ジャスティスプログラムは神
「さて、どこまで聞いてる?」
ザイセリアで席について開口一番、直矢が聞いてくる。
「まあ一通りは。」
母さんと姉貴に聞いた話をそのまま伝える。
「大体合ってるな。質問あるか?」
「一緒に入学するってマジなの? 高校生にはあまり見えないけど……」
エディはともかく男二人は少なくとも高校一年生には見えない。おっさんってわけでもないけども。新社会人、って感じ?
「ああ、そこは安心してくれ。見た目は15歳に調整する。」
なるほど。カミサマだもんね。
「で、なんでも言うこと聞いてくれるって?」
「まあ上司の命令に反さない範囲かつ常識の範囲内で、だがな。まああまりに高校生活が楽だとわざわざ女に変えた意味が無いから、楽しすぎると上から色々制限を受ける可能性はある。あとは上から不定期で命令があると思うから俺たちが同行するのはそれを伝えて、可能な内容なら補助する役目も兼ねている。」
と直矢。
「まあ要するに最初に言った常識の範囲内で、ってところに尽きるかな。簡単な使いっ走りくらいならこの直矢が爆速で行ってくれるさ。」
と付け足す澄也。
まあ、こんな便利な能力を持ったやつらが言うこと聞いてくれるなら結構楽な学園生活になるんじゃないですかね。
「なんで俺なんだ。」
ムッとした様子で聞く直矢。
「え? だって僕は行きたくないしそれともエディちゃんに行かせる気? 女性をパシリにするのは僕は気が引けるなぁー。」
「……まぁエディは間違えたもの買って来そうだし、行くなら俺かお前か……」
渋い顔をする直矢。
二人の上司なんじゃないのか?
「というか、そんなの神の力使えばすぐなんじゃないのかしら?」
姉貴が聞く。
俺もそう思う。
「それなんだがな。残念ながら俺たちの能力は殆ど没収される。上司がズルはダメだよ、だとか言ってな。」
「マジかよ!?」
楽しようと思ってたのに。
「さっきも言ったがあまり楽されても困るしな。」
見透かされている。というか楽しちゃダメみたいなのもそうだけどそもそも俺をこんなんにした目的って何なんだ?
「まあ安心してよ。僕は天才だし、直矢は強いし、エディちゃんは可愛い! 大抵の問題は解決できるさ!」
と澄也。
自分で天才って言っちゃうのか……あとエディが可愛いのは同意するがそれは問題解決能力とどう関係が……
「こんなこと言って実際優秀なのがこいつのタチが悪いところなんだよな……ん?」
げんなりする直矢をエディちゃんが突っついて何やら小声で言っている。
「ああ、そうだったな。お前……あー、楓でいいか? 楓のお母さまと姉のアンタにはもう詫びの品を渡したが、お前にはまだ渡してなかったからな。これを貰ったら嬉しいってことになってるはずなんだが……」
直矢が空中に手をかざすと大きな紙袋が二つ現れる。
「……俺が欲しいもの?」
まあ色々あるけど、スパッと思いつくほど欲しいものはないけどなぁ……
「これは僕が調べて手に入れたんですよー!」
フフーンといった感じで胸を張るエディ。
可愛い。
「えーっ! そうなの!? 偉いわエディちゃんー!」
手放しで褒める姉貴。せめて中身見て俺が喜んでからにしろ。
「このゲームが好きなんて通だよねー、楓ちゃんも。」
と澄也。
俺が好きなゲーム……。通……。この大きさ……まさか!
「あ、開けていい?」
手に入らなかったのが大分前だったから浮かばなかったけどアレだったら滅茶苦茶嬉しいぞ!
「もちろん。僕もこのゲーム好きだから今度一緒にやろうよ。」
澄也の答えを聞いて紙袋の中を見ると!
「おお!」
これは!
「GCモデルのQS4とアケコン!」
GUILTYCORE、通称GC。ジャスティスプログラムから出ているシリーズものの対戦格闘ゲーム。元はアーケードで現在はQS(Quantum Sensation)シリーズへの移植も販売されていて、最新作はアーケードとQS4で出ているGUILTYCORE CHAOTIC VORTEX(略称GCCV)で、QS4発売とほぼ同時に発売された作品である。そしてそのタイミングで発売されたのがこのQS4 GC Editionと公式アーケードコントローラーのFalcon GC Editionである。
ジャスティスプログラムの格ゲーは基本好きなんだけどGCは世界観とストーリーも合わせて好きで一番好きな作品なんだよなぁ。これが出たときは金がなくて泣く泣くあきらめてたんだよなぁ……滅茶苦茶嬉しい。
「おお、喜んでる。良かったな、合ってたみたいだぞ。エディ。」
「良かったです! いやー、大変だったんですよこれ手に入れるの! 澄也さんがこういうのは能力でコピーしたものじゃなくてしっかり公式が出したものがいいって言うから、ネットオークションとかで探して見つけて買ったのを新品状態に戻したんです! なのでちゃんと本物ですよ、楓さん!」
「え、マジ? てことはナンバリングもしっかりあって同じナンバーのはこの世にないってこと? 滅茶苦茶嬉しいんだけど……」
確認すると、確かに42と67の番号がそれぞれの箱に書いてある。
この二つのアイテムはどっちも百台限定生産で全部にナンバリングがされてあるから、ある意味一つ一つが世界に一つなんだよな。
「まあ迷惑かける詫びというかでこれをやることにした。これと引き換えということでいいか?」
直矢が聞いてくる。
「……嫌だつっても拒否権はないんでしょ?」
これは嬉しいがそれはそれこれはこれ。……モノに釣られて納得したみたいに思われたら嫌だしな。
「まぁな。」
「じゃあまあ……貰えるなら貰っとくよ。」
「嬉しいのにそれをひた隠しにする美少女……尊い……」
姉貴が何か言ってるけど無視する。
「さてと、そしたら学校に挨拶に行くか。荷物は部屋に送っておく。確か叔父が校長やってるんだろ? 一言言っておいたほうがいいだろ。」
「よくお調べで。」
その通り、これから通う高校は叔父さんが校長を務めているのである。単に近いからって理由で決めただけで受験も裏口みたいなのではなくて普通に勉強して受けたんだけど。ちなみに姉貴も兄貴も同じ学校。
「制服は用意してもらえるの? 用意してもらえないんなら叔父さんに言わなきゃだけど……」
と姉貴。
確かに。制服変えなきゃならないのか。
うーんスカート。嫌だなぁ……
「ああ、それはこちらで用意するので心配しなくて大丈夫だ。澄也、学校の位置を教えてくれ。」
「すぐそこだね。ここの裏。」
ホントに近いんだよね。
「分かった。アンタも来るのか?」
「行くには行くんだけど残念ながら私は私で別の用があるから学校に着いたらそこでお別れね。ホント残念だわ……」
じっと俺とエディを見る姉貴。
「俺とは後でいくらでも会えるだろ。エディとだってそこそこ会えるだろうし。」
俺と一緒に入学するなら姉貴からしたら弟の友達ポジションになるわけだし同じ学校に通ってるんだからちょくちょく会うでしょ。
「あの、エディちゃん? 写真! 写真撮っていいかしら! 記念に! ほら! ね!?」
本当に残念らしくデジカメを出して写真を撮ることを懇願する姉貴。
「いいですよ! 澄也さん、撮ってくれます?」
快諾するエディ。あまりの純真無垢さにこの変態を隣に並べてよいものか悩むところである。
「任しといてよ! カメラ預かりますね。はいはいお姉さん寄って寄ってー。はいチーズ!」
カシャっとツーショットを撮る澄也。
「いやありがとうありがとう! こんな美少女とツーショット撮れるなんて夢のようだわー! これでこれからの作業も捗るってもんよね!」
目を光らせて言う姉貴。
ホントに好きなんだなぁ……
「さてと、行くか。澄也。」
伝票を澄也にパスする直矢。
「はいはい。」
澄也がレジへ会計をしに向かう。
「なあ、えーっと……直矢、でいいのか?」
席で待つ間に直矢に尋ねる。
神を呼び捨てってのもどうなのかって気もするからなぁ。まあその神をパシリにできるらしいんですけど。
「ああ構わない。どうした?」
「直矢って、俺とか姉貴にはやたら威圧的なのにうちの母さんにはやけに丁寧なのはどういうわけ?」
気になってたんだよね。
まさか澄也みたいにうちの母さんを狙って……?
「年上だし、いきなり押しかけてしまっていたからな。お邪魔してる立場ならああいう言動がいいと思ったまでだ。」
「へぇー。」
って
「年上?」
神って人間より遥か長く生きてるイメージなんだけど。
「ああ。俺は見た通りの年齢だぞ。カミサマとはいえ俺は下っ端だしな。」
「ふーん……」
てことは二十代ってとこ? 若いなとは思ったけど。
神にも下っ端とかあるんだなぁ……
「まあカミサマの世界にも色々あるってことだ。ほら、行くぞ。」
会計が終わったらしい澄也が合図をして俺たちを呼び寄せている。
「威圧的なつもりはないんだがな……」
「何か言った?」
小声で直矢が何か呟いていたがよく聞こえなかった。
「いや何も。」
それだけ言ってスタスタ歩いて行ってしまった。
相変わらず不愛想な奴だ。