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なんか無性に特定のものが食べたくなる時ってあるよね

言われるがままに作った料理だったが思いの外好評で、皆満足してもらったようでよかった。その後、俺は皿洗い、エディは姉貴に勉強を教わり、幸はテレビでアニメを見て、兄貴は筋トレをしていた。


「やっと終わった……」


6人分の皿洗いは流石に骨が折れた。ウチは皿洗いは当番制なので毎日やらなくていいことが救いだ。


「お疲れ様。初めて人に料理作ったと思うけど、どうだった?」


早めの風呂から上がった母さんが聞いてくる。


「んー、ぶっちゃけ面倒臭いなと思ってたけど、美味しいって言ってもらえるのは嬉しかったかな。兄貴なんかは食べっぷりもいいし作り甲斐があるよね。」


「そうねー。勇牙はなんでも美味しいって言ってくれるし、作る側としてあれほど嬉しい食べ手ってのもいないわよねー。」


「そうだねー。じゃ、俺風呂入ってくるわ。」


服を取りに部屋へ向かおうとすると、


「私も入るわ!」


と姉貴が。


「いや、もう一緒に入る必要もないし入らないって。」


前回は必要だったから渋々一緒に入っただけであって。


「ええー、そんなー。姉妹なんだから、別にいいじゃない!」


入りましょー、と纏わりついてくる姉貴。


「ああもう鬱陶しい。入らないったら入らないんだよ! 明日から高校生だぞ!」


中身は男子だし!


「そう、JK。楓は明日から華の女子高生……」


フフフ、と笑う姉貴。


「ガワだけは、ね。」


女子高生と呼ばれると自分の性別が変わってしまったことを改めて実感させられる。


本当に滅茶苦茶な話だ。


服を持って洗面所へ向かう。


「にしても……」


自分の体を褒めるのも変な話だが、本当に美人だ。サラサラの銀髪、透き通るような白い肌。宝石のような碧眼。スタイルも少々控えめではあるが、それでも十分に出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。


昨日は姉貴たちのせいでそれどころじゃなかったりそもそも水着着用だったりで気にならなかったが、健全な男子高校生の精神にはこの体の裸体は刺激が強すぎる。


「……まあ、入るか。」


気にしていても仕方ないし、とりあえず三年間付き合う体だ。慣れないといけない。


しかし、明日から生徒会選挙に向けて本格的に活動しなきゃいけないのか……憂鬱だ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふう、風呂空いたよー。ドライヤーってどこ仕舞ってたっけ?」


パジャマに着替え、部屋へと戻る。


「ドライヤーなら洗面所の引き出しよ。」


と姉貴。


「あ、そうだったんだ。取ってくる。」


洗面所へとUターン。


「お風呂上がりの美少女……素晴らしいわ……」


はぁ……とため息をついて姉貴が俺を見つめてくるが無視する。


ドライヤーを取ってリビングのコンセントに差し込み、髪を乾かし始める。


「髪長いと乾かすの面倒だなー……短くしようかな。リンスシャンプーも楽になるし。」


腰まである髪の毛を乾かすのは中々に骨が折れる。


「だ、ダメよ楓! それはダメ!」


「そうだよ楓お姉ちゃん! 折角綺麗なのに!」


俺の呟きに対して即座に大きな声で反対する姉貴と幸。


「え、そうなの?」


そんなに大事なことなのか?


「そうなの。いい? 今の楓は完成された美術品のようなものよ。いえ、成長の余地が無いって言いたいわけじゃなくて、そこについては全く違うのだけれど。ともかく、そんな完璧なバランスを崩しちゃダメよ。そんなに綺麗な髪を切ってしまうのはとても勿体無いわ! とても似合ってるもの!」


「でも重いしなー。」


首が凝るんだよね。


「ファッション的な理由ならともかく、そういった理由だったら切っちゃダメよ! 何度も言うけど本当に似合ってて可愛いんだから!」


「そ、そう……」


手放しで褒められて少々照れる。


ここまで言われてしまうと、流石に切ることに罪悪感を感じてしまう。仕方ないので切るのは諦めることにする。


「幸、お風呂入って来なさい。」


母さんの声で幸が洗面所へと向かう。


見送りながらドライヤーで髪を乾かし続ける。


それにしても、髪を乾かすのって本当に面倒だな。


「エディ、課題進んだ?」


「数学?以外は結構進みました! 数学、難しいですね……」


「まあ、ちょっとずつ頑張りなよ。」


掛け算から始めるんじゃ、流石にまだ数学を解く段階にはいけないだろうし。


「でも、エディちゃん覚えがいいわよ。もう九九は半分暗記したものね?」


と姉貴。


「え、だって今日まで掛け算に触れた頃もなかったんじゃないの?」


半分って結構あるぞ。


「はい! 覚えるのは得意ですので!」


とエディ。


「すごいじゃんエディ!」


俺は暗記が苦手だから羨ましい。


「頑張ります!」


フンス、と机に向かうエディ。


「まあ、程々に頑張って。」


髪も乾いたのでソファに寝転がりスマホをいじる。


と、広告に目が止まる。


極上コク旨プリン!


「ねえ、プリンって家にあったっけ?」


なんだか無性に食べたくなってきた。そんなに間食する方じゃなかったんだけどな。


「プリン? 無いけど。食べたいの?」


と母さん。


「うん。なんか無性に食べたくなって。買ってこようかな。」


「ちゃんと着替えて行きなさいよ。」


「あ、やっぱり着替えなきゃダメ?」


一気に面倒臭くなってきた。前までは寝巻きでも上着着て普通に出かけてたんだけどな……


「当たり前じゃない。」


「んー……まあじゃあ着替えて行くよ。」


自分の部屋に向かい、適当な服に着替える。


「じゃ、ちょっと行ってくる。なんか買ってくるものある?」


玄関で部屋の皆に声をかけて出ようとする。


「じゃあ折角だしプリン、皆の分も買ってきて。お金はこれ使っていいから。それじゃ気をつけて。」


と一万円札を渡す母さん。


「え、じゃあ俺の分も出してくれるってこと?」


「もちろん。お金ももらったし、これくらいなら全然大丈夫よ。」


「おー、ありがと。ラッキー。」


プリンって意外と高いし、それが浮くのはラッキーだ。


「俺もついて行こうか?」


と兄貴。


「大丈夫。何かあっても直矢にもらった防犯ブザーがあるし。」


いつでもどこでも直矢呼び出しマシーンがあるので。


「そっか。なら大丈夫か。」


じゃあ俺は筋トレの続きをするぜ、と言ってリビングへ戻る兄貴。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「なあ、いいじゃん、一緒に来なよ。」


「ちょっと用事があるので、ごめんなさい……」


「忙しいなら夜にコンビニ寄らないでしょ。悪い風にはしないからさー。」


現在の状況を整理する。近所のコンビニに来た俺だが、コンビニの前にたむろしていた学生服のヤンキーたちに止められ、言い寄られている。これは単純に俺の容姿と運が招いた結果なのか、それとも最高神の差し金なのか。本当のところは正に神のみぞ知るといったところだ。


しかし、今時制服のままコンビニの前にたむろなんてするかね。しかもそのままナンパって。時代錯誤もいいとこだ。


囲まれて逃げるにも逃げられない状況なので防犯ブザーのピンを抜こうとすると、


「楓、知り合いか?」


直矢が声をかけてきた。


呼び出すまでもなかった。


「いや、初対面。なんか声かけられて……」


「そうか。おいお前ら、楓が困ってるから失せろ。」


冷たい目でヤンキーを睨む直矢。


直矢はこういう奴ら嫌いそうだしなー……


「お前さ、知り合いだかなんだか知らないけど人数見て言ってる? 俺ら五人なんだけど。」


リーダー格っぽいヤンキーが返答しながら仲間に合図をすると、ゾロゾロと動き、あっという間に直矢を囲む。


「何人集まろうが雑魚は雑魚だろ。」


フッ、と鼻で笑い、ヤンキーを見下す直矢。


直矢が強いのは知っているけど、5人相手に挑発するのはどうなんだ……?


「なんだと!? お前ら、やっちまえ!」


直矢の挑発に怒ったリーダーは仲間に指示を出す。


それを聞いたヤンキーたちが直矢に近づく。


「いい機会だ楓、一つ教えてやろう。」


ピン、と人差し指を空に向けて立てる直矢。


「こういう時はな、」


リーダーの左のヤンキーの腹に肘を入れ、そのまま右のヤンキーに回し蹴りを放ち、


「よっこら―――」


素早くリーダーに近づくと、そのままリーダーの背後に回り、プロレスのバックドロップの要領でリーダーを持ち上げ、


「―――しょっと。」


後ろに投げた。


リーダーはコンクリートに頭をぶつけて気を失ったようだ。


「アタマを派手な技で潰すと―――」


「中島さん!」


「容赦ねえ!」


「こいつヤバいぞ!」


「に、逃げろ!」


口々に思ったことを言い、逃げ出すヤンキーたち。


「ブチのめす手間が省けるんだ。」


「そ、そうなんだ……」


俺には一生役立てることが出来なさそうだ。


「しかし、気絶したのを放置したまま置いてかれるなんて、コイツ人望が無いんだな。」


「だ、大丈夫なのその人……」


結構な勢いでコンクリートに頭ぶつけてたけど。


「んー……大丈夫だ。調べたが、そのうち起きる。」


「そっか……あれ。」


直矢の言葉を聞いて、足の力が抜け、座り込んでしまう。


「大丈夫か。まあ、素人とはいえ男五人だ。恐怖を感じるのも無理はない。気を張り詰めていたのが切れて腰が抜けたんだろう。」


「そう、なのかな……」


大丈夫と思っていたとはいえ、自分でも気付かないうちに恐怖を感じていたらしい。


「しかし、こんな時間に出歩くとは、不用心だぞ。」


俺が通ったからいいものの、と続ける直矢。


「うん、ごめん、ありがと。」


「何しに来たんだ?」


「なんか、どうしてもプリンが食べたくなって……ちょっと買いに。」


「そうか。それくらいなら連絡してくれれば買ってきてやったのに。」


「それは……流石に悪いなと思っちゃうし。」


電話でパシるのは流石にね……


「まあ、そうか。ともかく、最高神のこともある。遅い時間に一人で出歩かないこと。いいな?」


「うん……ところで、直矢は何しにコンビニに?」


「ん? ああ、明日の朝飯を買い忘れていてな。」


「なるほど。」


「さて、地べたにずっと座っているのも良くない。ほら、立てるか?」


直矢が手を差し出す。


「ありがと。よいしょ、っと。手、でかいな……」


それにゴツゴツしている。男の時の俺の手を比較しても男らしい手だ。


「まあな。」


そっぽを向いて頬をかく直矢。


「さて、プリン買って帰ろっと。」

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