」


袋からプリンを取り出して姉貴とエディに見せる。


「あら、美味しそうね。」


「美味しそうですね!」


と姉貴とエディがそれぞれ反応する。


「全員分あるよ。はいこれ。残りはとりあえず冷蔵庫入れとくね。幸と兄貴は?」


三人分のプリンをテーブルに置いて残りを冷蔵庫に入れる。


「幸は寝たわ。勇牙は部屋で宿題やってる。」


「兄貴が勉強?」


珍しい。


「ええ。なんでも、今回宿題提出しないと部活停止にされるとかなんとかで、今思い出したって慌てて部屋に向かったわ。」


「なるほどねー。」


兄貴らしい。


「まあ後30分もすれば、分からないって私に泣きついてくるだろうけど。」


「あー……」


その光景は何度か目にしたことがある。


「ま、とりあえず私たちはこれを食べましょうか。」


「そうだね。」


「はい!」


三人でそれぞれのプリンの蓋を開ける。


そしてスプーンで一口掬って、


「んー、うまい!」


これが食べたかった!


「美味しいですねこれ! とても大量生産品とは思えない……文明がいい具合に発展してるって素晴らしいですね!」


「そうね、とても美味しいわ。」


それぞれ一口食べて感想を言い合った後は、黙々とプリンを食べる。


「明日から毎日早起きか……憂鬱だなぁ。」


「あら、でも今日は普通に起きてきたじゃない。」


「まあねー。」


今日みたいにスッキリ起きられるのがこれからも続けばいいけど。


「朝、苦手なんですか?」


「うん、かなり。」


早起きという行為が世界で一番苦手な行為だと思う。


「まあ、女性になったことで体質も変わったと思いますし、意外と大丈夫かもですよ!」


それでダメなら僕が起こしますし!とエディ。


「まあそれならいいんだけど。さて、そしたら歯磨いて俺はもう寝るよ。」


「僕はもう少し課題進めてからにします!」


「私も自分の勉強とか、エディちゃんと勇牙の勉強みたりとかしなきゃだし、もう少し起きてようかしら。」


「まあ無理しないでね。特に姉貴は。」


日々睡眠時間が短いというのは寝ないとダメな体質の俺からするとかなり心配だ、と歯ブラシをシャコシャコ動かしながら考える。


「大丈夫、言われなくとも自分のキャパシティは把握してるつもりよ。」


「ならいいけど。」


それにしても、明日から高校生というだけで不安なのに、女性として過ごさなければならないということまでついてくると、かなり不安だな……まあ、あんまり考えても仕方ない。なるようになるさ。


口をすすいで部屋へと向かった。

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