肩出しはセクシー
2021-05-13 改稿
「さて、着替えて来るかな。」
寝間着―――この服はパジャマと言うべきか。のままだと姉貴がうるさいし、どちらにせよ出かけるのだから着替えないわけにいかない。
「あ、僕も着替えます!」
「じゃあ、エディ先着替えていいよ。俺待ってるから。」
無視されがちだけど中身は男なので。
「え、別に一緒でいいですよ?」
「いや、それは……」
やはり無視される子この事実……いやまあ、エディは男の姿の俺をほとんど知らないから仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。
「一緒に着替えてきなさい楓。同室なのに毎回別々に着替えてたんじゃ不便すぎるわ。もうすぐ直矢君たちも来るだろうし。」
と母さん。
「そうですよー!」
エディも同意する。
「それはそうなんだけど……」
ピンポーン
エディと話しているうちに約束の時間になったらしく、インターフォンが鳴る。
「ほら、直矢君たち来ちゃったわよ。早く着替えてきなさい。」
「行きましょう楓さん!」
「えー……」
エディに手を引かれて部屋へ行く。
なし崩し的に一緒に着替えることになってしまった……
「俺、こっち向いてるから……」
部屋の壁を向いて言う。
「別に大丈夫ですよー。同じ部屋で水着にだって着替えたじゃないですかー!」
「俺は見てないし……」
「もー! お母さまの言う通り毎回これじゃ不便すぎます! しっかり! 見てください! 僕は気にしないので! これから毎日見るんですから慣れてください!」
ほら!と肩を掴まれてエディの方向を向かせられる。
そこには下着姿のエディが……
「いや、うーん……」
目をそらしながらうなる。
仰る通りなんだけどね……便利不便の話じゃないというか……
「そしたら楓さんも脱いでください! 見られるのにも慣れないと! これから学校で女の子と一緒に着替える場面なんていくらでもあるんですから!」
「そうなんだけど……」
下着までならまあいいけどさぁ……
渋々パジャマを脱ぐ。
「あ、楓さんナイトブラしてるんですね。脱がないと。」
いうや否や俺のブラを上に引っ張り上げるエディ。
「ちょちょちょ、待って待って! 下着までで勘弁してよ!」
「ダメですよー。学校でだってプールがあったら隠すとはいえ全部脱ぐんですし。それに、僕にだけでも下着の下まで見られることに慣れないと不便ですよ。ほらほら、直矢さんたちも待ってますし早く着替えましょう!」
「分かったよ……」
全部言ってることは正しいので渋々ブラを脱ぐ。
しかし、男の感覚だと上なら見られても構わないはずなのに何故こんなに恥ずかしいのやら……
「えーっと服は……これか。」
こちらも姉貴に用意してもらった服を着る。
今回はブラに慣れていないということでキャミソールとかいう肩の部分が細いタンクトップのような服が下着で、その上に肩が完全に出たセーター(ニットっていうんだっけか?)。下は相変わらずスカート。今日はちょっと長めだけど。……しかしこれ、肩出過ぎでは?
「可愛いですよ楓さん!」
「これ肩出過ぎじゃない?」
鎖骨もガッツリ出ていて少々恥ずかしい。
「大丈夫ですよー。セクシーで素敵ですよ!」
「そうかな……」
まあ、鏡を見た感じ、似合ってはいる。正直可愛い。
一方のエディはというと、襟の丸いシャツにニットのベスト。下はフリルのついたスカートといった可愛らしいファッション。
まあ、こういう可愛らしいのよりはいいかな……
「これじゃ寒いよなー。」
何か合う上着……これでいいか。
取り出したのはジージャン風の薄めの生地の上着。
……女性モノのファッションはあまり分からないが、大きく外しているということはないだろう。
「僕はこれ着ていこうかなー。」
エディはどこからか取り出した(生み出した?)フェルト地の襟のない上着を羽織る。
女の子女の子した可愛らしいファッションだ。
「さて、行きましょう!」
「そうだね。」
エディと一緒に部屋を出て階段を下りる。
「おはよー。悪いお待たせ。」
「おはよーございまーす!」
リビングに入って部屋にいた直矢と澄也に挨拶をする。何故か直矢は皿を洗っている。
「おお、やっと来たか。おはよう。」
「おはよう二人とも! いやー、今日も今日とて可愛いね!」
今日も今日とてヘラヘラしている澄也が言う。
「なんで直矢皿洗ってんの?」
割と面倒くさがりな母さんだが、客に皿洗いさせるほどではないはずだ。
「なんだか座っているだけってのはどうも落ち着かなくてな。お母さまに頼んで代わってもらったんだ。」
働き者すぎる。
「本当に悪いわね、直矢君。ゆっくりしていてもよかったのに。」
と母さん。
「さてと、丁度皿洗いも終わった。行くか。」
布巾で皿を拭いて乾燥台へ置く直矢。
「うん。家近いの?」
「ああ。歩いて5分くらいだな。」
「近っ!」
すぐそこじゃん。
「いやー、一日で物件を探すのは苦労したよー。なるべく楓ちゃん家に近い方がいいと思って何件かハシゴしてね。」
「ああ、中々疲れたな。特にコイツを父親扱いしなければならないところが疲れた。」
靴をはきながら二人が言う。
「お疲れ様。というか、家の賃貸に詳しくないんだけど、契約してその日に入居できるもんなの?」
難しそうだけど。
「そこも苦労の原因だな。無理言って即入居させてもらった。」
「なるほどねー。」
「で、一晩たっていいアイディアは浮かんだか?」
直矢が聞いてくる。
「うーん、あんまり。」
そもそも学校のことを知らないのだから浮かびようがない気もする。
「あ、僕いいアイディアありますよ!」
とエディ。
「おっ、どんなのどんなの?」
澄也が聞く。
「トウヒョーしてくれた人にお礼を配るのはどうですか!? お礼がもらえるなら皆トウヒョーしてくれると思うんです!」
「あー、エディちゃん、それはルール違反なんだ、残念ながら……」
苦笑いしながら澄也が言う。
それができたらどんなに楽か……
「えー!? そうなんですか!? いいアイディアだと思ったんだけどなぁ。」
ショボン、とするエディ。
「直矢たちは?」
いいアイディアが思いついているといいけど。
「まあ、0じゃない。」
と直矢。
「アイディアの素はたくさん収穫できたよ!」
天才だからね!と付け加える澄也。
「アイディアの素……?」
なんだそれは。
「ま、家に着くまでお楽しみ、ってね。」
ウィンクをする澄也。
だからウィンクなんてされても嬉しくないんだってば……
「情報量が多いからな、落ち着いて見られるところで見るべきだ。」
「なるほど。」
それなら納得だ。
「っと、はい到着ー。ここが僕らの家さ!」
澄也が手を広げて紹介する。
一階部分は狭い間隔で配置されたドア、錆びついた階段、その先には寄りかかったらそのまま下に落ちそうな柵、そして一階と同じ狭い間隔のドア。
これはいわゆる―――
「ボロアパート?」
「そうだな。近さと、後はあまり家賃の高いところに住んでも学生らしくないしな。」
と直矢。
なるほど確かに。
「ていうか、そもそもなんか上からの補助金絞られるらしいんだよねー。」
澄也が付け加える。
誰の意図かすぐに分かってしまう……
「……どこの情報だ?」
「最高神さんからメールでさっき。」
やっぱり最低だアイツ……
「参ったな……」
「いやー、安アパートで良かった!」
「そうだな……」
「まあ二人とも、上がって上がって。まだ部屋には何もないからお茶の一つも出せないけどさ。」
こっちこっち、と階段を上がって案内してくれる澄也。
「「お邪魔しまーす。」」
部屋に入ると、なるほど確かに何もない。一応古めかしいちゃぶ台が申し訳程度に壁に立てかけてある。
「澄也、当面の準備金は出るのか?」
「額は目減りするけど一応は。流石に準備金無しじゃ色々大変すぎるからねー。家具家電買わなきゃいけないわけだし。テレビとかはともかく冷蔵庫くらいは欲しいしねー。あ、テレビは無くてもネット回線は必須だけどね。」
「いるか? そんなもん。」
「いるに決まってるだろ! 今時ネット無しで生活してるのなんてお年寄りくらいのモンだよ!」
それはどうなんだ……?
「俺はほとんど使わないが……」
おかしいのか?という顔で言う直矢。
まあお前は使わないだろうな……
「それは直矢の生活がジジイなだけだろ!」
「そう、なのか?」
「まあ、少なくとも典型的な若者ならネットは使うよね……」
直矢に聞かれて答える。
今時ネット使わない若者は少数派だよな……
「でも機械は爆発するからなぁ……」
「だから大抵の機械は爆発しねーよ!」
困った顔で言う直矢にツッコミを入れる澄也。
直矢のこの思い込みはなんなんだ……




