他人の恋バナ蜜の味
2021-05-20 改稿
「じゃ、また明日。」
「また明日ー!」
エディと一緒に部屋を出ようとすると、
「おう、また明日。迎えに行くから七時過ぎには準備してろよ。」
「えー、もうちょい遅くても……」
入学式八時からだし……
「時間に余裕を持つのは人間の基本、それは学生であろうと変わらん。生徒の代表である生徒会長を目指す以上、その辺はキッチリしてもらうぞ。」
有無を言わせぬ態度で言う直矢。
「分かったよー……」
直矢の言っていることはもっともだし、何よりあの圧力で言われたら同意せざるを得ない。
ああそれと、と付け足す直矢。
「これ、鞄と二人の制服だ。中に制服が入っている。帰ったら試着しておいてくれ。万一にもサイズが合わないということはないと思うが、もしそうなったら連絡してくれ。」
革でできた鞄を二人分渡してくる直矢。
「ありがとう。それじゃ、今度こそまた明日。」
「また明日ー!」
「おう。」
「じゃあね二人とも……制服姿楽しみにしているよ……」
額を抑え、寝転がりながら元気のない声で言う澄也。
まだアイアンクローのダメージが抜け切らないようだ。
今度こそエディと一緒に部屋を出る。
「制服ってどんな感じでしょうね! 可愛いのかな……?」
とエディ。
「可愛いらしいよ。色の使い方が評判なんだとか。」
ぶっちゃけ俺からするとそんなに違いは分からないんだけど。
「そうなんですね! 楽しみですー!」
なんて話していると、
「おっ、楓にエディちゃんじゃん。今帰りか?」
向かいの方向から歩いてきた兄貴が話しかけてきた。
隣には2メートルあるんじゃないかという巨人が。
「うん、帰り。兄貴も帰り? 家通り過ぎてるけど……」
制服を着ているので学校からの帰りのはずだが、直矢の家と学校は俺の家から見て真逆の方向。学校帰りの兄貴と直矢の家からの帰りの俺はすれ違うはずがないのだ。
「おう! ラーメン食ってから帰ろうかと思ってな!」
コイツのウチでな、と兄貴。
「そうだ、そっちの人は?」
制服を着ているので同じ学校の生徒なんだろうけど、あまりにもでかい。
「ん? ああ、コイツは熊沢 強! 同級生で同じ部活の友達だ!」
「熊沢強だ、皆からは熊さんなんて呼ばれてる。よろしく、えー―――兄貴って言っていたから勇牙の妹さんかな?」
「はい、そうです。新条楓と言います。よろしくお願いします。」
差し出された大きな手と握手する。
……めちゃくちゃでかいな。
「えっと、そちらは?」
エディに目を向ける熊さん。
「えっと、二人の従姉妹の新条エディです! よろしくお願いします! うわぁ、大きな手ですね!」
熊さんと握手して驚いたように言うエディ。
「よく言われるよ。ところで勇牙、お前の家系ってこんな感じだったっけ……?」
兄貴に質問する熊さん。
確かに銀髪碧眼に金髪赤眼だからなー。
「あーそれね。んー、俺もよく分かんねーんだけど……どうなってるんだっけ?」
俺に聞いてくる兄貴。
まあ把握してないのも仕方ないんだけど、もう少しいい感じにこっちに回せなかったのか……?
「えっと私は先祖返りとかっていうので、何代か上の人がこういう見た目の血筋で、それが大きく出たみたいです。それで、エディは単純に両親のうちウチの家系と別の人の方が外国人でハーフってだけです。」
「なるほどなぁ。しかし、質問ばかりになって悪いが、勇牙お前、こんな大きい妹いたっけ?」
「あー、それはだなー……」
困った顔でこっちを見る兄貴。
「ちょっと前まで別のところに住んでいたので、知らないのも無理ないですよ。」
と誤魔化す。
「ふむ。そう言うことなら納得だ。ところで君たち年齢は? 見たところ中学生か高校生かってところだが……」
「二人とも明日からウチのガッコの生徒だ!」
と兄貴。
「おお、てことは俺らの後輩になるのか。改めてよろしくな、楓ちゃんにエディちゃん。」
「はい、よろしくお願いします。」
「よろしくです!」
そうだ、と兄貴。
「一緒にラーメン食うか? ラーメン。コイツん家ラーメン屋なんだけど、滅茶苦茶美味いんだよ!」
「おいおい勇牙、女の子にラーメンを勧めるのはどうなんだ? このくらいの女の子はスイーツとかが好きなんじゃないのか?」
なあ?と熊さん。
「あ、いえ、好きですよ? ラーメン。ただ、夕飯が入らなくなりそうなので……」
残念だが断る。兄貴はラーメン食おうが何しようが入るだろうけど。
「ラーメン……ラーメン……」
人差し指をこめかみに当てるいつものポーズで何やら考え込むエディ。
「どうしたの?」
「あ、いえ、そのー……ラーメンって食べたことないなと思って。」
そんなに美味しいんですか?とエディ。
「ええ、ラーメン食べたことないのかいエディちゃん! そりゃあ是非ともウチで食べてってもらわんとな! 二人で一食でいいし、それでも多ければ勇牙に食わせてもいいからウチに来たらいい!」
と熊さん。
確かにそれなら入りそうだ。
「それなら、お言葉に甘えて……エディもいい?」
「はい! 楽しみです!」
「それじゃ、皆で行こう!」
ラーメンラーメン、とウキウキした様子で続ける兄貴。
兄貴はいつでも幸せそうだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「いらっしゃい! あら、強。誰だい? その可愛い子たちは?」
忙しそうな店内に入ったところ、歓迎してくれたのは俺より背の低い女の子だった。
……お店のお手伝い? それにしては他の大人がいないような……
「おお母ちゃん、この子たちは勇牙の妹と従姉妹らしい。帰り道で会ってな、折角だからってことで連れてきた。金髪の子はラーメン食べたことないらしいから、とびきり美味いのを頼む。」
なるほど母ちゃん。……って、
「母ちゃん!?」
どう見ても幸と同じかそれより少し上くらいにしか見えないんだけど!?
「ああ、驚くのも無理ないよな。こんなに小ちゃいが、この人が俺の母親、熊沢 紗子だ。」
「あ、いや、すいません、失礼しました。」
驚いてつい大声をあげてしまった。
「全く、小ちゃいは余計だよ。強、アンタは着替えて厨房入りな。今ちょっと忙しいから。」
「はいはい。つーわけだ、まあ存分に味わってくれ。」
そう言い残すと熊さんは奥のスペースへと入っていった。
「ラーメン、楽しみです! 席は……あそこが空いてますね!」
「待ってエディ、こういうお店では先にこの機械で食券を買って注文するんだよ。」
席に座ろうとするエディを止める。
「なるほど! えっと……味がいっぱいあるんです?」
券売機を見つめて言うエディ。
醤油、塩、豚骨、味噌、確かに色々ある。
「エディの好きなのでいいよ。あ、兄貴は何にするの?」
「俺は豚骨! 男ならこれだろ!」
財布を出して食券を買う兄貴。
いや、別に豚骨好きじゃない男もいると思うけど……俺も豚骨は好きだけどさ。
「えっと、じゃあ僕たちのは味噌でいいですか?」
「いいよ。味噌はイソフラボンが入ってるから、でしょ?」
朝言ってたからな。
「その通りです!」
分かってますね!とエディ。
「でも澄也はどんなおっぱいでも好きって言ってたけどね。」
ボソッと呟くと、
「な、なんでそこで澄也さんが出てくるんですか!?」
明らかに動揺するエディ。
「エディは記憶にないみたいだけど、小ちゃいエディ、澄也大好きだったし、エディは澄也のことが好きなのかなーって。」
食券を買って紗子さんに渡しながら聞く。
ちょっと意地悪だったかな?
「……す、好きですけどぉ。」
真っ赤な顔で言うエディ。
なんと、図星か。……いかん、少しにやけてしまう。他人の恋の話がこんなに楽しいとは。
「どんなとこが好きなの?」
「い、いつも優しいところとか、いざとなると頼りになるところとかぁ……」
俯きながらも言うエディ。
か、可愛い……
「直矢はどうなの?」
直矢もなんだかんだ世話好きで優しいし、頼りになるのは言わずもがなだと思うんだけど。
「うーん、好きですけど、そう言う感じじゃないっていうか……なんでかは分かんないですけど、澄也さんがその、す、好き……なんです。」
「へぇー。」
ニヤニヤが止まらん。恋する乙女とはこんなにも可愛らしいものなのか。
「え、何、エディちゃんあのメガネ好きなの?」
兄貴が耳打ちしてくる。
直接聞かない程度のデリカシーは持ち合わせているらしい。
……いや、俺は直接聞いてしまったしこんなこと偉そうに言えないんだけど、そこはほら、ルームメイトで(体は)同性ということで。
「……いや、そういうわけではないかな。」
とりあえず誤魔化しておく。
兄貴は秘密を守るのが世界一下手だからな。
「そっか。ならいいんだ。もしそうだったら俺はあのメガネと戦わなければいけなかったからな……」
「え、なんで?」
なんで?
「そりゃ、ウチに住んで従姉妹を名乗るんだったらエディちゃんは俺の妹も同然だからな。妹と付き合う男は俺より強くなきゃダメだ。」
自分の言葉に自分で頷きながら言う兄貴。
……幸の彼氏は苦労しそうだ。俺も幸が彼氏なんか連れてきたら冷静ではいられないとは思うが。
ストックが無くなったので毎日投稿は一旦停止となります。再開は来月の頭の予定です。感想など、いただけるととても励みになり、書くスピードも上がるので、よければ感想を送っていただけると嬉しいです。恐らく毎日投稿の期間が延びます。よろしくお願いします。




