意外と料理の才能が……いや別に普通だな
申し訳ありません、間違えて予約投稿ではなく直に投稿してしまいました。次は予約投稿で7時に投稿するようにします。
「うう……漢字が多い……」
大量の漢字の問題を前に頭を抱えるエディ。
「まあこればっかりは覚えるしかないしねー……」
俺も漢字は苦手だが、15年以上日本人として過ごし、義務教育を受けてきた以上、ある程度は身についている。そういった人間が対象の漢字の課題は今までほとんど漢字に触れてこなかったエディには酷なのだろう。
「頑張ります……」
うー、と唸りながら机に向かうエディ。
「そういえば、数学はどうなの? 分からないって言ってたけど。」
「よく分からないんですよね。どういうものなんです?」
「んーと……なんて言ったらいいかな。文字通り数字についての学問なんだけど……」
「数字ですか……足し算と引き算ならできますよ!」
自信げに言うエディ。
「……掛け算と割り算は?」
「よく分かんないです。使うんですか?」
これは……かなりまずいかもしれない。
「使うというか、基本というか……もっと難しいことの方が多いかな……」
算数のレベルだったとは……
「えー!? もっと難しいんですか!? できるかなぁ……」
「まあ、勉強すればできるようにはなるんじゃないかな。今まで使う機会はなかったの?」
「計算が必要な時は澄也さんにお願いしてましたし、必要になることはなかったですね……」
「なるほど……」
澄也の世話焼きが原因か……
―――というか、
「直矢たちはこれやらなくていいのかな?」
そもそもプリントを受け取ってないんじゃないか?
「あー、それなんだけど、冬士が届けておいたって言ってたわよ。まあ、冬士のことだから自分で届けてはないでしょうけど。」
と母さん。
「そうなの?」
まあ常に忙しそうな人だけど。
「ええ。エディちゃんの分だってドローン?で届けてきたくらいだし。」
「そうなんだ……」
ドローンって確か勝手に飛ばしちゃいけないんじゃなかったっけ……? まあ法律を守るような人でもないか。
「ところで、楓今暇?」
「まあ暇だけど……」
なんか手伝わされそうな感じだ……面倒臭いな……
「じゃあ、夕飯の買い物行くから付いてきて。」
やっぱりかー。
「えー。荷物持ちなら兄貴のが役に立つでしょ。」
自慢じゃないが今の俺はか弱いのだ。
……自分で思って悲しくなったが。
「何も荷物持ちで付いてきて欲しいわけじゃないわ。楓がいいお嫁さんになるための修行の一環よ。ま、付いてきてもらうからにはついでに荷物持ちもしてもらうけれど。」
「いいお嫁さんって……嫁に行く予定は無いんだけど……高校三年間過ごしたら元に戻るつもりだし。」
「高校三年間の間に女性として生きていきたくなったら戻らないわけでしょ? やって損はないんだし付いてきなさい。」
「ええー。」
そんなことにはならないと思うけどなぁ……
「いいから、付いてきなさい。大体、いい食材を見分けるスキルは何もお嫁さんに行かなくてもあれば便利じゃない。」
「それはそうだけどさぁ……」
面倒臭い……
「付いてこないと来月のお小遣いナシよ。」
「……分かったよ。」
小遣い0は流石に辛い。
「じゃ、準備して。服着替え時なさい。それと、今日割と寒いわよ。」
「え? さっきまではそんなでもなかったけど。」
「日が暮れてから寒くなったのよ。お姉ちゃんの上着出すわね。」
「ありがと。」
母さんが二階に行く。
「エディ、俺いなくても課題進められる?」
「はい! 分からなかったらお兄さまに聞くので大丈夫ですよ!」
「あー……んー……それはやめた方がいいかも……」
兄貴アホだからなぁ……
「お、お兄さま……」
兄貴は兄貴で勝手に感動している。
「そうなんですか?」
「うん。まあ、電話で直矢か澄也かに聞けばいいんじゃないかな。」
同じ課題持ってるはずだし。
「じゃあそうします。」
「じゃ、着替えてくる。」
階段を上がり、自室に入る。
「さっき着てたのでいいか。」
制服を脱ぐ。
「楓ー? これサイズ合うか着てみてもらってもいい?」
母さんが部屋に入ってきた。
「ちょっ、ノックくらいしてよ!」
下着姿なんだけど!
「あらごめんなさい。それにしても肌綺麗よねー。羨ましいわー。」
母さんが背中に指を這わせる。
「うひゃいっ!? ちょっと、やめてくれよ!」
ゾクッとする!
「ごめんごめん、楓の肌があまりにも綺麗なものだからついね。あ、これ上着ね。サイズ合わなかったら言って頂戴。」
「はーい。」
母さんが部屋を出て行った後、昼間の服を着て渡された上着を見る。
「おっ、カッコいい服。」
Ma-1とかいうんだったかな。緑色の襟が寝た感じのパイロットが着るような上着だ。まあ、これは見た目が似ているだけで薄いから実際のモノとは違うだろうけど。
羽織ってみると、サイズはちょうどよかった。
階段を降りると準備万端の母さんが。
「サイズは良さそうね。さ、行くわよ。」
「はーい。」
◇◆◇◆◇◆◇◆
やってきたのは近所のスーパー。野菜やら肉やら魚やら、まあ大体の食材は揃いそうな大きめの店だ。
「まず野菜! 今日はレタスを買うけど―――」
レタスの選び方について沢山の情報を教えてくれる母さん。
「今日は、ってもしかしてこれから毎日やるの?」
「そりゃもちろん。」
「えー。姉貴とか幸はどうなのさ。」
俺だけ買い物に付き合わされるのはなんだか納得がいかない。
「お姉ちゃんはもう大体分かってるし、幸だって中学に上がったら教えるつもりよ。中学のうちから教えるのがウチの教育方針だから、楓は三年遅れてるの。毎日やっても足りないくらいよ。」
「そう……」
これから毎日と思うとなんだか気分が落ち込んでしまう。
毎日家事をやってもらっている身でこんなことを言うのはワガママかもしれないが、家事全般嫌いなんだよなぁ……掃除とかも、やれと言われればやるけど言われなきゃやらないし。
「まあ、家事全部やるのは生徒会やったりするんだと時間が足らないだろうし、最低限料理とそれに付いてくる買い物くらいはね。」
「料理もやるのかー……まあ、そうだね、やるだけやるよ。」
男でも料理できた方がモテるって言うし、気持ちを切り替えて前向きに向き合うことにしよう。
「じゃあ次はお肉よ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ただいまー。」
両手に持った食材を玄関に置く。
重かった……人数が多いのと兄貴が大食いなせいで二人で持ってなお大荷物になってしまった。
「お帰りなさいー!」
「おう、お帰り! 母ちゃん、今日のメシはなんだ!?」
「鶏モモの塩焼きよ。勇牙好きでしょ?」
「おう、大好き!」
兄貴はなんでも好きな気がするけど……
「しかも今日は……楓の手作りよ!」
母さんの言葉に、
「おおー!」
テンションの上がる兄貴。
「まずくても許してね……」
料理の経験なんてせいぜい調理実習くらいなので。
「楓が作った料理にまずいなんて言うわけねーだろ!」
と兄貴。なんとも心強い。
「じゃあ、早速作っていきましょう。あ、その前に髪、後ろで括りなさい。それとエプロンね。」
ヘアゴムとフリルのついた可愛らしいエプロンを渡される。
「髪はいいとしてこのエプロンは少し抵抗が……もっとシンプルなのないの?」
「それが一番かわ―――それしかないわ。早くしなさい。お姉ちゃんも幸も帰ってきちゃうわよ。」
「……はーい。」
何やら聞こえた気がするが、こうなった母さんどうしようもないので渋々エプロンをつける。
「そしたらまずは―――」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「こうなったらもう焼けるのを待ったら一口大に切るだけよ。」
「マジで? 意外と簡単だね。」
塩振ってグリルに突っ込んだだけだけど。塩の量も言われた通りにしただけだし。
「そりゃあ最初の料理だもの、簡単なメニューにするわよ。」
「それもそうか。」
まあなんとかなってよかった。
なんてホッとしていると、
「「ただいまー。」」
姉貴と幸が帰ってきた。
「あれ、二人一緒に出かけてたの?」
姉貴は友達と買い物とか言っていた気がするけど。
「いえ、違うわ。帰り道でたまたま一緒になってね。」
「いい匂い! あ! 楓お姉ちゃんエプロンしてるー! 楓お姉ちゃんが作ったの!?」
「まあね。作り方教えてもらいながらだけど。」
「エプロンにポニーテール……素晴らしい、素晴らしいわ……」
姉貴が写真を撮り始める。
「ちょっ、毎回そうだけど勝手に写真撮るなよな!」
「仕方ないじゃない。こんな素晴らしい光景を残さないなんて人類の損失よ!」
「あっそう……」
なんだかスケールのでかいことを話し始める姉貴。
なんだか抗議するのも馬鹿らしくなってきたので好きにさせる。
「さてと、そしたら食べましょうか。楓、盛り付けはできるわね? 切って盛り付けて頂戴。あ、付け合わせのレタスも忘れずに。」
「はいはい。」
「はいは一回!」
「はーい……」
やっぱり料理って面倒だ……




